〒210-8577 神奈川県川崎市川崎区宮本町1
川崎市長 福田 紀彦 殿
令和4年10月24日
弁護士 坂 本 博 之
緊急提言
前略
前回私から本年10月7日付でお出しした意見書のご回答をお待ちしているところですが、貴市役所に、複数の団体や個人がJFEスチールの渡田の敷地内の猫の保護を求めて電話やメールをしていること、そして貴市が「JFE敷地の猫について川崎市には権限が無い」という回答を繰り返されている事が確認できました。また、今までの、当職とのやり取りからも、貴市がJFEスチール敷地内の猫は貴市に権限が無く、地権者、土地の管理者としてのJFEに処遇を決める権利があるとお考えのようでした。
その件について深刻な法的問題があることを以下、指摘させていただきます。
記
1 「猫の所有者、あるいは占有者」について
JFEスチールは、川崎市獣医師会と神奈川県動物愛護協会以外へは決して猫を渡さないという態度を取っているようです。JFEスチールのこのような行為は、本来、猫の所有者、占有者にしか行えない行為であると考えられます。
それを貴市が長く容認し続けた場合には、貴市が実質的にJFEスチールを猫の所有者又は占有者とみなしていることになります。
JFEスチールが猫の所有者あるいは占有者であると判断される場合、同社が10年以上に亘り、猫を餓死、衰弱させたことは、動物愛護及び管理に関する法律に明らかに違反します。同法では所有者、占有者には、以下のような重い責務が課せられています。
(動物の所有者又は占有者の責務等)
第7条 動物の所有者又は占有者は、命あるものである動物の所有者又は占有者として動物の愛護及び管理に関する責任を十分に自覚して、その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努めるとともに、動物が人の生命、身体若しくは財産に害を加え、生活環境の保全上の支障を生じさせ、又は人に迷惑を及ぼすことのないように努めなければならない。この場合において、その飼養し、又は保管する動物について第七項の基準が定められたときは、動物の飼養及び保管については、当該基準によるものとする。
2 動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意を払うように努めなければならない。
3 動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
このまま、JFEスチールにあたかも所有者又は占有者としての権限があると貴市が考え、同社と共に、そのことを前提とした対応を続けられた場合、同社は土地の管理者として善意で飼い主不明の猫の世話をしているという立場を超えて、所有者又は占有者とみなされることになり、本年春頃まで続いていた給餌給水をせずに衰弱させ、餓死、衰弱死、事故死等に至らしめた件で、動物愛護法44条1項又は2項違反となる可能性がさらに高まります。マスコミによる発覚以前の件も多数存在するようですが、そのような案件についても、未だ、刑事訴訟法上の公訴時効は成立していません。
2 地域猫施策について
貴市がJFEスチールを猫の所有者、占有者と考えておられる場合、その様な猫は地域猫にはならないので、川崎市が当初から行っている地域猫としての指導は間違いであると言えます。
そして、所有者、占有者としてのJFEスチールを動物の愛護及び管理に関する法律第44条1項又は2項違反の疑いで、貴市としてJFEスチールないしその責任者を告発することが、より強く求められるようになります。刑事訴訟法第239条第2項は、「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」と規定しています。従って、公務員としての責任を果たしていただく必要があるということです。
3 猫達の遺棄について
仮にJFEスチールが猫の所有者或いは占有者であると貴市が捉えている場合、同社の敷地の所有権が同社から第三者に移った時に、猫達を放置していくようなことがあれば遺棄となります。
動物愛護法第44条第3項は、「愛護動物を遺棄した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」と規定しています。JFEスチールが猫達を放置して出て行った場合、その行為は、この条文に該当します。
4 要望
現在の貴市の対応は、上述のように、かえってJFEスチールを複雑な立場に追い込むことになります。また、土地の所有者がその土地にいる飼い主不明の猫の所有者又は占有者とみなされて、数々の責務を負わされる前例が出来てしまうと、今後の動物愛護施策に深刻な影を落とすことになりかねません。
そこで、福田市長におかれましては、法律の解釈に課題がある部局任せにせず、是非じきじきにご裁断いただきますようお願い申し上げます。国民の多くが福田市長に求めていることは、複雑な事ではなく、「飼い主のいない猫を希望する里親に繋ぐため、愛護センターに取り次ぎをさせてください」という、ごく常識的でシンプルな要望です。問題を複雑化させることなく一刻も早く、決断されますようお願い申し上げます。
なお、上記の点については、本書状到達後、2週間以内に文書でご回答いただけますよう、お願いいたします。
以上の段、よろしくお願いいたします。
by 山猫