茨城県常総市が野犬問題を解決し犬猫殺処分ゼロ市になるまでの道のり | CAPIN(キャピン)公式活動報告

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認定NPO法人「動物愛護を考える茨城県民ネットワーク CAPIN」
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厚岸町で、犬が銃殺あるいは筋弛緩剤で死んでいることに対して強く抗議いたしますと共に、これは解決可能な問題であることを、茨城県常総市の実例からお知らせいたします。


不可能だと初めから手をこまねいていても事態は変わることはありません。



常総市の実例から「どの立場の人にとっても犬を殺すことは解決にはならない」「必ず解決できる」「すべての立場からも納得できる方法がある」「厚岸町でも実現できる」というメッセージを読み取っていただけたら幸いです。



初めに、私達がかかわった常総市の実例を時系列で説明させていただき、次に、若狭町長と町議会議員への申し入れ、及び厚岸町の皆様へのお願いを述べさせていただきます。

 

2015年3月まで 発端

今から6年ほど前の2015年頃、茨城県常総市の畜産団地では、野犬が溢れていました。茨城県動物指導センターは捕獲と殺処分を繰り返しており、どうしても捕まらない犬を毒餌で薬殺しようとの計画が立てられました。



養鶏場からは犬が柵を破って入り鶏を害したという苦情、養豚場からは囲いがしてあるので入ってくることはないが、野犬が群れでいるのは不衛生だという苦情が常総市、茨城県、茨城県動物指導センターに寄せられ、野犬を殺してほしいという要望が噴出していました。


 

2015年3月末 住民説明会 毒撒きを中止

茨城県と県動物指導センター、常総市は野犬掃討の住民説明会を公民館で開きました。野犬を毒殺する場合、住民に周知しなければならないからです。


この説明会に出席した住民のひとりが、野犬の世話をしており、「毒をまかれています。大変だ、子犬も殺されてしまう。慣れた犬もいるのに」と相談電話をかけてこられました。


相談を受けた私たちは、子犬も飼い犬も人に慣れた犬もみな殺傷するような薬殺はやめるべきと訴え、毒をまく計画はなくなりました。



さらに、野犬問題をどのように解決するのかを茨城県議会の小川一成先生(いばらき自民党)に相談しました。


私達CAPINと、犬猫救済の輪・TNR日本動物福祉病院さんがこの問題に本格的に着手しました。


常総市畜産団地で捕獲した犬を、地元病院や、神奈川県のTNR日本動物福祉病院さんに運び、不妊手術ののち、CAPINの土浦シェルターや自宅で引き受けて、慣らしと譲渡に向けて保護していました。栃木県の野犬に慣れた団体さんも協力くださいました。


 

2015年4月 関係者による会議 野犬ゼロを目指す合意

小川一成先生の熱心なご尽力で4月30日、会議が開かれました。会議に参加したのは茨城県、常総市、県獣医師会、CAPINを含む保護団体数名、町内会長等でした。被災地での野犬保護に詳しい団体も参加していました。自民党、公明党の県議会議員、市議の先生方も超党派で多く参加され、当時の県動物指導センター長も参加されました。


「野犬は生きているのが可哀そうだから殺してしまおう」という意見の保護団体があったことは大変残念なことでしたが、私たちは「犬たちを生かしていこう。その方法はあります」と一歩も譲りませんでした。


町内会長からは「子供たちの登下校に犬に襲われないようにしたい。農作物の被害も困るので野犬ゼロにしていただきたい」との意見が出ました。保護団体の立場としても野犬をゼロにしたいということで、結論として、どの立場からも「野犬をゼロにする」という共通の目標を持つことができました。そういう意味で大変有意義な会議でした。

 

2015年6月 ワーキンググループ発足と保護場所確保

2015年6月には官民協働のワーキンググループが発足しました

市役所の役割は犬の保護場所の提供でした。



小川先生のお口添えで農家の畑にある倉庫を1年間の家賃1~2万円で借りることができました。この時はまだ水道も電気もない状態でした。その後、道路沿いに保護場所は移り、そこで譲渡に向けての慣らしが行われました。



 

2015年8月 ワーキンググループ始動

捕獲機をかけて、犬が入っているのをCAPINが確認したら県動物指導センターに報告し、センターが犬を回収します。3月から民間で野犬捕獲をスタートしておりましたが、最初にワーキンググループで犬が保護されたのは8月のことでした。その後、県動物指導センターで不妊手術をして、犬に二重首輪とチェーンをつけて保護場所に戻ってきます。民間のボランテイアさんが犬たちを馴らして里親探しをしました。

獣医師会からはノミ・ダニ、フィラリアなどの薬の提供がありました。

2019年夏に最後の犬が捕獲されるまで、約130頭をつかまえ、殺さずに生かし切りました。

 

