『マイ・ボディーガード』(原題:Nan on Fire /2004年アメリカ、メキシコ/146分)
監督:トニー・スコット
原作:A・J・クィネル『燃える男』
脚本:ブライアン・ヘルゲランド
製作:トニー・スコット、アーノン・ミルチャン、ルーカス・フォスター
音楽:ナイン・インチ・ネイルズ、ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
撮影:ポール・キャメロン
編集:クリスチャン・ワグナー
出演者:デンゼル・ワシントン、ダコタ・ファニング、クリストファー・ウォーケン、ジャンカルロ・ジャンニーニ、ラダ・ミッチェル、カーク・アンソニー、レイチェル・ティコティン(『トータル・リコール』)、ミッキー・ロークら
100点満点中79点
トニー・スコット監督得意の社会派アクション・スリラー作品です。小説が原作ですが、あたかもメキシコ社会が抱える“病巣”を鋭くえぐった部分が、何とも痛々しい内容で、幼いダコタ・ファニングの妖精のような愛らしさによって、デンゼル・ワシントンの熱演がさらに“熱く”見える演出です。原作では、イタリアが舞台ですが、今作では、メキシコにその舞台を移し、司法警察も絡んだ「誘拐ビジネス」組織に対し、主人公「ジョン・W・クリーシー」が殲滅の覚悟をもって対峙する雄姿が描かれています。スコット監督は、この作品の翌年、キーラ・ナイトレイ主演で『ドミノ』を撮っており、演出手法がかなり似かよった作品を続けて撮っています。この二作品を対比しながらご覧になっても、面白いかも知れません。
主演のデンゼル・ワシントンは、対テロ特殊部隊出身の元兵士「ジョン・W・クリーシー」役です。過酷な作戦行動の繰り返しが元で精神を病んでしまい、酒に逃げ込んで社会との交わりを極力持たないように生きて来た“落後者”です。優秀な兵士でありながら、とにかく、自信の無い男で、作品序盤では“燃えカス”のような腐った内面を、恥ずかしげもなく吐露する情けない状況です。ただ、非常に誠実、非常に理性的・理知的な人物で、短時間に他人を魅了する力を持っています。ワシントンのために作られた役と言ってもよさそうです。彼はこの役に、本当にハマっています。
この男を助けようと、助力する元上官「ポール・レイバーン」役は、クリストファー・ウォーケンが演じ、派手な外見ながら、抑えた演技で要所を固め、主人公「クリーシー」の苦悩の度合いを明確にして、鑑賞者に伝える役周りを果たします。
『アイ・アム・サム』出演で有名なダコタ・ファニングは、富豪の娘「ピタ・ラモス」役で、この当時10歳そこそこの少女ですが、外見の可愛らしさ以上に、輝く演技力をみせ、“俗”に染まった大人達が目をしばまたせる程の透き通るような純粋さを放ちます。彼女が、「クリーシー」に向けるピュアな思慕の情によって、彼は徐々に本来持つ人間らしさを取り戻していく。
(あらすじ)
対テロ特殊部隊出身の元兵士「ジョン・W・クリーシー」は、メキシコ・シティに住まいするかつての上官「ポール・レイバーン」の元を訪ねる。「クリーシー」は、優秀な兵士であったが、過酷な任務が災いして、心を病んでしまい、重度のアルコール依存状態である。彼は元上官から、ボディーガードの仕事をしないかと誘われる。ここメキシコでは、一週間に20件以上の誘拐事件が起きる程の治安の悪さと身代金の高額さが、富裕層の脅威となっているのだ。
「サミュエル・ラモス」は、メキシコの自動車産業に関わる事業をしているが、その業績ははかばかしくない。顧問弁護士「ジョーダン・カルフス」から、誘拐保険の更新に関するアドバイスを受けるが、彼の父親からの引き継いだ誘拐保険の更新には、最低限ボディーガードを雇用する必要があると言うのだ。
「クリーシー」は、元上司「レイバーン」の言いつけ通りに、「ラモス」の面接を受け、また、その妻「リサ」(ラダ・ミッチェル演ず)とも面会する。彼らは、一目で「クリーシー」の人となりを認め、娘「ピタ」も「クリーシー」を気に入り、正式なボディガードとなる。彼の主な業務は、この愛らしい娘「ピタ」の身辺警護をする事である。
朝夕の学校の送り迎えや稽古ごとへの付き添いをする運転手兼ボディガードが彼の日課となる。当初、日々の「ピタ」との会話を拒んでいた「クリーシー」であったが、彼女の悩みや心情に触れるうちに、眠っていた父性が目覚め、彼女の親友となって行く。
そんな矢先、「ピタ」の通うピアノ教師の自宅前で、制服警官を含む5~6名からなる誘拐犯の襲撃を受ける。彼は胸部を中心に数発の銃弾を浴びながら、4人の武装犯を倒すが、「ピタ」を奪われてしまう。
「ラモス」は、警察の指導により、身代金と「ピタ」の交換に同意するが、身代金授受の現場に、邪魔者が入り、身代金を奪われてしまう。これに怒った、誘拐犯側は、即刻、「ピタ」を殺したと連絡して来る。
瀕死の重傷であるが、「レイバーン」の助けにより驚異の回復力をみせる「クリーシー」は、「ピタ」殺害の復讐を決意する。誘拐組織を殲滅することで、恨みを晴らすと言うのだ。まずは、「レイバーン」からの資金で、大量の武器・弾薬を仕入れ、実行犯が使用した車両を特定する事から始めるが、彼の芸術的な“殺しのテクニック”がこのあと炸裂する。











