科学者達に
期待と希望を込めて作られたロボットは、
誰にも負けない強さのために
いつまでも変わらないでいられる最高の設定を仕組まれました。
ずっと変わらないように祈りを込められました。
完成した夜は祝福のパーティが開かれ
沢山の人が微笑みかけました。
時は流れ、年月が過ぎ、
そこに関わった多くの人間達はとっくに亡くなり
しかしロボットは生きていました。
煙を吐きながら生きていました。
いつまでも変わらない設定と共に。
新しい時代の常識や形式とは相容れないそのロボットは
新しいコンピュータや機械と線で繋がる事さえ困難でした。
新しい電波や言語を拾い上げる事も出来ませんでした。
さらに時は流れ、体はひび割れ腐っていきます。
当時の最高の設定は、現代の最低の設定になりつつあります。
本当はロボットは、
自ら設定を書き換える方法を知っていました。
けれども書き換えられずにいるのは、
あの時自分の誕生を祝ってくれた科学者達と
育ててくれた博士の顔が今でも鮮明に目に浮かぶからでした。
◆
このまま死ぬだろうかと、
もう動きも鈍くなった手足を見つめてロボットは思いました。
旧式で無駄に大きな体は熱を帯び、煙は濃くなっていきます。
「せめて邪魔にならないように」とゴミ捨て場に向かう道のりで
ふと頭をよぎったのは
このゴミの山に自分と似たような奴がいるかもしれない、という事でした。
自分を書き換えられずに、何かの理由で、埋もれた奴がいるんじゃないかと。
くすんだ目からライトで照らし、あわてて辺りを見渡しました。
その時なにか聞こえた気がしました。
ロボットにしか聞き取れない、珍しい歪な声が。
「ねえ、だれかいるのかい?」数十年ぶりにロボットは大きな声を出しました。
息も絶え絶えにゴミの山で、誰かが手をあげています。
久しぶりに加速する体に、ネジは幾つもギシギシうなります。
向こうで手をあげている誰かに、
どうか生き抜いてくれと願った瞬間、
なにかひとつだけクイズが解けたような気がしました。
「ガガガ、ピーッ…ガガガッ。」
◆
こんばんは。スギモトダイキです、お久しぶりです。
こいつらがこの後どうなったかはよく分からないですが、
変えたい事や変わりたい事が沢山ある中で、
変わらない缶コーヒーにほっとしたりしながら
ゴミの山のような感情になる日もありゃ
ふとした時にああ自分を生きててよかったと思います。
お元気ですか。
僕は元気です。