前回のつづき
涼を求め~③秘密の花園
無断転用禁止
長野県・御射鹿池を後にして、そこからあまり遠くない“秘密の花園”を目指したのじゃが、ちょいと困ったことになってしまったのじゃよ。
というのはその花園をワシが訪れたのは随分昔のことでのう。
今では記憶があいまいになってしまって、御射鹿池からの正確な道筋をはっきり覚えていないのじゃよ。
幹線道路から脇道へ入って行くことだけは間違いないのじゃが、その脇道がこの辺りには何本もあってのう。
どの道に入って行ったらよいのかさっぱり分からなくなってしまったのじゃわい。
仕方がない。
こうなったらもうどの道でもいいから入って行ってやれ。
とばかりに、目に入った脇道に目くらめっぽう突入して行ったのじゃよ。
ところがその道はどうも別荘地専用の道だったようで、よそ様の別荘へ到着してしまったのじゃわい。
慌ててUターンしようとしていたら別荘の窓からかなりご年配の女性(と言ってもワシよりはお若いのじゃが)が不審そうな顔で覗いておられてのう。
ワシはこれ幸いとばかりにその女性に道を尋ねてみたのじゃ。
しかしその女性に“秘密の花園”などとと言っても、これはワシが勝手に名付けただけじゃから分かるはずもないからのう。
この半ボケ老人の頭の中にかすかに残っている花園への道の様子などをあれこれ説明してみたら何とか分かってくれたのじゃ。
いったんメインストリートへ出て、もう5分ばかり行くとその道があるらしいわい。
ありがたやありがたや。
ここへ迷い込んだお陰で親切な女性に出会えてよかったわい。
立ち去るときにお礼を言ったら「また話しに来てね」と言われてしまった。
こんな森の中に一人で住んでいると人恋しくなるのかのう。
さて、教えてもらった脇道を何とか見つけ、狭い未舗装の山道へ突入して行ったわい。
車が一台通れるか通れぬかぐらいのデコボコ道をガタンゴトンと揺られながら慎重に進んで行くと、見覚えのある懐かしの“秘密の花園”がついに見つかったのじゃ。
道路際から赤い花が遠くの方に見えた時は嬉しかったのう。
しかしそこへ行くためには足首が浸かるぐらいの泥濘の中を歩く必要があるのじゃ。
早速長靴に履き替えて、泥にまみれながら数十メートルばかり歩いて行ったわい。
とうとう来たぞえ。
これがワシの“秘密の花園”・クリンソウの群生地じゃ!
なんじゃ。
またクリンソウかいな。
クリンソウならつい先日も撮ったばかりではないかえ。
その通りじゃ。
しかし同じ花でも咲いている環境によってまるで雰囲気が変わるからのう。
どうじゃ。先日の熊の出るというあの森のクリンソウとはちょいと違う光景じゃと思わぬかえ。
高い樹木が覆いかぶさるように立ち並ぶ薄暗い森の中に、このわずかな空間だけがぽっかりと開いている。
地面にはどこからともなく少しずつ水も流れているわい。
この清水のお陰で、毎年のようにこうして花が育まれているのじゃのう。
これが山深い山中に人知れず咲く“秘密の花園”の正体いうわけじゃわい。
観光地のように混雑することもなく、勝手気ままに撮影できるのはありがたいが、その代わり囲いもなければ木道もなく、泥濘と格闘しながら歩かねばならぬ。
水中花?😜
この辺りが流れの出口じゃ。
バックのボケは周りの草と水面。
水がわずかながら流れているため水鏡とは行かぬわい。
それにしても静かなものじゃ。
訪れる衆はあるのじゃろうか。
先程この道を教えてくだされた女性もクリンソウの在り処はご存じなかったわい。
あの女性はこの土地に住んでから30年だとか言っていたのじゃよ。
それでもここをご存じないのじゃからまさに“秘密の花園”じゃわい。
もっとも自宅とここの別荘の半々の生活らしいのじゃが。
直立不動で真上から一枚。
やっと楽チンスタイルで撮れる花があったわい。
ここのクリンソウは赤一色だけのようじゃ。
先日撮ったクリンソウは赤、白、ピンクなどがあったのじゃがのう。
さあて。
いつまでいても限がないわい。
先程から持病の腰が痛くて仕方がないのじゃが、こんな泥地では座ることも出来ぬしのう。
そろそろ撤退する時が来たようじゃ。
元気ならばいつかまた来ることがあるかもしれぬが、これが見納めになってしまう可能性もあるわのう。
寂しいことじゃが今日のところはこれでオサラバするとしようわい。
もう一ヵ所涼しい高原が待っているからのう。
今日はそこでこのシリーズ最後の一夜を過ごすつもりじゃ。
つづく
無断転用禁止





















