類はそれから1週間眠り続けた。
私は周りに妊娠のことをおば様に
口止めしてもらった。
やっぱり一番は類に知らせたいから。
1日1回だけ許可をもらって
類のお見舞いに行く。
ひたすら眠り続ける類に心配には
なりながらも顔を見て話しかけてると
不安はなくなる。
だけどあの不安はまだ胸に
重く圧し掛かったまま。
ここ数日私は司と一緒にいる、
仕事は?って聞くと照れ臭そうに
司は答えてくれる。
司の仕事、大変みたあ、
今は大学に行きながらお母さんの
下であちこちのメープルホテルに
視察に出たりお母さんの出張に
ついていったりっていう見習いのような
仕事をしてるらしい。
あまりに過密スケジュールだから
お母さんが休暇をくれたんだって。
無理して倒れられても困りますとか
言われたんだといった。
道明寺のお母さんらしい
優しさだとおもった。
仕事を放り出してまで危篤の
息子の元に駆けつける人だから。
そんな愛情を素直に表に出せない
不器用な人。
司はは休暇をもらったらしく
毎日お見舞いに来てくれる、
他愛もないお喋りをして帰っていく。
ただそれだけ。
退屈しないで済んだ。
本当に友達になったんだなと
思ってしまう。
お腹の赤ちゃんは何とか
育ってるみたい。
検査の結果、出血も少なくなって
流産の危機は乗り越えたみたいだった。
同時につわりが始まった。
辛いけど赤ちゃんが元気な
証拠といわれて耐えることができた。
そのときだった。
看護士さんがやってきて司に
頭を下げると私の耳元で微笑みながらとあることを囁いた。
<<花沢様、お目覚めですよ>>
うそ……と目を見開く私に
看護士さんは優しく微笑む。
その様子で道明寺も状況を悟ったのか
無言で車椅子をさっさと準備して
私を軽々と抱き上げて座らせる。
「あ……ありがと」
抱き上げられた瞬間に何でか
顔が赤くなってしまう。
「お前なっ……赤くなるな
このくらいのことで…」
そういう司の顔も赤い。
「自分自分だって耳まで真っ赤じゃん」
やっぱり口から飛び出すのは
素直じゃない憎まれ口で……。
そして、彼が渡米する前の
あの告白を思い出しちゃう。
記憶はないけど私のことを好きと
言ってくれた道明寺。
本当に嬉しかった。
でも私が選んだのは類の手で……
こんなとこでもたもたしないで
さっさと行こうぜ。
早く会いてえんだろ?
そんな風に笑う道明寺を見て私は
考えることをやめてうんとうなずいた。
たった数メートルの距離なのに
遠くに感じる。
一歩一歩踏みしめるように
道明寺は歩みを進める。
「自分で開け」
降ろし立たせる。
震える手でドアのノブを握った。
「……類?入るよ。
控えめに声をかけてノックはせずに
部屋に入っていく。
ベッドの上に上半身を起こして
座っている類。
座ったままこっちを見てる。
薄茶色の髪が細く開けられた
窓の隙間から入った風に揺れた。
支えてくれていた道明寺から
身体を離して1歩づつ
類の元へと近づいていく。
「……類……良かった、ごめんね。「」
立ち止まって類の手を取って
自分の頬に当てる。
涙が溢れて止まらなくて水滴が
類の手の平を濡らす。
無事でいてくれたことに
やっと溢れた安堵の涙。
絶対に泣かないって決めてたけど
やっぱり止めることはできなくて。
真正面から合わさった類の
視線が揺れる。
そのまま、微笑ってくれると思った。
大きな手で頭を撫でてくれると思ってた。
だけど、私が触れていた手は
振り払われてしまう。
なんで?と思っていると
類の唇が動いた。
それを聞いた瞬間!私の涙は
驚いて止まり全身硬直してしまう。
「アンタ……誰」
どうしても、信じられなくて。
道明寺が身体を支えてくれてなきゃ
思い切り尻もちついてたと思う。
「な……に冗談言って……私はつくしよ
私のこと庇って事故に遭ったのよ?…………忘れたの?」
現実を受け入れることはできなくて
かすれた声で説明する。
「……俺、あんたなんか知らな
煩いから出て行って」
胸に突き刺さる。
私を移す瞳には優しい光なんか
湛えてなくって代わりに
邪魔なものを見るような
侮蔑の視線が宿っていた。
「類、てめえ冗談いってんな
1週間も眠って脳みそ溶けたか」
低く押し殺したような
司の声で我に返る。
「……司、やめて」
拳を握り締めた司の
拳を握って押し留める。
道明寺は舌打ちをして
類から視線を外す。
心の奥の傷が疼く。
ずっと封印していた
「好きな人に忘れられる」という
古傷の瘡蓋が再び剥がれ落ちて
私の心にシミを作る。
恐れていた現実。
ずっと、あってたまるかと
思ってたことが目の前で
展開してるというのに。
私の思考はそれを理解できない。
気持ちが追いつかない。
こんなにはっきり言われてるのに。
「……本当に分からないの?
「知らないっていってるだろ!」
イライラと尖った声をぶつけられて
現実に起こってることなんだと理解する。
早く出てってくれない
「知らない人が側にいるの
落ち着かないんだ。」知らない人。
そういわれて私の心は
粉々に砕け散る。
「…………わかった」
返事したものの動けない。
足が地面に生えたようになって
張り付いて動かない。
そのときお腹に抉るような
強い痛みが走った。
腹部を庇うように屈み込み蹲る。
「おい、つくしどうした?
司がが私に駆け寄り顔を
覗きこんでくる、
「……先生、呼んで!はやくっ!
顔から血の気を引いていくのを 感じながら懇願する
道明寺は類のベッドの枕元にある
ナースコールを鳴らして人を呼んだ。
3分もしないうちに看護士さんたちが
類部屋にの駆けつけてくれた。
司にに抱えられて部屋を離れるときに
視界に入った類の視線がとても冷たくて
心までもが凍りつきそうになった、
これは……類を傷付けた罰なの?
まさか二度も同じ事が起こるなんて
神様は何て意地悪なんだろう?
私、これからどうやって
生きていったら良いんだろう?