Lover's Concerto -20ページ目

Lover's Concerto

花より男子の二次創作ブログです。
同名のサイトもあります


類はそれから1週間眠り続けた。
私は周りに妊娠のことをおば様に
口止めしてもらった。

やっぱり一番は類に知らせたいから。

1日1回だけ許可をもらって
類のお見舞いに行く。

ひたすら眠り続ける類に心配には
なりながらも顔を見て話しかけてると
不安はなくなる。

だけどあの不安はまだ胸に
重く圧し掛かったまま。

ここ数日私は司と一緒にいる、


仕事は?って聞くと照れ臭そうに

司は答えてくれる。


司の仕事、大変みたあ、



今は大学に行きながらお母さんの
下であちこちのメープルホテルに
視察に出たりお母さんの出張に
ついていったりっていう見習いのような
仕事をしてるらしい。

あまりに過密スケジュールだから
お母さんが休暇をくれたんだって。
無理して倒れられても困りますとか
言われたんだといった。

道明寺のお母さんらしい

優しさだとおもった。


彼女はホントは心根の優しい人。
仕事を放り出してまで危篤の
息子の元に駆けつける人だから。

そんな愛情を素直に表に出せない
不器用な人。

司はは休暇をもらったらしく

毎日お見舞いに来てくれる、


他愛もないお喋りをして帰っていく。

ただそれだけ。
退屈しないで済んだ。

本当に友達になったんだなと
思ってしまう。

お腹の赤ちゃんは何とか
育ってるみたい。
検査の結果、出血も少なくなって
流産の危機は乗り越えたみたいだった。

同時につわりが始まった。


辛いけど赤ちゃんが元気な
証拠といわれて耐えることができた。

そのときだった。

看護士さんがやってきて司に

頭を下げると私の耳元で微笑みながら
とあることを囁いた。

<<花沢様、お目覚めですよ>>

うそ……と目を見開く私に
看護士さんは優しく微笑む。

その様子で道明寺も状況を悟ったのか
無言で車椅子をさっさと準備して
私を軽々と抱き上げて座らせる。

「あ……ありがと」


抱き上げられた瞬間に何でか
顔が赤くなってしまう。

「お前なっ……赤くなるな

このくらいのことで…」


そういう司の顔も赤い。


「自分自分だって耳まで真っ赤じゃん」


やっぱり口から飛び出すのは

素直じゃない憎まれ口で……。


そして、彼が渡米する前の
あの告白を思い出しちゃう。

記憶はないけど私のことを好きと
言ってくれた道明寺。
本当に嬉しかった。

でも私が選んだのは類の手で……

こんなとこでもたもたしないで
さっさと行こうぜ。
早く会いてえんだろ?