2015年9月 常総水害が犬猫殺処分ゼロのきっかけに

この年の9月に常総市は水害に襲われました。通常、被災動物の殺処分は行わないはずですが、常総市は犬猫を殺処分しようとしたため、私たちも抗議し、厳しい世論も寄せられていました。常総市から茨城県動物指導センターに入った犬猫はCAPINで全頭引き出したので、常総市の犬猫の殺処分をこの時、センターは行っていません。犬猫殺処分ゼロはこの時から今まで続いています。

 

2018年 「常総市動物愛護及び管理に関する条例」制定及び施行

2018年常総市は「人と動物との調和のとれた共生社会を構築するためには,市や市民の責務,動物の所有者や飼い主の尊守事項等を明確にするとともに,市と市民さらに動物愛護団体等と協力して動物愛護に取り組むことが必要であることから,本条例を制定するものです」として常総市動物愛護及び管理に関する条例についてのパブリックコメントを募集したうえで、条例を2018年4月に施行しました。

http://www.city.joso.lg.jp/ikkrwebBrowse/material/files/group/57/jososhidoubutsunoaigooyobikannrinikannsurujoureiann.pdf

 

2019年 常総市動物愛護協議会の発足

犬猫殺処分ゼロを維持するため常総市は動物愛護協議会を発足させ、一般市民から会員を募集しています。

 

現在

常総市役所は新たに市有地にシェルターを用意しました。シェルターの場所が民家の無い河原傍であったことで苦情も出にくく幸いしています。ごみの回収は市役所が行います。


このシェルターには常時10頭前後の犬猫がいます。2015年よりCAPINがフードや医療費を負担してきましたが、2020年半ばからは「JOSO WAN ZERO」という常総市民の団体に犬の世話や譲渡活動は移行し、常総市民の主体的な活動に軸足を移して現在に至ります。

 

以上、常総市の野犬が多数捕獲され殺処分されていた2015年から犬猫共に殺処分ゼロが続いている現在までをざっと振り返ってみました。


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厚岸町長及び議員、厚岸町の皆様へ

 

厚岸町長 若狭靖殿

現在、北海道の厚岸町で犬が銃殺されていることは、「動物の愛護及び管理に関する法律」44条違反で告発される可能性を否めません。ノイヌとは思えぬ犬を銃殺、また野犬や子犬を筋弛緩剤で殺害するのは法に抵触する可能性があります。

分類上どんな犬であっても「生かす可能性がある犬」を苦しめ死に至らしめることは即刻おやめいただきたく強く申し入れいたします。

犬による町民人命や財産への被害を回避しようとするならば、犬を全て保護するしかありません。常総市長は市民の「野犬を殺せ」、あるいは「助けたい」との、様々な立場の要望を実現するには、最終的には犬たちを保護し、子犬が産まれないようにして行くしかないと判断されました。その間には常総水害という大災害を経験し、被災動物の殺処分問題も乗り切り2015年以来、行政によって処分される犬猫はありません。

今回の騒動は厚岸町にとって災禍ではなく、軌道修正のためのまたとないチャンスでもあります。厚岸町でこの問題が解決できれば、北海道全体が変わり、素晴らしいモデルケースとなるに違いありません。犬だけではなく飼い主のいない猫の問題にも良い結果となっています。

常総市の当時の野犬数と比較しても、厚岸町の野犬全頭保護は容易なことです。

どうか、常総市の実例を参考にされたうえで、「犬の全頭保護など出来るはずがない」という先入観を捨てて、町長として最良のご判断を下されますようお願い申し上げます。

 

厚岸町議会議員の皆様

常総市では県議の先生、市議の先生が大変ご尽力くださいました。会議の呼びかけや保護場所の確保などにも奔走していただきました。自民党・公明党の先生方の熱い思いでここまで来ました。また茨城県では犬猫殺処分ゼロを目指す条例を作っていただき、全会派の先生方がご指導くださっています。


厚岸町議員の皆様には、ぜひ、町民の被害をなくすため、命を大事にする精神を次世代に繋ぐため、「共生・躍動・協働 暮らしに豊かさを実感できるまち」というキャッチフレーズを具現化するためにも、お力をいただきたいと思います。

 

厚岸町の皆様

犬の被害を被っている方、犬を助けたいと考えている方、立場は異なりますが、今まで行政は本当の解決策を打ってきませんでした。

犬を殺すだけでは、この問題は終わりません。

飼い主の元を離れて徘徊している犬をゼロにしない限り、繁殖が繰り返されていくからです。保護団体の皆様も、次々と子犬を引取り続けなければならず、出口のないご苦労に疲弊されてしまいます。


同じような状況から短い期間で立ち直った常総市という地域があることを本日お知らせしました。


今は、官(役所)民(保護団体様、個人ボランテイア様、町内会等)そして、獣医師会、警察など町を挙げての協力が必要です。


是非、この問題に関心を持っていただき、地域の問題として役所や議員の先生方、さらには近隣町とも話し合いの場を持っていただけたらと思います



by鶴田真子美(おかめ)