迷子の少年は
迷子のウサギと出会った。
迷子になりそうな森の奥に来たのだから無理もない。
触れようとされるだけで怖がられたが、やがて馴れた。
冷めた木陰でただじっと朝日を待っていた。
そして太陽と共に迷子の羊達は迷子のウサギを連れてやってきた。
ウサギは会いたかったウサギに会えたのでもう迷子ではなくなった。
「そろそろ行こう。」少年と羊達はそう言って、また何処かへ歩き始めた。
◆
夕飯を作っていると外で喚く橙色の野良猫は、
ドウゾと扉を開けて迎えるとやっぱり出て行こうとする。
遠退いた彼は洒脱な紳士のように佇んで生ごみ達をしばらく眺めていた。
「欲しい物を知らない虚しさ」と「手に入れ方を知らない悔しさ」
そなたが湖に落としたのはどちらだと問う女神に、
君の方こそどうなんだと問う木こりを空想しているうちにオムライスが出来た。
たぶんそこでデミグラスソースの作り方を間違えたんだと思う。
美しい日々をごちそうさま。
傾けて置いてしまった食器洗剤から少しずつこぼれていて
それでも皿はピカピカだったから、大丈夫。
頼まれ物をもうすぐ描き終えそうで終えられない夜に、
頼まれてもいないのにしてしまうあれこれを何だか尊く思って
ともあれするべきことがある今をむしゃむしゃ猫のように噛みしめていたら
削れた氷のやたら美味しい夏に来ていた。
もうすこし頑張る。
楽しい夏が待っている。