そんな風に笑う道明寺を見て私は
考えることをやめてうんとうなずいた。

             
たった数メートルの距離なのに

遠くに感じる。



一歩一歩踏みしめるように
道明寺は歩みを進める。

「自分で開け」


道明寺はそういって私を車椅子から
降ろし立たせる。
震える手でドアのノブを握った。

「……類?入るよ。


控えめに声をかけてノックはせずに
部屋に入っていく。

ベッドの上に上半身を起こして

座っている類。



座ったままこっちを見てる。



薄茶色の髪が細く開けられた
窓の隙間から入った風に揺れた。

支えてくれていた道明寺から
身体を離して1歩づつ
類の元へと近づいていく。

「……類……良かった、ごめんね。「」


立ち止まって類の手を取って

自分の頬に当てる。



涙が溢れて止まらなくて水滴が
類の手の平を濡らす。

無事でいてくれたことに
やっと溢れた安堵の涙。

絶対に泣かないって決めてたけど
やっぱり止めることはできなくて。

真正面から合わさった類の
視線が揺れる。
そのまま、微笑ってくれると思った。
大きな手で頭を撫でてくれると思ってた。

だけど、私が触れていた手は
振り払われてしまう。

なんで?と思っていると
類の唇が動いた。

それを聞いた瞬間!私の涙は
驚いて止まり全身硬直してしまう。

「アンタ……誰」


類の唇から漏れ聞こえた言葉が。
どうしても、信じられなくて。

道明寺が身体を支えてくれてなきゃ
思い切り尻もちついてたと思う。

「な……に冗談言って……私はつくしよ

私のこと庇って事故に遭ったのよ?
…………忘れたの?」

現実を受け入れることはできなくて
かすれた声で説明する。

「……俺、あんたなんか知らな

煩いから出て行って」


返ってきた声が冷たく
胸に突き刺さる。
私を移す瞳には優しい光なんか
湛えてなくって代わりに
邪魔なものを見るような
侮蔑の視線が宿っていた。

「類、てめえ冗談いってんな

1週間も眠って脳みそ溶けたか」


低く押し殺したような

司の声で我に返る。


「……司、やめて」


拳を握り締めた司の

拳を握って押し留める。


道明寺は舌打ちをして

類から視線を外す。


握られた拳が行き場をなくして崩れる。

心の奥の傷が疼く。

ずっと封印していた
「好きな人に忘れられる」という
古傷の瘡蓋が再び剥がれ落ちて
私の心にシミを作る。

恐れていた現実。

ずっと、あってたまるかと
思ってたことが目の前で
展開してるというのに。

私の思考はそれを理解できない。
気持ちが追いつかない。

こんなにはっきり言われてるのに。

「……本当に分からないの?


「知らないっていってるだろ!」


イライラと尖った声をぶつけられて
現実に起こってることなんだと理解する。

早く出てってくれない


「知らない人が側にいるの

落ち着かないんだ。」

知らない人。

そういわれて私の心は
粉々に砕け散る。

「…………わかった」


返事したものの動けない。

足が地面に生えたようになって
張り付いて動かない。

そのときお腹に抉るような
強い痛みが走った。
腹部を庇うように屈み込み蹲る。


「おい、つくしどうした?


司がが私に駆け寄り顔を

覗きこんでくる、


「……先生、呼んで!はやくっ!


顔から血の気を引いていくのを                           感じながら懇願する


道明寺は類のベッドの枕元にある
ナースコールを鳴らして人を呼んだ。

3分もしないうちに看護士さんたちが
類部屋にの駆けつけてくれた。


司にに抱えられて部屋を離れるときに

視界に入った類の視線がとても冷たくて

心までもが凍りつきそうになった、


これは……類を傷付けた罰なの?


まさか二度も同じ事が起こるなんて

神様は何て意地悪なんだろう?


私、これからどうやって

生きていったら良いんだろう?








広い広いところ……

ここは一体どこなの? 


誰もいない場所に私だけ1人

ぽつんと立っている。


ぬいぐるみを片手に幼い私は1人

取り残されていた。 


パパ~ママ~ 

1人にしないで……怖いよ、怖い! 


 幼い私はいなくなってしまった

親を一生懸命捜していた。

どこからか誰かが私を呼ぶ

声が聞こえる……。


……くし……つくし…………


懐かしいどこかで聞いたことのある声。


私はその声の主の名前を

夢中で呼んでいた。


るぃ、私はここよ…… 


「るい」って誰?


幼い私がそれを問うと「るい」らしき

人物は霧のように消えてなくなって

姿が見えなくなってしまったところで

はっきりと目が覚めた。


ゆっくりと目蓋を開く。


見たことのない天井、白い壁。


薬品の匂い……
腕に繋がれた
複数の細い管。 


ここは病院? 


私……なんでこんなとこにいるの?


そういえば私、F2と雅弥さんのことで

口論になって車道に飛び出した。


それで……類が私を庇って……

車に撥ねられて……


そうだ、類はどこ?

どこにいるの? 


ガバッと飛び起きると全身に走る激痛。

脳天を貫くような痛みは私の身体

そして記憶を覚醒させる。 


「……つくしちゃん?お目覚めかしら?」


私の眼前には類ではなくよく似た

顔の類のお母様。


「急に、起きちゃダメよ」


安心したように微笑んでくれたけど

すぐにベッドに横たえられる。


「おば様……類は?類はどこですか?

