「虐待繰り返す恐れ」と動物愛護団体が告発...「この虐待に公的資金?」と昨年話題になった「茨城県畜産センター内部映像」の衝撃のその後
4つの動物愛護団体が刑事告発に踏み切る
茨城県の畜産施設で従業員が乳牛に殴る蹴るの暴力を振るい、ふん尿が堆積したドロドロの運動場やカチコチに固まった牛床(ベッド)で飼育する様子を撮影した動画が昨年、国際的な動物権利団体によって配信された。この件については、昨年9月9日の記事『「この虐待に公的資金?」「牛の悲痛な叫びが聞こえてきます!」《牛を蹴る、麻酔なしの除角、不衛生な飼育場》...「茨城県畜産センター内部映像」の衝撃』で詳報し、同記事は100万回の視聴を超える大きな反響を呼んだ。
あれから5ヵ月余り経過したが、茨城県のこの問題に関する公的な説明は皆無となっている。事実の隠蔽やその後の同施設の環境が懸念される中、国内の4つの動物愛護団体が2月19日、「茨城県畜産センターの従業員たちは日常的に乳牛に暴力を振るっていた」などと主張し、動物愛護管理法(動愛法)の動物虐待罪に当たるとして、県と前畜産センター長ら8人に対する告発状を県警水戸署に提出したことが分かった。
告発状によると、「2022年4~7月、従業員たちは乳牛を移動させる際、顔、腹、乳房、脚などを拳や掃除道具の金属部分などで殴ったり、蹴ったり、突いたりした。供卵牛(和牛の受精卵を採取するための雌牛)をふん尿が泥濘化した運動場や、熱さ、寒さ、および雨風から身を守ることができない囲いの中で収容。さらに劣化でへこんだり隙間ができたりした金属製すのこの上でつないで寝かせた」などと主張している。
告発した団体は、PEACE(東京都豊島区)、動物実験の廃止を求める会(JAVA、同渋谷区)、アニマルライツセンター(ARC、同渋谷区)、動物愛護を考える茨城県民ネットワーク(CAPIN、茨城県つくば市)。告発に至った理由として、東さちこPEACE代表は「放置すれば虐待が繰り返され、牛が重篤な障害を負ったり、死亡してしまったりする可能性もある。畜産動物であっても暴力は許されないです」と説明している。
刑事告発は、被害者以外の第三者が捜査機関に対して犯罪事実を申告し、加害者への処罰を求める際に行う。2019年に動愛法が改正され、飼育されている動物への殺傷に対しては5年以下の懲役、又は500万円以下の罰金、虐待・遺棄は懲役1年以下、又は100万円以下の罰金が課されるようになった。
事件の経緯をふり返るため、『「この虐待に公的資金?」「牛の悲痛な叫びが聞こえてきます!」《牛を蹴る、麻酔なしの除角、不衛生な飼育場》...「茨城県畜産センター内部映像」の衝撃』の記事を再掲する。
今後の茨城県警や県の対応が注目される。
畜産の現場で常態化している「牛への虐待」の衝撃
島根県大田市の農場で乳牛を繰り返し蹴るなど暴行を加えたとして元従業員が昨年7月、動物愛護管理法(動愛法)違反の罪で起訴された。この事件は男が牛を蹴る動画をSNSに投稿して拡散されたことから、非難が高まっていた。
一方、茨城では同月、県畜産センター(石岡市)の従業員たちが日常的に牛を蹴る殴る、麻酔なしでの子牛の角を切る「除角」の際に足で頭を踏みつける、ふん尿が堆積した飼育場など、劣悪な現場の動画が国際的な動物権利団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会、米国本部)によってSNSで公開された。
同畜産センターは1902年に設立。牛乳や乳製品の原料となる生乳や和牛の受精卵の販売をはじめ、畜産動物の生産性向上のための研究を行う動物実験施設でもある。
動画は約2分。乳牛や和牛の農場で、従業員たちが「いけよ、ほら!」などとどなりながら、牛の足を蹴ったり、顔を殴ったり、棒で背中や腹をたたいて移動させている。ふん尿でどろどろの運動場にいる牛の様子もあった。
