「ハァハァ、ユノ、もう駄目、もう歩けない…」
結構良い肉づきをしているジェジュンでも足はなかなか細く、慣れない険しい山道では長時間歩くことが出来ませんでした。
「わかった。じゃぁ少し休もう」
そのたびに休憩を取り、山菜まで摘んできてやるユノでした。
「ごめんねユノ、僕、足手まといだよね」
「そんなことないよ。ジェジュンが居るから楽しいさ。だから早く元気を出してくれ」
「…うん」
「…………」
やはり大切な故郷を捨ててきた寂しさとショックで落ち込みっぱなしのジェジュンの気持ちを想えば、ユノは時々胸に沸く‘えーと、ところで交.尾しようって話は?’という言葉を喉で飲みこまざるを得ませんでした。
「……ユノも一緒に食べない?おいしいよ、この草」
そういえばユノが全然食べていないことに気づき、ジェジュンは自分の草を差し出しました。
「うん?あ、いゃ、俺は…いいや、まだ腹が空かないから」
「ほんと?なんだか痩せてきてない?(←自分だけポチャッとしてるからバツが悪い)ちゃんと食べてね」
「あぁ、俺はその辺で食ってくるから、大丈夫、心配するな」
ですがそのうち◇◇
「──ふぅ」
ジェジュンを隠して寝かせている ほら穴に、ユノは深夜遅くに帰ってきました。
「…………」
向こうむきに寝ているジェジュンを起こさぬように、そっと背中に寄り添ってユノが身を横たえようとした時でした。
「──血の匂いがする」
「─────!!
……起きてたのか」
「動物を殺さないでって言ったよね…!」
「だ、だがなジェジュン…、お、俺は元々肉食だから肉を喰わねぇと…」
「ベジタリアンになるって言ったじゃない。それに、食事のことだけじゃない」
「………う、ん?」
ドキつ。
「メスの匂いがする!」
「───!!、あ、あぁ、こ、これはジェジュン、これは狼の本能なんだ、理性とは関係なしに、種族の維持装置が勝手に働くというか…」
「相手はどんな子?若いの?可愛いの?」
「さ、さぁ、そんなの知らねぇよ、プロの姉さんだから獲物と交換で何発か…」
「ユノッ!」
「はいっ!すいません!」
「もう知らないっ!僕に触らないで!向こうへ行って!」
「…ジェジュン(T_T)」
とまぁ、このような痴話喧嘩を繰り返しながらも二人は離れることなく旅をつづけ、辺りの山はすっかりと冬化粧となりました。
それは雪山の険峻な岩場を手に手をつなぎ登っている時でした。
「追手だ、近くにいる!」
ユノは敏感な鼻で狼の匂いを嗅ぎ分けました。
群れの中でもユノに手柄を踏みつぶされた恨みのあるAたち数頭は、どこまでも執拗に二人を追いかけてくるのでした。
「ジェジュンはあそこの岩場に隠れてじっとしてろ。俺が囮でくい止めるから」
「えっ、いやだ、僕を一人にしないで!行かないで!」
「我儘を言わないでくれ、ここは足場が悪いからお前を守りとおすのも難しいんだ。
なに、心配するな、きっと戻ってくるから。
……愛してるよ、ジェジュン」
「ユノッ!」
ユノはジェジュンの口に軽いキスをすると、背をひるがえして敵の中へ挑んでいきました。
ジェジュンはユノに言われたとおりに岩場の穴へ身をかくし、遠くなりゆくユノの影を目で追いました。
─相手は4頭…、ユノ、…がんばって!負けないで!
