あの人と待ち合わせ。

電車の到着予定時間まで、あと30分。


コーヒーショップに入り、お茶を飲む。

持参の文庫を取り出して読む。

落ち着かない。

1分毎に携帯の時刻表示に眼をやる。

あの人がここに着くまであと20分。


10分前。

讀書をあきらめて、ホームに向かう。

どの車両に乗って来るんだろう。

何となく、真ん中付近に立つ。


3分前。

向かいのホームを電車が通り過ぎる。

柱にもたれて、電光掲示板を見つめる。

「まもなく電車が入ります」


一年ぶりの逢瀬。

さっき電話で聞いたばかりのあの人の声。

目を閉じる。

電車がホームに滑り込む音。


停まった・・・。

おそるおそる目を開ける。

目の前のドアの向こうに、あの人がいた。

最近、徳永の「ヴォーカリスト2」を聞く機会があって、そのなかにプリンセスプリンセスの「M」が入っていた。

多分これ、私が中学生の頃にすごくTVで流れてた記憶がある。

あの頃はただなんか切ない感じのいい曲だよなあ……程度にしか思ってなかったけど、あれから十数年、それなりに恋愛もして失恋もして、改めて聞くと、ものすごく「痛い」。

突き放して聞けば単に未練たらたらの曲なんだけど、それでも想わずにいられない哀しさのほうが胸に迫る。

どうしようもない、コントロールのきかない喪失感。



あなたのいない右側に少しは慣れたつもりでいたのに


あなたの声聞きたくて 消せないアドレス Mのページを指でたどってるだけ


夢見て目が覚めた 黒いジャケット 後ろ姿が誰かと見えなくなってゆく

歩き慣れた通り。

行き慣れた店。

一緒に過ごしたたくさんの「場所」。


見慣れた景色。

かぎ慣れた香り。

あなたの右側。


消えない記憶。

優しくて残酷で息がつまる。

愛しくて会いたくて涙がでる。


大好きだったこの街のこの場所で、

もう一度誰かと幸せに笑えるまで、

……あとどれくらい?