No.11「自分の夢や想いを口にしていこう!」挑戦内容:仲間と協働し、カトラリーを開発する | 挑戦記インタビュープロジェクト

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キャンサーペアレンツ会員たちの挑戦記をご紹介していきます。

 

名前:柴田 敦巨さん
年齢:45
仕事:株式会社猫舌堂 代表取締役
家族構成:夫、長女(社会人1年生)、長男(高校2年生)、そして姫(柴犬)の5人家族
疾病:
耳下腺がん(腺様嚢胞がん)
罹患時年齢:40
概要:
2014年、初発の耳下腺がんに罹患するも、2度の手術を経て復職。経過観察中の2017年に局所再発。腫瘍切除と同時に、形成外科の先生により顔面神経再建術を受ける。また、術後補助療法として化学放射線治療を受け、現在は経過観察中。

 


◆がん宣告前後◆
Q・がん宣告前後の状況を聞かせてください。

看護師として病院勤務していた2014年、初発の
耳下腺がんという診断を受けました。


手術によって、一旦は落ち着いたものの、2017年に局所再発が出てしまい、さらに手術、化学放射線療法を受けました。すでに初発がんに罹患しているのだから仕方がないと思う一方で、再発は初発時よりショックでしたね。


希少がんゆえに標準治療が確立しておらず、化学療法もエビデンスがありませんでしたから、「この先本当に大丈夫だろうか……」という不安がありました。

 


Q・そのときの心境はいかがでしたか?
耳下腺のすぐ側には顔面神経
が走行しているため、手術をすると、その後口を開くことが困難になります。つまり、食事をする際に、うまく口に運べなかったり、こぼしたりしてしまうのです。


もともと友人たちとおしゃべりしながら食事をするのが大好きだった私が、食べている姿を見られたくないからと、人と一緒に食事をするのを避けて、一人で食べるようになりました。ようやく人を誘えるようになったと思ったら再発してしまい、また一人で食事をする生活に……。


私にとって食べることとはただ栄養を取れればいいというものではなく、人との触れ合いを含めて生きていく上で欠かせないこと。当時は本当に辛かったですね。

 


Q・そこからどのように頭を切り替えていったのですか?
初発から1年ほど経過した頃でしょうか。その前からブログを拝見していたTEAM ACC(※)代表の浜田勲さんとコンタクトを取らせていただき、オフ会などに参加するようになりました。


実際に、同じ希少がんに罹患している方々と接しているうちに、「この悩みを抱えているのは、自分だけではないんだ」と思えるようになり、少しずつ前向きに行動を起こせるようになっていきました。


再発治療後にはキャンサーペアレンツのオフ会にも参加し、別の部位のがんに罹患している方々とも幅広く交流させていただくことで、「小さなことにクヨクヨしてばかりいられない!」と励まされていますね。

 

(※)TEAM ACC……腺様嚢胞癌に罹患した方々とその家族が共に生きるためのチーム

https://team-acc.amebaownd.com/

ACC=Adenoid Cystic Carcinoma 腺様嚢胞癌)
 

TEAM ACCのメンバーと。

 

 

◆挑戦について◆
Q・現在、どんな挑戦をされているのですか?

「がん経験によって気付くことが出来た価値で、社会をUP DATEしていく」ためのチャレンジです。具体的には、20202月に株式会社猫舌堂を起業し、主に
カトラリー(食卓用のフォーク、スプーンなどの総称)の開発をしています。

 

 

Q・なぜその挑戦を始めようと思ったのですか?
もともと、こんなに早く起業できるとは思っていませんでした。初発、再発と食事で大変な思いをした経験から、「こんなスプーンやフォークがあったらいいよねー」とか「いつかカトラリーの開発とかしたいなー」といったことは、同じがんを経験した仲間や、旧友によく話していましたし、ゆくゆくは訪問介護などをやりながらカフェのようなものをやりたいとも思っていました。でも、当時の私は病院のいち看護師。

 

そんな私に転機が訪れたのは、会社の制度に詳しい後輩からの一言でした。

 

「あつこねえさん! こんな社内ベンチャー立ち上げのチャレンジ制度があるみたいですよー」と教えてくれたんです。幸い、関西電力系の病院に勤めていた私にも、チャレンジする権利がありました。