除角の作業をしている映像も。農場では牛が人間に危害を与える可能性があるという理由で一般的に、生後2ヵ月以内に除角が行われる。動画では、ロープで足をくくられた子牛が床の上に押さえつけられ、複数の男が子牛の上に座り、1人が長靴で頭を踏んで固定。焼きごてを子牛の頭に何度か押しつけ、頭から煙が上がっていた。目をそむけたくなるような光景だった。SNSでは「この虐待に公的資金?」「牛の悲痛な叫びが聞こえてきます!」などと書き込まれている。
除角された痛みは3週間続くとされ、子牛の心身に多大な負担を与える。想像するだけで恐ろしい。自分が同じようなことをされたら耐えられるだろうか―。
85%の農場が「除角に麻酔を使っていない」と回答
畜産技術協会(東京都文京区)が2014年に実施したアンケート調査によると、回答した乳牛の農場(437件)のうち、除角で麻酔を「使っていない」と答えた割合は85%に上り、「使っている」は14%に過ぎなかった。
除角については、農林水産省が7月に発表した国のアニマルウェルフェア指針で、麻酔や鎮痛剤の使用を「強く推奨する」としている。ただし義務ではない。私は別の農場主から除角の話を聞いたことがある。そこでは、先代までずっと無麻酔で除角をしていたが、「子牛は酷い記憶から、処置後は人間を怖がっていた。今は麻酔を使っているので痛みや恐怖はなく、自然に目が覚める」と話していた。
ちなみにアニマルウェルフェアとは、動物の心身が健康で快適に保たれるよう飼育環境を整え、本来の行動欲求も満たされるように配慮することである。国の指針によると、牛の管理方法の項目では、
▽不要なストレスを与える突発的な行動や手荒な扱いは避け、可能な限り丁寧に取り扱うこと
▽尾を折る、耳を引っ張るなどの苦痛を与える方法で移動させてはならない
ともある。
実は、PETAは1月、畜産センター職員による日常的な暴行や不適切な飼育実態は動愛法・家畜伝染病予防法・家畜排せつ物法違反であると主張し、茨城県に動画を証拠として住民監査請求を行っていた。暴力行為や不適切飼育を行った職員の給与の差し止めなどを求めたが、県は5月に「適法な請求とは認められない」として請求を却下している。
私は同センターの元従業員Aさんに話を聞いた。Aさんは昨年4月から7月まで非常勤職員として勤務。「自治体のセンターだからきちんとした酪農を学べるだろうと思って働き始めたら、あまりにも酷くて愕然としました」と振り返る。
茨城県畜産センター元従業員のAさんによる証言
同センター元従業員のAさんによると、牛への暴力は常態化していた。
「私がいた職場は2班に分かれていたが、どっちの班のリーダーも牛を蹴っていた。搾乳室に移動させる際、一刻も早く動かすために蹴る。ベッド(牛が休む床)に座っている牛には、『こうすればいいよ』と足を持って踏みつけるよう教えられました。竹棒で追い立てる人も。ちょっと待ってあげる人もいましたが、基本的には皆「いけいけ」と叩く。清掃道具の鉄の部分で背中や腹をたたく人もいた。ベッドにいる牛は、人が前に立つと立ち上がって後ずさりしてくれるのに、いきなり蹴るのです。
不衛生な床、固すぎる床、伸びすぎたひづめ、遺伝などの原因で足が痛くなり、動かない牛もいました。右後ろ足を痛めた乳牛がいて、うずくまって立てなかった。複数が尻尾を引っ張ったり、テーピングが巻かれている足を蹴ったり。牛はもだえるように体を動かしたけれど、どうしても立ち上がることができませんでした」
結局、その牛は建機で釣り上げられ別の場所まで運ばれ、ポータブル式の搾乳機で乳しぼりすることになったという。
―運動場や牛舎はどうしてふん尿だらけなのでしょうか?
