前回のつづき
黄昏時の贈り物
コンコン…
突然、車の窓をノックする音にびっくりして顔を上げると、カメラを持った一人の男性が立っていたのじゃ。
「車中泊で写真ですか?」
と彼が聞いてきた。
ワシがうなずくと彼はさらに言ったのじゃ。
「実は私は星空を専門に撮っているのですが、これからいったん外食をしてから夜中にまた来ますからよろしくね」
と言い捨てて、そのまま撮影もせずに徒歩で坂を登って行ったのじゃ。
車は坂の上に置いて来たらしい。
桜の様子を見に、夕食の前に立ち寄ったのじゃのう。
へへえ… 星撮影の専門じゃと言ったぞえ。
わしも星空を撮ったことがあるにはあるが、車中泊をしたついでに暇つぶしに撮るだけでのう。そんなに真剣になって撮影したことはなかったわい。
この際じゃ。
星空撮影の極意を教えてもらおうかのう。
こりゃあいい考えじゃ。
しかし真夜中の撮影なぞ、年寄りにはちょいと過酷じゃのう。
寝不足で大事な明朝の撮影が出来なくなってしまうわい。
そうじゃ。今のうちに眠っておけばいいのじゃ。
…と思いながら後ろのベッドルームへ移動しようと、何気なく車窓に目をやると…
ほほう!
薄曇りだった空はいつの間にか晴れ間が広がり、雲がちょいとばかり染まっているではないかえ。
この場所は山が目前まで迫っているから、夕焼けは望めないと思い込んでいたのじゃ。
夕焼けの撮影なぞ最初から頭になかったわい。
視界が広がった海辺などとは違って、お天道様はすぐ山にお隠れになってしまうからのう。紅色に染まるとまでは行かないのじゃが、思いがけない贈り物じわい。
こうなるともう眠ってなんかいられないぞえ。
夕焼け空のドラマはこれで終わりじゃ。
あの星空カメラマンが来る夜中までにはまだ時間がある。早速布団にもぐりこむとするか。
じゃが本当に真夜中になぞ来るのかのう。
…などと思いながら、しばらくウトウトしたようじゃった。
どれほど刻が過ぎたのか…。
車の音でふと目が覚めた。
4月14日撮影
つづく
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