『アンジェラ』(原題:Angel-A /2005年フランス/90分)
監督・脚本・製作:リュック・ベッソン
音楽:アンニャ・ガルバレク
撮影:ティエリー・アルボガスト
編集:フレデリック・トラヴァル
出演者:ジャメル・ドゥブーズ、リー・ラスムッセン、ジルベール・メルキ、セルジュ・リアブキンら
100点満点中90点
リュック・ベッソンが監督、脚本、製作と3役をこなした、ラブストーリーの姿をした大人のヒューマン・ファンタジー作品。
パリの中心部を舞台とした全編モノクロで、現代劇でありながら、ノスタルジックなムード漂う人間ドラマです。ベッソンが3役買って出てもやりたかった奇想天外な設定がいかにあるかが、終盤になって明らかになってきます。
アクション要素は全くなく、歩く速度で、ある男女の2日間の生活を追って行く展開です。大都会には、無知で他人を疑うことのできない、さびしい人間を狙っては金銭的に追い込んでいく“裏社会”があって、その罠にはまった人間は、とことんその生き血を吸い取られるシステムが出来上がっていると描かれています。
こう書くと、バッド・エンドのようですが・・・ご覧になった方で、ご判断いただきたいのですが・・・感動の結末です。
監督のリュック・ベッソンは、1990年の『ニキータ』、1994年の『レオン』で有名ですが、こういったアクション・暴力作品を手掛ける一方、1999年『ジャンヌ・ダルク』は独特な歴史観、宗教観を盛り込みながら、ミラ・ジョボビッチの演技力にも助けられた、ある種の人間ドラマでした。今作は、この人間ドラマと現代的なロマンチシズムを前面に出した作品となりました。
主演のジャメル・ドゥブーズは「アンドレ」を演じます。この役は、アメリカ国籍と言いながら、本当はモロッコ出身の男性で、一攫千金を夢みて、パリで生活しています。東欧系のヤクザや地元の「ノミ屋」と関わりがあって、数十万ユーロの借金にまみれています。再三の督促にも応えることができずに、冒頭で、命と引き換えの“期限”を切られます。ドゥブーズ本人は、モロッコ系でありながらパリ出身のコメディアンで、14歳のとき、鉄道事故で右腕の自由を失っているため、いつもポケットに手を入れています。今作でも、この身体的特徴を生かして、体当たりの演技をしています。まじめに演じてもクスッと笑ってしまいそうになるのは、彼の人徳?でしょうか。小柄で猿のような面相は、日本の芸人岡村隆史を彷彿とさせます。
同じく主演のリー・ラスムッセンは、題名となる「アンジェラ」を演じます。この役は謎の多い役で、突然、「アンドレ」の前に現れるのですが・・・唯一分かるのは、180cm以上ある長身でスタイル抜群のモデル体型の金髪美人であるということだけ。
なぜか?この大女が、絶望感に打ちひしがれた身体障害者「アンドレ」と2日間一緒に過ごすわけです。
この人間模様がこの作品の“肝”です。
ラスムッセン本人はデンマーク、コペンハーゲン出身のモデルです。役者としては未熟ですが、抜群の存在感と、脚本に助けられ、今作を引っ張って行く役柄です。
(あらすじ)
「アンドレ」はセーヌ川の岸壁で、数人のごろつきに囲まれている。彼らはセルビアかチェコかそこいらの東欧出身のチンピラで、「フランク」から借りた4万ユーロ(約500万円)を今日中に返せと言う。彼はアメリカ国籍であるため、パリのアメリカ大使館に駆け込み助けを求めるが、パスポートを所持していない上、重犯があるため、全く相手にしてもらえない。また、警察に行くが、ここでも全く相手にされない。
万策尽きて、セーヌ川にかかるアレクサンドル3世橋の欄干をまたぎ、川に飛び込もうとしたその瞬間、隣には大柄な金髪女性がやはりセーヌ川に飛び込もうとしている。「アンドレ」は彼女を止めるが、この金髪美人は言うことを聞かず、セーヌ川に飛び込む。「アンドレ」は彼女を助けようと、同じく川に飛び込み、彼女を背負って川岸から這い上がる。
彼女の名前は「アンジェラ」といい、命を助けてくれたお返しに「アンドレ」に献身的に尽くすと言う。
まず、彼女は「フランク」から借りた4万ユーロを、交渉??の末チャラにした上、数千ユーロを彼から引き出す。夜のパブの男子トイレでは、数十人の男から数万ユーロを“謎の手段”で稼ぎだし、「アンドレ」を窮地から救うのであった。
なぜ、「アンジェラ」は、「アンドレ」を救うのかを、彼は聞いてみた。彼女が言うには、自分は天使で、「アンドレ」を救うため、神から使わされたと。内面の美しさに目覚めさせ、もっと自分を愛せるようにさせるため、また、彼が自分自身に嘘をつくのを止めさせるために、使わされたのだと。
彼女は、このミッションを成し遂げると、元の姿に戻って、天空に帰ることとなるのだが、この後の二人の関係は?