希少、まともな中国人の王千源さんが中国から攻撃されてる


米・デューク大学でチベット派と中国派の仲裁に入った中国人留学生が脅迫される


同胞から狙われた中国人留学生に聞く「愛国主義の暴走は愚民化教育のツケ」

 北京五輪の聖火リレーを追って、中国人留学生らが世界各地で誇示した「赤い愛国主義」は、これにくみしなかった米デューク大学1年の中国人女子学生、王千源さん(20)に脅迫、嫌がらせという牙をむき出しにした。中国で高校を終えて渡米するわずか1年前まで、江沢民政権時代に始まる「愛国主義教育」をたたき込まれた王さんが、同世代の留学生らを民族意識の暴走に駆り立てる「愚民化教育」の構図について語った。(米ノースカロライナ州ダーラム 山本秀也)

 --まずは、発端となった4月9日のことから

 「夕方の6時ごろから大学の東キャンパスに人が集まり始め、7時から8時にかけて西キャンパスで集会が始まったんです。あの活動が公式なものなのかは知りません。中国側の参加者からはあまり建設的な意見はなく、米国の学生も完全に筋が通っているという印象ではありませんでした。学生の意見だから、まとまりがないのも自然でしょ?米側は人権連盟という学内組織で十数人、中国側はデューク大学中国学生学者聯誼会が中心でした。

 私は(自分の発言が)おどろおどろしく、歪曲(わいきょく)されたと感じています。大学内での言論の自由、つまり自己の見解を表明できるということが、なぜこんな大事にされなければならないのか。少なくともあの日、私はチベット独立を支持するとは言っていません」

 --最初の一言はなんと

 「まず冷静になりましょう、と英語で言いました。米国の大学ですから片方に通じないのはダメ。互いに話し合って、理解を深めるべきだと言ったはずです。あと、知恵を出そうよ、というような話もしたのかな。私、暴力が大嫌いなんです。

 チベット問題って、民族問題ですよね。(中国側の主張は)民族と国家という概念をゴチャ混ぜにして、漢民族が中華のすべてだと言っている。実際には漢民族以外にも少数民族はたくさんいる。私をつかまえて『漢奸』(外国と通じた漢民族の裏切り者、売国奴)と決め付けるような言い方は、中国人自身を敵にする、つまり自分と一致しない者はみな敵だという感覚です。そんなことなら中国の国土はもうドンドン小さくなってしまう。自分と違う民族は、周囲を含めてみな劣等民族だって考えなんだから。米国流に言うなら、ネオナチズムにも通じるんじゃないかな」

--もう少し集会の模様を聞きたい

 「中国人がすべてあの団体(学内の留学生組織)だったかは知らないけど、400~500人はいた。普段はあまり集まらないのに、『愛国』っていう枕詞(まくらことば)は中国じゃすごく動員力があるんです。でも、愛国だといいながら、実際は全然違う。愛国を口実に同胞をいじめるのは大間違い。チベット族だって同胞なのに、自分の民族を愛せない愛国ってどういうこと?チベットが国土の一部だって言いながら、チベット族にあんな対応をするのは、それこそ民族分裂活動よ。

 愛国っていう言葉、誰もよく分からないで概念だけが乱用されている。愛国か否かっていう帽子ね。これを考え方の違いだけを理由に勝手にかぶせて、人に危害を加えている。(中国の)憲法には公民の権利も規定されていて、少数民族への差別を禁じたり、信仰の権利も保障されてはいる。それが守られないなら、憲法や政府って一体、何の役に立っているんですか。政府や司法機関が憲法を守れないっていうのなら、政府自体が反政府、というおかしなことになりませんか」

 --ここであなたが受けた仕打ちを聞かせてほしい。現場ではどんな言葉が

 「東キャンパスにいたうちは、(各グループが)一緒にかたまっていたんですけど、英語で『恥知らず』と罵倒されました。西キャンパスに移ってからは、『この女、どっから来たんだ』とか、私が柴玲(天安門事件の女性民主化リーダー)に似ていると言ってきて『お前ら焼き殺してやろうか』だとか。『漢奸』『売国賊』というのは、もうこの時から始まりました。中国語で相手を罵っている分には、法的な責任を逃れられるとでも勘違いしているみたいですけど」