私、彼に謝らなくちゃ!」


目覚めて開口一番に類のことを

訊ねていた。


私、裏切るようなことをしたのに

類は私を信じてくれた。


「大丈夫、頭を打ったけど命に

別状はないそうよ?隣の部屋にいるわ。」 


類によく似た笑みを見せて私を

安心させようとする。


「ごめんなさい、類さんは
私を庇って……」


私がそう口にするとおば様は

首を振って私の言葉を遮った。 


「類は男の子だもの……つくしちゃんを

護っての名誉の負傷よ?
もし、貴女に
かすり傷ひとつでも

負わせてたら私はあの子を赦さないわ」


「でも…っ!元はと言えば私が雅弥さんと

写真撮られたりするら……ッ!」 


「そのことはあちらからもきちんと

謝罪を頂いたわ…軽率なことをして

申し訳ありませんでしたって」


そんな…雅弥さんも西園寺家の皆さんも

何も悪いことなんか……してないのに。


それにね・・・とおば様は言葉を続ける。


「危険を顧みないで貴女を命がけで

守ったのを見て私はあの子の本気を

見せられた気がしたの

もう誰が邪魔をしても2人の絆は

揺るがない……って感じたわ」 


そうだ、あのことがあったのに

類は最後まで私を信じてくれた。


心の底から嬉しかった。

涙が止まらない。


おば様の優しい手が私の頭を

撫でて柔らかく下りてくる。


大丈夫だから今はゆっくりお休みなさい

笑顔でそういってくれて私は再び

目を閉じようとする。


そこへお医者さんが看護士さん

数人を連れて入ってきた。


「牧野さん気付かれましたか?」


ちょっとお話がといって

私の前に座る。 

 

「こちらはお母様?」


ちらりと横目でおば様を見る。


いいえと答えようとする前に

おば様が口を挟んだ。


「今は違いますけどいずれは

そうなる予定です。諸事情で 

両親からお預かりしておりますので

お話があるなら私がこの娘と

一緒に親としてお伺いいたします。」 


そうですかとお医者さんがうなずく。

おば様の言葉に私は涙ぐみそうになる。


そんな私たちを交互に見比べて

ではといってお医者様は私を見つめた。


「貴女は運の強いお方ですね。」


……と、笑って言う。


背中を強打してる以外は掠り傷

ひとつないといわれて吃驚した。


本当に文字通り類に命懸けで守って

もらったんだってことを実感する。


そしてお医者様が次に口にした言葉は

私たちを驚かせた。


「つくしさんは妊娠していますちょうど

7週に入ったところでしょう。」


はっきり告げられて私は戸惑いを

隠せずにおば様と顔を見合わせる。


私が?類の子を?

ここに赤ちゃんがいるの?


多分あの時の子だ。


類がバツが悪そうに避妊具をつけるの

忘れたと告白してきた日。


私はもしデキても一緒に育てようって

赦したんだった。


自然にお腹に手がいく。 


「身体には幸い傷はありませんがでも

絶対安静でしばらく入院してもらいます」 


実感できない喜びと共にお医者様の

言葉に不安になる。


「念のためですよ?」


看護士さんが優しく説明してくれる。


「胎のうの周りに大きな出血層が

見えるんです……簡単に言うと

流産しかかってます絶対に安静です

大丈夫です、奇跡の生還を遂げた

ご両親のお子様です」 


まずはお母さんが元気にならないとね

頑張りましょうと励ましてくれる。


はい、と返事するけれど……

まだ実感がわかない。


「なにかしたいことありますか?」


そう訊かれて私は即答した。

安静にといわれたばかりだけれど

浮かんだみんなの顔。 


「……友達に逢いたいです」


いつもは邪険にしてるくせに

無性にみんなに逢いたくなった。 


みんなもうすでに集合してて

類の部屋にいるという。


30分だけですよといわれて許可をもらい

腕に点滴の管を刺したまま私は

車椅子に乗せられて看護士さんに

押して貰って隣の部屋に移動する。 


おば様はどうしても外せない

仕事があるからまた来るわねと

言い残して名残惜しげに帰っていった。


私の為にみんな仕事や学校を

抜けてきてくれたんだ…。


いつも完璧な身形の人たちの

髪や服が乱れてた。


急いで走って走ってここ(病院)まで

駆け付けてくれたことが分かる。


ドアを開けるとみんなもう来ていて

ベッドの上の類を心配そうに

覗き込んでいる。 


「つくし?!」


滋さんが真っ先に私に気が付いて

駆け寄ってきた。


「先輩、起き上がって大丈夫なんですか?」


桜子も同じように駆け寄ってくる。 


「うん、大丈夫……」


深呼吸したあと私は頭を下げる。


「……心配かけてごめんなさい」


私はその場にいたみんなに頭を下げる。


「とにかく命だけは助かって

よかったよな」


「そうだな……」

 

 西門さんも美作さんも安堵の

笑みを浮かべている。


「お前、起き上がって平気なのか?」


「うん、本当は起きてちゃダなの

安静にしなさいって言われてるの

どうしても類やみんなの顔が

見たくってここまで連れてきて貰った」


気持ち悪いくらいにすらすらと

思ってることが口から飛び出す。


「っとに……類も司も無茶するよな

あの女なんかどうでも良かった 2人が

今じゃたった1人の女を
守るために

自分の身体犠牲に
しちゃうんだもんなー」 


 感心したように言って美作さんが

私の頭を撫でる。 


「ある意味究極の愛情だよな

俺たちには真似できないぜ。」


みんながベッドサイドを空けてくれて

私はやっと類に対面できた。


痛々しく巻かれた頭の包帯。

顔に貼り付けられたガーゼ。

その姿はとてもまともに見れる

姿じゃないけれど私は視線を

逸らすことができなかった。


「類……守ってくれてありがとう……」


そっと胸元に重ねられた手をとる。

いつもは冷たい類の手の平は

少しだけ暖かかった。


胸元に耳を寄せると生きてる

証の音があの日眠りに落ちながら

聞き続けた類の心臓の音が聞こえてきた。


早く起きて?