「供卵牛(和牛の受精卵を採取するための雌牛)の牛舎と運動場で、ふん尿をかき出す掃除がちゃんとしていなかった。あちこちに便の水たまりができ、ハエがたかり、尻尾にはこびりついたふんが玉になっていました。
子牛の運動場にもふんがたまり、研究者から『皮膚病の子牛がいるから、土の入れ替えをしてください』と指示があったのに、現場の人たちはやらなかったです」
―搾乳用の乳牛がいるフリーストール(舎飼いで自由に動ける牛舎)も不衛生な理由は?
「ふん出しを朝1回しかしないので、翌朝は通路のコンクリート床がふん尿でべちゃべちゃになってしまう。床には敷料として、オガコ(木の削りくず)をまくのですが、ふん尿を吸収するには量が少な過ぎました。だから牛の腹から後ろ足にかけ、ふんがうろこのように付いていた。
眼をそむけたくなる乳牛が置かれている環境
―なぜ掃除が不十分なのですか? 仕事量が多過ぎる?
「1日8時間の労働時間の中で、昼休みに加え計3~4時間ぐらい休憩時間を取っていました。スマホを見たり、タバコを吸ったり、中には自分のバイクの手入れをしてる人も。ふん出しは余裕で1日2回できるのに、朝1回しかやらなかった」
―取られていた暑熱対策について
「昨年6月末になると、正午には外気温が40度まで上がりました。供卵牛は運動場で2時半まで過ごすことになっていましたが、その日は口から泡を噴き、『はあはあ』と苦しそうに息をしていた。私が屋内に早めに入れてやることはできないのかと同僚に聞くと、『中に入れると送風機代がかかる』と応じてもらえませんでした。その後、夕方4時からの夜間放牧に切り替え多少改善されました。ただし牛舎内は大型送風機が回っているだけで30度半ばまで上がり、快適な環境ではなかったです」
―麻酔なしの除角の実態について
「従業員が逃げ惑う子牛を捕まえ、床に倒して前足と後ろ足をそれぞれロープでくくりました。その上に4人が乗り、赤々と先端が燃える焼きごてで、これから角が生える部分に押しつけると、もうもうと煙が上がった。子牛は目を見開き口からよだれを出して、うめき、顔をそむけると、作用員が長靴で顔を踏み再度こてを20~30秒押し当てました。
その後ニッパーで角の根元部分を切り、再度焼く。それが終わると、もう片方の角も同じ処置が行われました。終わると、子牛は放心状態ですぐに立てない。すると、作業者が尻をけり、無理矢理立たせました」。従業員もこの酷さは分かっているようで、『残酷焼き』と呼んでいました」
最後にAさんが強調したのは、乳牛がほぼ半日を過ごすベッドの状態だった。
「ベッドの敷料はとても重要。砂を使う場合、毎日ならし、硬くなったらすきなどで砕き、数週間に1回砂を補充すれば、快適な寝床になります。でもベッドはどれもデコボコで、カチコチに固まっていた。私は砂を砕こうとスコップを思い切り突き立ててみましたが、手作業でどうにかなるような硬さではない。なぜ通路の上で寝ている牛が多いのか、理由が分かりました。
乳房や乳頭が直接当たるベッドがデコボコだったらどんなに痛いだろうか―。酷い所に閉じ込められているのに、人を非難するでもなくじっと私を見る牛の目にいたたまれない気持ちになると同時に、腹が立って眠れないほどでした。牛を蹴ることは、分かりやすい暴力です。一方、ふんだらけの床や硬いベッドはそれ以上の暴力だと思います」
Aさんの論理的な語り口の中に、牛への愛情と理不尽なことへの憤りが伝わってきた。
2つめの記事『「虐待と考えたことはない」「国かどこかに指導してほしい」...衝撃的すぎた《茨城県畜産センターの内部映像》に対する農水省畜産局、茨城県畜産課、同センターへの「取材と回答」』に続く。
2022年4月18日 乳用子牛の除角
2022年4月28日 子供のいる分娩舎の方角をじっと見る母牛
現代ビジネス編集部
こちらから転載させて頂きました。