 --言論の自由のはき違えか

 「言論の自由とは、他人の権利を侵害しないことを前提に自己の見解を表明する権利でしょう。文明社会なればこその概念です。あの時、現場にいた中国人が自分の言動を理にも法にもかなっていると思ったとしたら、こういう行為がどんどん広がる。中国に戻っても、こんな法治概念のない行動を繰り返すなら、国はどうなるのでしょうね。世間を変える力がないなら、せめて現場にいた人に呼びかけたいと思って、私は筆を取りました。私の見方と少し違うのですが、なるべく彼らの考えに即してまとめたのです」

 《王さんは集会の記憶が強烈な10日未明、『同胞に致す書』と題する文章をまとめた。漁夫の利のたとえなど故事を交えながら、チベット問題で在米中国人が同胞を敵視していれば、誰を利することになるのかといった内容だった》

 「この文章を(留学生組織の関係者に)メールで送りました。彼らは自分たちの行動がうまく行ったと思っていたので、私が現れたのがよほど意外だったようです。彼らの心理をたとえるなら、自分たち(中国人)は誰かにいじめられてきたから、誰かをみつけていじめ返す権利があるという考えでしょう。これは根本的な間違いですよ。仮に過去の被害者であっても、現行の法律を犯す権利など誰にもありません。

 8カ国連合軍(清末の義和団事件に対して派遣された列強の制圧部隊)の被害者だからといって、チベットで暴力的な対応をすることもおかしい。こうした恨みは、世代を追って深くなりかねない。こんなの必要ないと思いませんか。フランス大統領の発言に対する怒りをフランス人やフランス商店にぶつけるのも間違い。(中国は)堂々たる大国というのに次第に偏狭になるとは…」

 --あなたの中国・青島(山東省)の実家まで被害に遭ったと聞く

 「10日かな。ネットで私の身分証明番号なんかが全部暴露されたんです。実家にこちらから電話はしていません。電話って録音されたりで、安全な連絡方法じゃありませんから」

 《インターネット上では、王さんの学歴や現住所、電子メールアドレスなどの個人情報に加え、実家の住所や両親の勤務先までが暴露された。メールアドレスなどは中国人留学生のサークル内で共有されていたが、実家の住所などは普通では知りようがない。この直後、実家の玄関脇に『殺売国賊』(売国奴を殺せ)という赤ペンキの落書きが発見された。また、ネット上では、王さんの父の名で娘の不始末をわびる謝罪文もでまわった》

 「母からの連絡で、あの文章は父が書いたものではないと知りました。父にしても私の代わりに謝るなんてことはできませんよ。誰かが私の父をかたって流したんです。文書偽造ですけど、DVDソフトとか中国に偽造品はたくさんありますから。(個人情報の流出については)中国人学生の連絡先などを全部知っている人(王さんは実名を指摘)がいるんです。

 たとえば、ここの大学から合格通知を受けて、まだ入学するかどうか分からない段階でも、この人はすべての相手にちゃんと連絡のメールを送ってきます。(留学生サークルのネットなどでは)私の悪口があふれていましたが、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズの取材が来るようになると、あわてて削除を始めたようですよ」

 --直接、脅迫などは受けているか

 「直接にはないですね。手紙や電子メール、電話なんかはたくさんきます。メールは少しマシになったかな。発信元も特定できますから。時間がたつにつれて、私を支持してくれるメールも増えています。(被害については)近く弁護士に相談する考えです」