私達の子2人の命を助けて

くれたんだよ? 


あなたの笑顔を見ながら報告したい。 

 だから早く目を覚まして? 


私はみんなが見てる前だということも

忘れて類の頬に口付けを落とした。


「つくしちゃ~ん、俺たちの
こと
忘れてない?」


からかいの混じった西門さんの声。

はっと我に返った。


多分、私は真っ赤になってると思う。 


こいつ(ら)がいるの忘れてた。

夢中で口付けてたから。


「おまえも変わったよな・・・つうか

素直で可愛くなった」


「そう?ありがと、誉めても

なんも出ないよ?」


とぼけたふりして答える。


からかったつもりの私が普通に

返答するのを見てヤツは

拍子抜けしたらしい。


笑顔が硬直している。


「何いってんの?つくしは元から

可愛いじゃん!」


滋さんが援護射撃してくれる。


「王子様のキスか?」


「逆でしょ逆!」


暗くならないように滋さんたちが

周りを盛り上げてくれる。


だけど……

私にはとても言葉で

言い表せないような不安を抱えていた。


もしも、あの時と同じだったら……

私は耐えられるのだろうか?って。


あの時とは状況も違うってことは

ちゃんと分かってるけれど

でも考えずにはいられない。


司のときは類がいてくれたから

何とか立って前に進めた。


今度はその類が……いない。


「つくし?何、暗い顔してるの?」


「あ……ずっと眠ってたから

ちょっと気分が・・・」


無理やり笑顔を作る。

今考えてることを口に出せば

みんなをまた不安にさせてしまう。


そこで、勢いよくドアが開く音がして

中に駆け込んできた人物にみんな驚く。


「司?!」


「いつ戻ったの?」


「夕べだ、そしたら類が牧野を護って

事故ったってきいたから……」


本当に慌ててきたみたい。

呼吸が荒くて肩で息をしている。 


司はみんなに声をかけたあと

最後に私のほうに振り向いていった。


「なんだよ、そんな顔すんな!お前が

そんな顔してたら類が目を覚ましたとき

心配するだろ?」


「だって!私のせいで……私が逆ギレして

車道に飛び出しさえしなきゃ!」


つい、自分を責めてしまう。


覆い尽くした黒いモヤが全身を

包んでいた。


私を見て微笑む司。


その笑顔が、優しくかけてくれた

言葉が私の不安定な心を包み込む。


どうしてそんな表情で笑うの? 


きゅんと胸が締め付けられる感覚。


「うん……そうだね、お帰りなさい。」


小さな声でそういうと道明寺は

私の頭を撫でた。


私はこんな風に優しくされる

資格はないのに……。


道明寺は別人みたいに優しくて

胸が潰れそうになった。 


「……牧野、アレはお前のせいじゃねえ


「そうだ、お前が飛び出す原因を

作ったのは俺たちのせいでもあるからな」


だから自分を責めるなと言われる。


そんな私たち2人を他の4人は

黙って見守ってくれる。


「久しぶりの全員集合だな…後は類が

目を覚ますだけか……」


誰かがそういってみんないっせいに

黙りこんで彼を見た。


類?みんな待ってるよ?

お願い、早く目を覚まして?





その翌日、私は朝から人の視線を

感じて不愉快な思いをしていた。


何なのよ、何か私したかしら?


それは放課後になるにつれて

露骨になる。


まあ、こんなことはしょっちゅうで

高等部の時から慣れていたから

気にしなきゃいいことだし無視していた。


今日は朝、類は大学に来なかったし

F2にも遭遇していない。


なのに、なんだろう?


この学園内のざわめきは。

何となく私を見て周りは

ヒソヒソしている。


不気味だわ。


いつかもこんなことあった気が

するけどアレは道明寺絡みだった。


今回も?まさかね。


司はアメリカに戻っちゃったし。

じゃあ、類?


それともやっぱり私なの?


