子どものための教育学
実践編(☆:著者 T:教師 C:子ども)
6 好きになる努力をしよう・1
T「初めて出会った人は、好きでも嫌いでもありません。でも、出会った瞬間から、好
きか、嫌いか、普通かがはじまります。だから、どうせならみんな好きになれるよ
うに努力しましょう。」
C「えっ、でも好き嫌いができてしまうことは仕方ないことだと思います。」
T「どうしてそう思うの?」
C「気が合う子もいれば合わない子もいると思います。趣味だって違うし、好きなテレ
ビ番組だって違います。」
T「なるほど。あなたは、自分と違う子は仲良くなれないと考えているんですね。」
C「そういうわけではないけど、そう言われるとよくわかりません。」
T「難しいですね。これは大人でも難しいことです。でもそれは、好きになる努力をし
ないまま、気がついたら嫌いになっていたということなんです。」
C「なんだかよくわかりません。」
T「あなたは好きな食べ物がありますね。でもそれは、好きになろうとして好きになっ
たわけではありませんね。それとは反対だと考えてください。」
C「ということは、嫌いになろうと思って嫌いになるわけではないということですか。」
T「その通りです。」
C「じゃあ、どうして嫌いになるんですか。」
T「いい質問ですね。それは簡単です。自分の思い通りにならないからです。」
T「先生もそうです。先生の思い通りにならない子どもは苦手です。」
C「それじゃあ、みんなを好きになる努力をしようといっていることと矛盾していま
す。」
T「『矛盾』なんて難しい言葉を知っているんですね。『矛盾』ってどういう意味です
か?」
C「『矛盾』という言葉は、中国の楚の国で『どんなものでも突き通せる矛』と『どん
な攻撃も防ぐ盾』を売っていた商人の話からきています。ある人が『その矛でその
盾を突いたらどうなるのか』と尋ねたところ、商人は答えることができませんでし
た。この話から、物事のつじつまが合わない状態を『矛盾』と呼ぶようになりまし
た。」
T「すばらしい。」
C「私、物知りですから。」
T「最近は、意味も知らずに『パワハラ、パワハラ』と口にする子がいますので、言葉
の意味は大切にしたいですね。」
C「先生、話をそらさないでください。」
T「いやいや、そらしてはいませんよ。私も人間ですから、好き嫌いはできます。自分
の思い通りにならない子どもはどうしても苦手ですと言ったのです。言葉を大切に
したいです。『嫌い』と『苦手』は、似ているけれど全然違います。物知りのあなた
ならわかるでしょう。」
C「『嫌い』は心の働き?」
T「その通りですね。」
C「『苦手』は得意でないこと。」
T「そうです。だから先生は、思い通りにならない子は得意ではない子ですという意味
で言いました。でも『嫌い』じゃありません。あなたにもあるでしょう。得意じゃ
なくても好きなこと。」
C「そうか。得意でなければ得意になるように練習すればいいんだ。」
T「いいところに気がつきましたね。先生は、1年かけてクラス全員を大好きになりま
す。そのためには『1番苦手な子を大好きになることです』そうして、これまで同
じクラスの子どもは全員好きになってきました。1番苦手な子を好きになれば、そ
の他の子はもっと簡単に好きになれるでしょう。」
C「でも、そんなことできるんですか?」
T「できるよ。そのためには、勇気が必要です。」
C「どんな勇気ですか。」
T「自分が変わる勇気です。」
C「自分が変わるって、どんなふうに変わるんですか?」
T「自分の思い通りにしようとしないことです。他人は他人、自分は自分、先生は先
生、親は親。生まれも育ちも全部違うんですから、自分の思い通りになどなること
はないんです。だから、自分の思い通りにしようと思わない自分へと変わるのです。」
C「でも、生きていれば、ああしたい、こうしたいって、夢や希望を持つじゃありませ
んか。」
T「その通り、自分の夢や希望に向かって努力することは大切なことで、それを諦めよ
うとは言っていません。話が長くなったので、もう一度何の話から始まったか戻り
ましょう。」
C「友だちを好きになろうという努力の話でした。」
T「よく覚えていたね。つまり、他人を自分の思い通りにしようとしないということで
す。」
C「でも、一緒に学校生活を送っていくとどうしても、友だちに、『ああしてほしいと
か、こうしてほしい』って、思うことはあると思います。」
T「その通りですね。どうして、『ああしてほしい』とか思うのかが難しいところなん
ですが、これは大人でも同じなんです。それは、突き詰めれば『自分さえよければ
いい』という考えが、一番の根っこにあるんです。」
C「私は、そんなこと思っていません。」
T「それならどうして『ああしてあげたい』『こうしてあげたい』と言わないのです
か。」
C「そう思うときもあります。」
T「でも、あなたは、『ああしてほしいとか、こうしてほしいって』思うことが、自分
の中にあるんだということに気づいているんです。」
C「じゃあ、どうすればいいんですか。」
T「簡単です。友だちのために、生きることです。人のために生きることです。自分の
ために生きることをやめる勇気です。これができれば、人がどうであっても、全く気
にならなくなります。つまり嫌いな子はいなくなるんです。」
C「それは、自分のために生きるのではなく、人のために生きるということですか?」
T「これは言い方の違いですが、『人のために生きるとき、それが自分のために生きる
ことになる』ということです。」
C「また解らなくなってきました。」
T「例えば、クラス30人いて、みんなが『自分のためでなく人のために生きるクラ
ス』だとすると、自分には29人の力が集まります。もしも自分のためだけに生き
るクラスだとすると自分のための力は自分1人分です。どちらが自分のためになる
のか、もう解りますね。」
C「本当ですね。私、『天国と地獄』の話でそれと同じ話を読んだことがあります。地
獄では、みんな『自分が自分が』と生きていたのですが、天国ではみんな『人のた
め人のため』と生きていたことを思い出しました。」
T「そうです。同じ場所が、天国になるのか地獄になるのか、それはそこで生きる人の
生き方で決まるということです。」
C「先生、私、みんなを好きになる努力をします。」
T「そうですか。それはよかった。それでは、そのためのいい方法を1つと魔法の言葉
を1つ教えましょう。」
C「そんなことがあるのですか。ぜひ教えてください。」(つづく)