バブルの頃は、節税対策にマンションを買う人が大勢居た。

税金が戻って来るだけでなく、条件のいい物件は買った時より

値段が上がるので、利回りのいい投資になったからだ。

なので、投資用マンションに関する問い合わせも沢山受けた。
「娘が東京の大学に行くことになったので、借りるよりワンルーム買って
 またこっちに戻って来るなら貸すなり売るなりした方が得なかって思って」 

「独身だと税金持ってかれるから、マンションのローンで赤にでもしないと
 還付されないでしょ。賃貸収入でローン返せばおつりくるしね。」
 


いくら還付されるって言っても、年収500万の会社員が
投資用マンションを2戸も持って病気にでもなったらどうするんやろね・・・・

毎日電話で問合せを受けながら、漠然とした不安を感じていた。
その不安はバブル崩壊時に現実のものとなるのだが、、、。
コールセンターのフロントラインでお客様の生の声を聞いていると、
世の中の少し先の動きが見えることがある。


バブルの頃は、不動産は上がって当たり前。

都心の築20年のマンションが5000万で売れたので、
郊外の一戸建てを買ったなんて話があちこちで聞かれた。


マンションメーカーの受付センターでもチラシを入れる時点で完売物件が続出し、
「いつかけたら欲しい部屋を買えるわけ!」とお叱りを頂く事も少なくなかった。

人気の高い部屋は抽選で、手付金10万を事前説明会の会場で払って
初めて抽選できるなんて事も普通だった。


関西だと京都市内は建物の高さ制限や美観条例などから物件数が少なく
億ションも珍しくなかった。 『京都市内でマンションを探しています。
 お恥ずかしいんですが、予算が6000万しかないので、
 ファミリータイプは無理だと思うんですが…。
 何とか2LDKでないでしょうか。』 『京都市内で6000万ですか、、ちょっと厳しいですね。
 今ご案内できる物件ですと、2DKなら何とかございます。』 『2DKですか…。やっぱり1000万程度親に援助してもらえないか聞いてみます。』 『それができましたら、ご案内しやすいですね。
 では、お待ちしております。』 6000万なんて勿論私にはなかったが、電話では毎日当たり前のように
こんな対応をしていた。

今まら思えばうそのようだが、確かに普通のサラリーマンでも
こんな話が出来る時代があった。




コールセンターで『もっと臨機応変にできないの』と言われて


『臨機応変って、たとえば?』と思ったオペレーターは多いだろう。



その時によって、状況もお客様も違っている。


どうすれば良かったのかも、イロイロだ。




例えば・・・・・・・・



新人オペレーターがお客様に怒鳴られている。


側溝に車の左2輪を脱輪させ、ロードサービスの要請依頼だが


動揺して住所や目印が上手く言えない。


相手に圧倒されて、新人オペレーターは「はい、、」しか言えなくなっている。


その頼りない対応に、お客様は更に激怒されている。


オペレーターに「保留にして」メモを見せても、“暫くお待ち下さい”も言えず


却ってこちらをにらみ返して来る。




その時私はどうしたか・・・・・











黙って電話を保留にし


オペレーターのヘッドセットを奪い取り


固まったままのオペレーターを突き飛ばし


席に座って話し始めた。





たとえば、臨機応変とはこういう事だ。


言うのは簡単だが、何をどうするのか


具体的に話すか、やってみせないと分らない。




























お客様は神様です


そう…その通りだが、中には高ビーな神様、揚げ足を取る意地悪な神様もいる。



連休前や研修シーズンなどはどこのホテルも混んでいるので、空きが見つかると『すぐにお電話をして下さい』と連絡するのだが、

『今かけろって言われたから架けたけど、満室って言われたわよ。他を調べて』と架かってくるとまたやり直しである。


念のためにそのホテルに連絡すると、『え?あのお客様だったんですか…。ちょっとお言葉が…。そちらからのご紹介であれば、何とかさせて頂きますよ』となる場合もある。



そう…お客様は神様です。

でも、神様かどうかは、こっそり別の審判が下されていたりする。


そのお客様は、最初からけんか越しではあった。


東京で6000円までのビジネスホテル、10分以内に探して、急いでるんや!

・・・恐れ入りますが、東京のどの辺りでお探しでいらっしゃっいますか?

場所?そんなん言わんと調べられんのか!もういいわ!

・・・申し訳ございません!すぐにお調べしたいので駅名をお願いします。

うるさいな~!品川。すぐに調べて電話しろ!

電話は切れた。



新幹線が止まるまで、品川駅周辺はビジネスホテルが少なかった。

春の研修シーズンで予想通りホテルの空きはなく、


山手線沿線の前後の駅を調べたが6000円以下など到底なかった。

取り敢えず10分経ったので、恐る恐る連絡をして妥協案を探る事にした。


ホテルがない!東京やったら山ほどあるやろ!

料金が高いて、わしも何回も東京行ってるから、あんたより知ってるんや!

場所か値段かどっちが優先て、それ言うたらすぐ見つけられるんか!

それでもプロか!ごちゃごちゃ言わんと、はよ探せ!


おまえの言い方がむかつんじゃ!


一言言うたびに勘に障るらしく、激怒された。

「なんで、今日はこんなに怒らせてしまうんやろ(涙)落ち着け落ち着け…」

折れそうになる気持ちを抑えながら、エリアを広げて調べ続けた。



調べている途中に、連絡が遅い!とお叱りの電話が入り


その電話を受けた同僚のオペレーターが「もの凄く怒ってはるで。


何をあんなに怒らせたん!」と心配するほどであった。



渋谷だったと思うが、6600円のホテルがやっと見つかり、


お叱りを覚悟で電話をした。




第一声は、“6000円までと言うたやないか!!”だった。


23区の西側のホテルを50件以上かけた事を説明し


これも早く予約しないとなくなりますと訴えたところ


「予約してないんか!どこまで気がきかん女や!」と更に怒鳴られた。




そして「ご予約はご本人様からお願い致します」と平にお願いする私に


「は~~」を大きなため息をつかれたきり、とうとう反応がなくなった。



電話で、相手のあいづちがなくなり、無言になられるのは最悪の事態である。


もうあかん・・・・・どうしよ・・・・・・・・・・・・・








長い沈黙の後、電話の向こうから「ねえちゃん、ごめんな・・・・」と


小さな声が聞こえた。



一瞬、何を言われたのか理解できなかったが、続いて聞こえた言葉で


やっと不機嫌だった訳を理解した。




ここにかける前に、仕事でちょっと嫌なことがあってな。あんたに当たってしもた。


これから東京に、何とか収めにいかなあかんねん。



  ・・・そうだったんですか。お仕事うまく行くようにお祈りしています。



ありがとうな。





お客様の声が、少し元気になったように思えた。