 --留学生組織などは「愛国主義」を声高に叫んでいる。あなたの考えを聞きたい

 「愛国主義は人をたたくことじゃない、とまず一言。いまの問題は(愛国主義が)排外的なだけでなく、“排内的”ですらあることだわ」

 --なぜそうなるのか

 「愚民化教育のせいですよ。国というより政府、教育機構が教育を進めるわけですが、人が愚かであるほど政府は御しやすいと感じているのです。中国の学校では道徳教育が足りないと感じますが、いまの道徳の時間は政府の宣伝(プロパガンダ)だと思っていました。放送や新聞(いずれも中国当局の公式メディア)の内容は、『仮』(でっち上げ)、『大』(針小棒大)、『空』(無内容)な話ばかり。ざっくり言えば駄ボラか大ウソかな。

 こんな教育を続けていると、国民の政府への信頼を傷つけるほか、国民相互の信頼や尊重もなくなります。チベット問題の処理にも尊重ということがないし、私への扱いだって尊重されているとは思えません。中国では、自分はよくやっていると思う人がいたら、まわりから病気扱いされます。でも米国では、アメリカン・ドリームを描くことをよしとしますよね。誰もが理想や抱負を持って当然なのです。この対照的な思考方法は、民族的な違いばかりだとは思えない。愚民化教育が、思考を硬直化させる道具になっているのです」

 --中国で行われている愛国主義教育をあなたも受けたはずだ

 「愛国主義教育は、きれいな言葉できたないものを覆っているのです。過去の被害で現在の他者を攻撃するようなものでしょう。文化大革命にしても、現在の問題にしても、最も醜い思考をもって、自己の形をゆがめるようなものです。互いに排斥し、冷たい目で見合って、隣人同士で不安を醸成している状況は、もはや多方面に影響が及んでいます。

 いまの指導者層は、文革中の紅衛兵だった世代ですよね。文革って、能力を得たいと思う人からチャンスを奪う時代だったんじゃないかな。いま私を脅している人にしても、自分で考えて意見を表明するようなタイプが現れるのが怖いんだと思う。中国は大きな国ですから、実際には能力のある人がたくさんいるんですけどね」

 --国内での学生時代に遭遇した反米、反日デモを覚えているか

 「当時はよく分かりませんでした。当時はまだネット環境がよくなかったので、中国メディアの報道をみていました。米国については『覇権主義』と呼ばれていましたね。覇権主義的な要素は、米国に確かに存在しているとは思います。ですが、米国の場合は国民が自由に政権を批判できます。覇権主義を批判した口で、別の人を覇権主義的な態度でたたくのはどうかしています。中国にしても、米国の覇権主義を批判しながら、実際には自分も覇権主義の夢を追っている。いま私はベトナムについて勉強しているところです」

 --将来はどうする

 「まだ学部の1年目なので、専攻は決めていません。できれば修士、博士まで進みたい。20~30年後がどうなるのか、ちょっと予測はつきませんが、私は中国に帰って民主政治に携わりたいと思っています。そのためにも、政治、経済、法律をそれぞれ修める積もりです。学校を終えたら、まずは国連機関の職員を目指しますよ」



 王千源さんへの脅迫事件 北京五輪の聖火リレーが米サンフランシスコを通過した4月9日、デューク大学構内で、「自由チベット」を叫ぶ米国人学生らの十数人と、親政府系の中国人留学生ら400人あまりが対立。緊迫した空気のなか、同大1年の王千源さんが対立を避けて話し合うよう中国人に呼びかけた。

 王さんの仲介申し入れに対し、中国国旗を掲げたデモ隊は「漢奸(売国奴)」などの中傷を集団で浴びせた。直後に王さんの個人情報がインターネットでばらまかれ、中国語で「死体を刻んでやる」といった悪質な脅迫が殺到した。米メディアが事件を報じて、米国社会の強い関心を呼び起こした。

http://sankei.jp.msn.com/world/china/080504/chn0805041252005-n1.htm

中国人はチベットは中国といいながら、チベット人を同胞扱いしてない。
これが多くの日本人が抱く違和感だと思う。
同胞だと思うなら、なぜ中共政府にチベット人弾圧を止めるように言わないのか。
チベット人の訴えに耳を傾けるように言わないのか。