向こう斜面の激しい戦闘に目をふさぎながらもジェジュンは必至で祈りました。
そして次の瞬間、目の前に信じられない光景がひろがりました。
「────ッ!!」
それは一瞬の出来事でした。
雪山の雪崩が、すべての黒いオオカミたちの影を瞬く間に飲み込んでしまいました。
「─ユノォォッ!!」
◇◇
ジェジュンは冬の間中、閉ざされた雪山の雪をかきわけてユノを探しました。
数頭のオオカミの死骸を見てはイチイチ失神しました。
でも、ユノの遺体は見つかりませんでした。
きっと生きてる。
僕のユノ。
悲しみにくじけそうなときはいつもユノの言葉を思い出しました。
『心配するな、きっと戻ってくるから。……愛してるよ、ジェジュン』
だれよりも
強くて
だれよりも
優しい
『愛してるよ、ジェジュン』
僕だけのオオカミ。
そして──徐々に、ほら穴に春の雪解けの雫がぽたぽたと落ちはじめたある日。
ジェジュンはスン、と鼻を鳴らしました。
【──!?オオカミの匂い?】
こ、これは、
もしかして……!!
ジェジュンは光さす穴の方を振り返りました。

「ほぉ。これはこれは。こんなところに可愛い羊ちゃんが居たとはね…」
────!!!!
「ユノッ!?」
「──なんで俺の名前を知っている?」
「ほんとに!ユノ、ユノなんだね!あぁユノッ!会いたかったーッ!」
【ガバッ!】
「なんだなんだぁ?泣きわめく羊は知ってるが抱きついてくるヤツは初めてだぜ。まぁ狩る手間が省けるがな。お前そんなに喰われたいのか」
………!?
「ユノ…!もしかして僕を忘れちゃったの?」
「オオカミがマトンの味を忘れるわけねぇだろう、本当はラムの方が好きだけどな」
「──あっ…!」
ジェジュンはユノに組み敷かれました。
「ユノ、ほんとうに…僕が、わからないの?」
「だからマトンちゃんだろ?いや、マトン君、か?どっちでもいいや、早く喰わせろ」
ユノがジェジュンの喉元に喰らいつこうとした時、ジェジュンは手をそっとユノの頬に添えました。
───!
「……ユノ…ずっと探してたんだよ。ユノが消えた雪崩の下を。
でも…よかった、無事だったんだね。
きっと、生きてるって…信じてたよ…」
ジェジュンの大きな瞳に透明な涙が盛り上がりました。
「……はぁ?…んだよ、確かに俺は雪ん中でぶっ倒れてたみたいだけどよ。
調子狂うことばっか言ってんじゃねぇよ、お前アタマおかしいのか?いまから俺に喰われるんだぞ?」
「…うん。いいよ。
──僕を食べて…。
思えば僕はずっとユノに食べて貰いたかったのかもしれない。
そうしたらこんなツライ気持ちに気づかなくて済んだんだもの。
仲間たちを裏切って、愛してはいけない君を愛して…。
だけど…、
もう、僕を愛してくれた君はいないんだね。
それなら僕は生きてゆく意味がない。
やっぱり僕たちは出会わない方が良かったんだ。
あの、‘おおあらしのよる’に、出会ってしまったことが間違いだったんだ」
…………、
ユノはポロポロと涙をこぼしながら話すジェジュンの最後の言葉に、少しピクリと眉をあげました。
「……おおあらしの、よる、だと?」
「そうだよ、あの、おおあらしのよる、だよ」
「……おおあらし、のよる、の…」
ユノは更に眉間を寄せると、何やら頭痛でも感じたような苦痛の表情をしました。
そんなユノを見て、ジェジュンは下から両手でユノの頬を包み諭すように言いました。
「そう…僕は…おおあらしのよるの…ジェジュンだよ、」
「…ジェ、ジュン…?」
ユノの脳裏には次々と過去の映像がフラッシュバックしているようです。
『ユノ格好イイ!』
『ジェジュン今日もいい匂いだね』
『おはようのキスして』
『また浮気!?』
『ユノ行かないで!』
『きっと戻るから』
『愛してるよ』
明日 晴れたら
また
木の下で…。
愛してるよ……
ジェジュン
きっと
戻ってくるから
ジェジュン
ずっと
愛してる…。
ハッ!
お前は…
俺の
「ジェジュン!!」
「…っ!思い出してくれたんだね!あぁ、ユノォォッ!」
ふたりは固く抱き合いました。
***
④へつづく
次回最終回「おおあらしのHなよるに」
アメ限な気がします。