人馬一体とはまさにこのこと『シービスケット』(ゲイリー・ロス監督作品) | Eagle-eyed Cinema Review-鷲の目映画評-

Eagle-eyed Cinema Review-鷲の目映画評-

イーグルドライバーの観た映像作品について、あれこれ書いて行きます。
主に「洋画」ですが、ジャンルにはあまりこだわらず、インスピレーションで拝見する作品を選んでいます。
海外の「ドラマ」も最近は気になります。

『シービスケット』(原題:Seabiscuit /2003年アメリカ/141分)

監督・脚本:ゲイリー・ロス

原作:ローラ・ヒレンブランド著『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説(原題:Seabiscuit: An American Legend)』

製作:キャスリーン・ケネディ、フランク・マーシャル

製作総指揮:トビー・マグワイア、ゲイリー・バーバー、ロジャー・バーンバウム、アリソン・トーマス、ロビン・ビッセル

音楽:ランディ・ニューマン

撮影:ジョン・シュワルツマン

編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ

出演者:トビー・マグワイア、ジェフ・ブリッジス、クリス・クーパー、エリザベス・バンクス、ゲイリー・スティーヴンス、ウィリアム・H・メイシーら

100点満点中84



 アメリカ合衆国の大恐慌直後の社会を舞台に、実在した競走馬とこれを育てた3人の男たちの姿を描いたヒューマンドラマです。

 私のような競馬に無知蒙昧な鑑賞者でも、十二分に感情移入できる感動作品で、ローラ・ヒレンブランドの書いた小説『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説』が原作となっています。主演のトビー・マグワイアが製作総指揮の筆頭にいて、元々彼のやりたかった企画だったんだなとうかがわせる作品です。

 最後まで通して観ると、大恐慌で自信を失いかけた米国民に希望を与えたエピソードとして、「1度や2度の失敗や挫折でも諦めることなく、(または、見放すことなく、)可能性を信じてチャレンジすること、(または、チャンスを与えることが)肝要である。」というメッセージが貰えます。・・・なので、昨今の混沌とした経済状況の中で、薄ぼんやりとしか見えない庶民の頼りない希望に、明るい光を灯してくれる勇気を与えるような作品と言えます。


*「シービスケット」・・・(Seabiscuit、1933年 - 1947年)アメリカ合衆国で生産・調教されたサラブレッドの競走馬。1930年代競走生活を送っていた馬で、馬体が小さく、気性の浮き沈みが激しく、競走嫌いな性格のせいで不遇を託つものの、アメリカの自動車販売業者、チャールズ・スチュワート・ハワードが馬主となり、お抱えの調教師、ロバート・トーマス・スミスの型破りな調教法により、次第に競走嫌いを変えていき、1936年以降、快進撃を続け、マッチレースで三冠馬ウォーアドミラルを破るなどの活躍を見せた。

 監督のゲイリー・ロスはカリフォルニア州ロサンゼルス出身の脚本家でもあります。トム・ハンクス主演の『ビッグ』(1988年)で脚本を、ジェニファー・ローレンス主演の『ハンガー・ゲーム』では監督と脚本を努めました。




 主演のトビー・マグワイアは「“レッド”ジョン・ポラート」を演じます。この役は、幼少期は裕福な家庭に育ち、父の意向で乗馬を覚えましたが、父の破産により、厩舎で働くようになった青年で、賭けボクシングのファイターとして、日銭を稼がなければならないような苦しい生活をしていたようです。知人を後見人にすることを条件として、仮設移動競馬場でクォーターホース競馬の騎手となり、その後、「ロバート・トーマス・スミス」調教師との出会いから、「シービスケット」の騎手となりました。

マグアイア本人は、かつての「スパイダーマン」ことピーター・パーカー役で有名ですね。



 共演のジェフ・ブリッジスは「チャールズ・スチュワート・ハワード」を演じます。この役は、所持金のたった21セントを元手に西部のサンフランシスコに、単身移り住み、自転車修理工場を開いた実業家です。この頃、西部にも発明されて間もない自動車が普及し始めましたが、当時の自動車は高い・遅い・壊れやすい・危ないと非常に評判が悪く、アフターサービスも充実していなかったため、似たような業種の自転車修理店には故障した自動車がよく持ちこまれていました。彼はこれを商機と考えて、デトロイトにある自動車メーカーのひとつビュイック・オートモービルのサンフランシスコにおける独占販売権を手に入れ、一気に財を築きます。しかし、その後の大恐慌で窮地に陥ると、馬主として競馬にのめり込み、所有する牧場は彼の競走馬を繋養する場ともなりました。ブリッジス本人は、もう結構なお年ですが、両親も兄も俳優の俳優一家に生まれ、2009年公開の『クレイジー・ハート』でアカデミー主演男優賞を受賞しています。



 同じく共演のクリス・クーパーは『トム・スミス』を演じます。この役は、野良馬をならして、軍馬や農耕馬に育てる仕事をしていたが、モータリゼーションの進行で、職を失った調教師です。怪我をした馬や性格に難のある駄馬の潜在能力を引き出す天才的な才能があり、「ハワード」に見出され、「シービスケット」の専属調教師となります。クーパー本人は、1999年公開の『アメリカン・ビューティー』で、ナチスを信奉する厳格な元軍人を演じて注目され、2002年公開の『アダプテーション』ではそれまでのイメージを一新。どこかだらしない男臭いイメージの蘭収集家を熱演して、同年のアカデミー助演男優賞やゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞しています。


 このような挫折や失意を味わった3人の男たちが出会い、やはり、殺処分寸前にまで追い込まれた“隠れた名馬”と出会うことで、新たな成功をつかむというアメリカン・ドリームが描かれます。


(あらすじ)

 乗馬においては秀でた才能を持つ「ジョン・ポラート」は裕福な家に生まれたが、大恐慌に見舞われた後、一家は離散し、名もない仮設移動競馬の騎手として、また、賭けボクシングのファイターとして赤貧の生活を送っていた。また、かつては、野良馬の調教師であった「トム・スミス」は、自動車の普及により、その職を失っていた。そして、また、自転車の販売修理業から身を起こした“自動車王”「チャールズ・スチュワート・ハワード」も、突然の大恐慌により、事業規模が縮小し、離婚も経験し傷心と挫折の日々を送っていた。ただし、「ハワード」は新たな事業として競馬に着目し、沢山の競走馬を保有しながら、投資家「チャールズ・ストラブ」とともにサンタアニタパーク競馬場に出資して、競馬が再開されたカリフォルニアで再起を誓っていた。1935年、「ハワード」は保有するベイメドウズ競馬場の厩舎で「トム・スミス」を調教師として雇い、馬体が小さく、気性の荒い駄馬でありながら高額で購入した「シービスケット」(=海軍御用達の乾パンの意)を改めて育てることとする。そして、この馬の負けん気の強さと同じ気性の「“レッド”ジョン・ポラート」を騎手としてスカウトする。「スミス」の卓越した調教術が、「シービスケット」の潜在能力を開花させ、また、彼の試合感が、「レッド・ポラート」の騎手としての才能を引き出し、初戦こそ落とすが、このコンビは西海岸で連戦連勝の快進撃を続けるのであった。そして、その勢いは、まるで大恐慌によって、自信を失いかけた大衆の明日への希望と勇気を奮い起こさせるようであった。