ヤクザと菩薩と、時々、隣人 その3 | キャプテンのブログ

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引っ越し当日、誰かの訪ねる音で目を覚ました。


インターホンが何度も鳴り続ける。








しまった!不要品回収の業者が朝一番に来るんだった!!!




急いで布団から出てロフトから降りようとしたその瞬間









いや待てよ…





時間を確認するとまだ時刻は6時であった









おかしい。いくらなんでも早すぎやしないか?





…まさか








おれは静かに足音を出さぬように玄関へと近付いていった。


息をひそめ、ゆっくりとドアの前に立ち、外を覗いてみた











あいつだ!!!





玄関の前には、昨晩と同じ服装の隣人が立っていた。









ソファだ…

絶対にソファのことで注意しに来た…






恐いよ。恐いよ




仕方ないじゃないか。今日引っ越しちゃうんだもの。


なんでそこまでゴミの出し方で注意してくるのさ…


邪魔にならないように気をつけたし、異臭がするようなものも置いてないのに。









しばらくするとインターホンが鳴り止み、隣の部屋のドアが開く音がした。


どうやら部屋に戻ったらしい








なんとしても関わることなく引っ越しを済まさねばならない。


そのためには隣人が出かけるまで息をひそめ、いないフリをし、やつが出かけてる間にさっさとここを出る必要がある。





木造の壁は薄く、隣の部屋の様子が容易にわかってしまうのだ。




おれは静かに部屋の中央に戻り、座って一歩も動かないことにした。









『おれは石、おれは石。この部屋に3年前から転がっている石。桃栗三年柿八年…』



ダメだ余計なこと考えちゃう。

もっと集中しないと








隣の部屋の足音、水の出る音、テレビの音などを聞きながら、おれはひたすら1時間2時間と石になって隣人の外出を待った。



そうして8時過ぎになり、遂に隣人が動いた



靴を履く音、ドアを開ける音がし、遂に隣人が出かけたのだ。





ピンポーン



うぉぉいっ!!!!!!!!!





違った。再び怒りに来ただけだった




おれは頑として動かなかった。



おれは石なのだ。

良い感じに苔も生えてる石なのだ。





この数時間でちょっと見た目が良くしてあるのは秘密である。






インターホンは1分ほど鳴り続けてから止まった。



しかし、鳴り終わっても隣の部屋に戻る音がしない





『おや?』




石となったおれは、痺れた足をかばいながら玄関に向かった。

そして外を覗いてみると、そこにはもう隣人の姿はなかった。




どうやらそのまま本当に出かけたらしい






よし、今のうちに布団も出して、テレビと洗濯機を出す準備をせねば



そう思い、布団を取りにロフトへ向かうと






ピンポーン




うぇぇぇ!!!!!!

まだいたのー!!!!!!?










おれは再び石になることにした。


すると











「すいませーん、○○会社の者ですがー!不要品回収に来ましたー」






あぁ、そっちか



安心して玄関へ向かい、一応念のため外を覗いて確認してから、業者の方を部屋へ入れた。





業者の方は25歳ぐらいの若い男性だった。

高校球児のような坊主頭で、少し童顔なその男性は、八重歯の生えた少年のような笑顔でおじぎをしてきた。






いままでヤクザや恐い隣人ばかりと遭遇してきたおれにとって、その姿は菩薩の如し






手際よく洗濯機とテレビを運び出し、金額を提示してきたので、




『あ~すいません、細かいの無いんでこれで』


そう言って1万円を出した


すると







「あぁ~本当スか、ちょっとお釣りが無いんですよね…」




なんと!






『あぁ~…百円玉とか細かいのも無い感じですか?』



「そうなんすよ(笑)」




にっこりとお茶目な顔で財布を見せてくる菩薩様




『じゃぁちょっと待っててください。おれコンビニでくずしてくるんで』


「あ、分かりました。じゃぁそのあいだにトラックに積んじゃいますね」




ヤクザや隣人に比べたら、お釣りがないなんて可愛らしい問題である。



おれはコンビニに行ってお茶を買い、お釣りを用意して戻ってきた。



もう既に荷物はトラックに積んであり、準備が完了していた。




『じゃぁこれお釣りです。あと、良かったらお茶貰ってください』



そう言って菩薩様にお供え物をしてお別れした。




そうして再び部屋に戻り、布団に粗大ゴミシールを貼ってソファのそばに捨てた。





これで引っ越し完了

もう二度と来ることもあるまい




うかうかしてると隣人が帰ってくるかもしれないので、急いでその場を去った。







そろそろあれから1ヶ月が経ちます。


もしなんらかの手違いがあり、まだ粗大ゴミが処理されていなかったら…



いや考えないことにしよう…