 

そのときは、まさか自分のアイデアが採用されるとは全く思っておらず、ただ、「こういったことを考えている人間もいるんだよ」と知ってもらいたかった、というのが率直な動機でしたね。結果はどうあれ、新たな一歩を踏み出してみたいという気持ちもありましたし。

 

その後、不慣れなパワーポイントで資料作成をしたり、役員の前でプレゼンをしたりしながら、2回目の応募でなんとか合格通知をいただくことができました。

 

ほどなくして、病院勤務から、初めて足を踏み入れるオフィスの中の経営企画室というところに移り、半年間の実証実験を始めとした準備期間を経て、20202月に会社を設立し、今に至ります。

 

 


Q・その挑戦は柴田さんにとってどんな意味を持っていますか?
大きく2つあります。一つ目は、繰り返しになりますが、がん経験によって気付くことが出来た価値で、社会をUP DATEしていきたいということです。私の場合は、やはり、大好きだった「会食」という空間が奪われたときの辛さが忘れられず、(がんに限らず)同じ境遇にある方のお役に立ちたいという気持ちが強いですね。


食べこぼしや、食べているときの顔のゆがみがあると、人前で食事をするとき、「どう思われているのか」ということがどうしても気になってしまい、心が臆病になってしまいがち。そうした方々に、他者と一緒に食事を味わう楽しみを取り戻していただくお手伝いをしていきたいと思っています。

 

もう一つは、やはり、チャレンジって、周囲の支えがあってこそできることなんだということ。


後輩のひと言がなかったら、私はこうして会社を立ち上げられていませんし、仲間がいなかったらがん罹患後、こんなに積極的に生きることもできなかったでしょうね。


私、学生の頃から、何かに一生懸命取り組むタイプではなく、いかに楽するかばっかり考えていましたから(笑)。そんな私が、多くの方に背中を押してもらいながら、ここまでやってこられた。

 

一つ忘れられないエピソードがあります。以前、TEAM ACCのメンバーとディズニーシーに行ったことがあるんです。そして、食事にハンバーガーを食べることになりました。それまでの私たちは、普通の食事をとるのにも苦労していて、「ハンバーガー? 今の私の人生には関係ないわ!」という面々ばかり。そんなメンバーたちと、「せっかくだし、みんなで食べてみようか」という流れになり……。

 

最初はどうせ無理だろうと思っていたんです。でも、みんなで楽しくおしゃべりしながらほおばってみたら、なんと絶対無理だと思っていたハンバーガーを全部食べられたんですよ! 「私の口って、こんなに空くんやー!」と(笑)。仲間がいれば、できないと思っていたことにもチャレンジできるんだということを実感できた一日でしたね。

 

 

 

◆皆様へメッセージ◆
Q・これから何かに挑戦しようとしている方に、挑戦することの重要性を伝えてください。

一歩踏み出す勇気というか、まずは小さくても行動することが大切なのかなと思います。行動していれば、応援してくれる人も出てくるし、踏み出したことで今まで開かなかった扉も開けてくる。


振り返ってみれば、TEAM ACCやキャンサーペアレンツへの参加も、私にとっては大きな一歩でした。そして、そういう仲間に出会えたら、自分の夢や想いを口にすることも大切だと思います。これからも仲間と支え合いながら、一度きりの人生、思いっきりチャレンジしていこうと思っています。

……柴田さん、本日はありがとうございました!

(了)

【取材日:2020427日】

 


株式会社猫舌堂とは……

がんや麻痺などによって食べることに苦痛を経験した方々が、食べる喜びを取り戻すきっかけを作りたい。そんな思いから看護師やがん経験者のメンバーによって猫舌堂はオープンしました。その一貫として、オリジナルカトラリーの制作に至ります。猫舌堂ではオリジナルカトラリーの他に、がん経験者やその家族などが情報交換できるサポートコミュニティを通じて、新しい価値で社会をUP DATEしていきます。猫舌堂はがんと共に生き抜くために一緒に体験しながら食のバリアフリーを目指しています。

【 出典:公式HP https://www.nekojitadou.jp/ 】