霧と小雨の日は長文のブログになる。(Feb. 19, 2024) | 微睡のブログ〜八ヶ岳南麓から〜

微睡のブログ〜八ヶ岳南麓から〜

八ヶ岳南麓、北杜市長坂町小荒間に在住。ときどき仕事をしながら、読書、音楽鑑賞、カメラ撮影、オートバイツーリングなどの趣味を楽しんでいます。

2月19日(月)

 8時半起床。小雨。気温8度。体重72.2キロ。

 

 

 薄い霧がやさしく森を包んでいる。庭の雪は完全に消えた。季節は三寒四温の候になり、今日は寒の日だったがストーブはつけなかった。

 

 

 9時半、東京へ行くK子を中央道八ヶ岳のバス停まで送る。

 明後日の文学講座第49回の以下のような告知メールを参加予定者に出す。

 

 三寒四温の候になりました。まだまだ寒いですが嬉しい春の足音が聞こえてきました。ヴァレンタインデーは過ぎましたが、冬が長く厳しいヨーロッパの人々にとって、これら季節の行事は春への里程標なのだそうです。また一つ春に近づいたと喜びもひとしおなのでしょうね。月一回の文学講座もそんな里程標であればと願っています。

 文学講座第49回のお知らせです。日時は2月21日午後1時半〜3時半で、場所は八ヶ岳文化村2Fラウンジです。

 今回は吉野源三郎『君たちはどう生きるか』を読みます。昨年宮崎駿監督が同名のアニメ映画を発表して世界的に話題になり――アカデミー賞も受賞するのではないかとの予想もあるやに聞いています――そのこともありこの本を選びました。

 甲府へ映画も観に行きました。映画の中に主人公の少年が死んだ母親が遺してくれた同書を手にするシーンはあるものの、映画の内容は直接『君たちはどう生きるか』とは関係ありませんでした。とはいえ、映画に同じタイトルをつけ、主人公が同じくらいの年齢であることを考えると、深いところで二つは繋がっていると考えるべきでしょう。機会があれば、もう一度映画を観て、その繋がりについて考えてみたいと思います。

 以前次のような紹介文を書いたことがあります。

 

   ぼくはモンテーニュからものの見方を教わった。それは、簡単に言えば、何事も決めつけてかかるなということだ。どんなに臆病な乙女だって、恋人に会うためならば、夜の森を抜け、屍を越えて行く。モンテーニュの時代は宗教戦争の最中だったから、死骸があちこちに転がっていたのだろう。ともかく乙女を臆病と決めつけてはならない。そして、歴戦の強者もいつも勇敢だとはかぎらない。彼らが意外な弱さ、もろさを見せることのあることを、モンテーニュは古典の蘊蓄を傾け傍証してくれる。ぼくらは人間について「何を知るか」(Que sais je?)がモンテーニュの座右の銘だった。

 ものの見方ということで言えば、吉野源三の『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)もぜひ読みたい。一五歳のコペル君(もちろんニックネームで、その由来は推測できよう)が学校や家などで経験して疑問に思ったことに、法学士の叔父さんがノートで答えてくれるのだが、大切なのは答えではなく、ものごとに疑問をもつことなのだ。ぼくがこの本を読んだのは大人になってからだが、中学生ぐらいの時に読みたかったと悔やんだものだ。しかし、ぼくは、頁をくりながら、好奇心が旺盛で、偏見や固定観念に縛られてなかったころの自分にいつしかもどっていたのだった。

 

   例によってぼくの乱雑な書棚を探しても岩波文庫版が見つからなかったので金田一春彦記念図書館へ借りに行くと、図書館にも岩波版はなく、『君たちはどう生きるか』のマガジンハウス版が児童文学に分類されてありました。この本が児童文学に分類されていることに文句はありません。小学校の上級生から中学生ぐらいにもっとも読んでほしいからです。しかし岩波文庫の青帯に分類されていることからもわかるとおりり、刊行以来、本書は哲学・思想の書として愛読されてきました。好奇心にあふれ、感受性のしなやかな少年少女に読んでもらいたいことはもちろんですが、好奇心を失い、感受性が鈍麻しているのにそのことに気づかず、常識という名の偏見に囚われがちな大人こそが――もちろん自戒をこめているのですが――読むべき本だと思います。今回再読し、世界に目が開かれ、読書に興味を持ち始めた少年時代にもどることができました。

 

 

 午後は小酒井不木の「人工心臓」や「恋愛曲線」を読む。さすが医学者である。医学の知識があるので人工心臓を作る過程の記述には説得力がある。惜しむらくは短編小説であることで――短編小説家を自認していたのであろう不木を批判する意図は毛頭ないが――もしもロマン(長編小説)であればもう一つの『フランケンシュタイン』になっただろう。もちろんそれはないものねだりで、SF的要素もある怪奇推理小説として2作とも読み応え充分な傑作である。雑誌『新青年』を舞台に相当影響力があったのではないか。