最近何度も読み返している記事がある。
星くず小僧さんの『ありがとう』と『お疲れ様でした』という記事である。
書き手に、深い思いがあることは間違いないだろうが、私にはその作品を批評したりするような度量もないので、ただただ感銘を受けたことだけを書き記そう。
そして、その記事を読みながら自分が見たものを思い出していた。
以前の職場に知的障害の女の子がいた。
彼女は、いつも静かに単純な作業を頑張っていた。職場は大手コンビニのお弁当を制作する工場である。
私たちは、一列に並んで流れてくるお弁当のケースに順々におかずを詰めるのだ。その中に彼女がいた。
ある日、彼女が何かしらの失敗をした。今思えば、集団生活が得意ではなかったのだろう、定期的に彼女は早退を繰り返した。
工場長は優しい人だったので特に彼女をしかるわけでもなく、『具合でも悪くしたのかい?仕方ないね、明日はちゃんと出ておいでね。』そう言って早退を許した。『困ったな・・あの子はどうしてやったらみんなとうまく仕事ができるかな?』
そういって心配をしていた。
ある日同じように彼女が早退したいと泣いているのをみた年配の職員が私に言った。
『あの子はね、なんていうのかな、少しね頭が馬鹿になってるんだから、みんなに感謝しながら働くべきだよ。』
若い私が絶句していると、おばさんはその後も話を続けたが私の耳には何も届かず、
気づいたら『そんな言い方はないと思う』そうとだけ私は言っていた。
どんな意味で言ったか知らないが、その日から私はおばさんとしゃべるのをやめた。
そして、時が流れて次の職場に移ったころ。
休憩時間に先輩と談笑していると彼女が話し始めた。
『この前ね、夕飯の買い物にあそこのスーパーに行ったのね、そしたらよく見かける男の人がいてね、私の前でお金を払ってたんだけど何度数えても10円が足りないらしいの。私は早くしてほしいのにいつまでも数えていてさ、仕方ないから10円足してあげたのよ。10円くらいあげてもいいと思って。
そしたら、何度もお礼を言うのよ、しゃべり方も歩き方もすごく奇妙で変なの。
私気味が悪くて。そして、後日またその人に会ったんだけど、近づいてきてまたお礼を言うのよ。私もう嫌になって、もういいです!!って言ってやったのよ。』
私はこの人が嫌だった。話しながら何度もその男の人の特徴をまねて見せた。
別に、困っていたお客さんに10円貸してあげた。そんな話でいいではないか。
後日、そのスーパーの前で、その男の人らしき人物を見かけた。
なぜか、得意げに話していた先輩が憎らしくなった。
この先輩は、随分後に、『お年寄りのために働こうと思って』と言って
介護職員になった。やめていく彼女の送別会に出席しつつ私は、
『あんなことを言っていたこの人は、何ができると思っているんだろう…』
と不思議に思ったものだ。
またさらに年月が過ぎ、ある日私はばちっこの妹とスーパーに買い物に出かけた。
レジカウンターに並んでいると何処から走ってきたのか長身の髪の長い女の子が横に並んだ。
なんだろう違和感がある。まったく見も知らぬ女の子は、その体をぴったりと私に寄せてくる。表情は無表情で挙動不審だ。
レジは、さほど混んでもいないし割り込もうとしている風でもなし。
私は、体を離さずに、ごく自然に彼女に寄り添うようにして立っていた。私のお会計が始まり少し体が離れると彼女もさらに動く。
買ったものを袋に詰める段階になって彼女はおどおどと一人になった。
妹がいった。『あの子、心の病気を持っている人のようだね。見ていたけどお姉ちゃんに不自然にくっついていたよ。なんか、まるで子供がお母さんに引っ付いているみたいだったよ。きっとさ、今日は一人で買い物に来なきゃいけなくなって不安だったから怒らなさそうな知らない人を見つけてくっついたのかもね。
ほら、みて、なんだか不安そうにしているよ。一人で大丈夫かな?ついて行ってあげたいけど急に声かけたらびっくりしそうだね。』
そんな風にいった。
私たち二人は、彼女がきょろきょろしながら店を出ようとするのを遠くから見送った。
私は、この時なぜか、先の二人の先輩と女の子と男性を瞬間的に思い出していた。
少し、このレジにいた女の子にびっくりはしたが、嫌悪感を感じるほどではない。
だから、寄り添ってくる彼女に数秒か数分合わせた。
今でも思い出すのだが、その瞬間私は、自分の存在のオーラを消して無機質になることをほんの一瞬意識した。彼女が怖がらないように。
この思い出を、彼の記事を読んでいて思い出す。
そして、一番は最後のくだりだ、青年がつぶやくシーンと、彼女が小さな革命を起こした。と綴るシーン。
ここがとても好きだ。そして、この視点をもつ書き手の星くずさんは素敵だと感じた。
星くずさん、あなたの記事をかってにここで話してごめんね。