考え込んでいると朝から姿をまったく

見せなかったF2が私を探してたのか

ものすごい勢いで駆け寄ってきた。


「牧野!」


「お前、噂になってんぞ?

昨日、校門前で誰に会ってた?」


「……誰にっていつもの西園寺家からの

お迎えだけど?」


「違うだろ?雅季氏じゃないじゃねえか!」


「あら、アンタ達も見分けつくの?」


「「は?」」


「きのうは執事さんにご用事ができて

いつものお迎えが出来なくなって

代わりに雅弥さんが来ただけよ?

なんか問題でもあるの?」


「問題大アリだよ!お前と雅弥さんが

撮られたんだよ!」


「へ?私と?私達きのうがお会いするの

初対面なんだけど!」


「雅弥さんは有名人だ!根も葉もなくでも

2人きりでいれば噂になるのは

当たり前だろっ?」


「はー?」


確かに私もあんな目立つところで

男性と二人きりで対面するなんて

迂闊だったかもしれない。


でも、そんな!


「このこと、類は…知って…る、の?」


「「ああ…」」


ふたりの返事に私は絶望する。


「俺らもお前らが校門の前で

一緒にいるところ見た」


車に乗り込むところも、な。

……と言われて絶望的な気持ちになる。


「お前、アイツのことで懲りてないの?」


「アイツ…って……?」


「司をボコったあのデルモの

男の事だよ!」


ふたりの口から出た順平くんのこと。


忘れたことなんてない。


「私、本当に雅弥さんとは初対面だし

なんの関係もない」


「そんなことは分かってんだよ

相手が悪かったってことだろ」


「なぁ、牧野…これ以上類を

手酷く傷つけんなよ」


「こないだお前がいなくなった時アイツ

めちゃくちゃ荒れてもうダメかと思った」


ふたりが類を庇うのも私を責めるのも

理由はわかってる。


友達だからだ。

大切な幼なじみだからだ。


そうだ、私が全部悪い。


誤解を招くような行動をしたのも

彼以外の男性に気を許したのも。


「わかった、じゃあもう本当に辞める」


「牧野?!」


「私がこれ以上類を傷つけるのが

許せないんでしょ?」


なら黙って類の前から消える!

それでいでしょ!


「全部私が悪い!もうそれでいい」


逆ギレで頭の中が真っ赤に染まる。


「牧野、待て!」


追いかけてきた2人の声を無視する。

そのままの勢いで私は車道に飛び出した。





その時、前方から乗用車がものすごい 

勢いで突っ込んできた。 


 私は突然のことに吃驚して足が

地面に張り付いたように動けない。 


早く避けなきゃって思うのだけど

身体が言うことを利かない。 


「つくし!危ない!」 


横から飛び出してきた類が手を

引っ張って私をその場所から

強制的に動かして前に出た。 


「類、なんでここに…っ?」


驚く間もなく類の身体が突っ込んできた

乗用車に
撥ね飛ばされて宙に浮く。


ドカーン


ものすごい破壊音が聞こえてくる。 


何が起こったの?

コレは夢だよね? 


すぐには起きたことが理解できない。


視界が赤く染まったとき私は

その方向へと飛び出した。


「類!類っ!!」


夢中で飛び出していって類の姿を探す。


視線が捉えた目の前の光景。

俄かには信じられない。

力なく横たわっている類の姿。


私は駆け寄ると類を抱き起こした。 

血溜まりの中に類がいた。


変わり果てたその姿に視界が

涙で曇っていって。 


「類っ?!」


溢れ出る涙を拭うことも忘れて叫んだ。


「つ……くし?ぶじ……でよかった」


そういって見せる弱々しい笑顔。

少しだけ引き攣ってる。


「俺は……信じ…てるよ?つくしのこと」


ポロポロと涙が頬を歌う。


握った手から力が抜けていって

支えていた頭部かぬるりとした

生暖かい液体の感触がする。


それが血液と分かった瞬間に

私は叫ぶように類に話しかけていた。 


「やだ……類、目を開けてよ?」


そのとき、1年前に港で起きた

あの悪夢を思い出す。


あのときの身を切り刻まれるような

思いが蘇ってくる。


「ど……うして?」


私、何か悪いことしたの?

何で2度も同じ体験するの?


類……やだよ。 


お願いだから……私を置いていかないで!


類の頭を膝に乗せたまま私は

放心してしまう。


べったりと血液が手や足に付着するのも

構わずに類を抱きしめた。


意識をなくした類が冷たくならないように

体温を明け渡すような気持ちで

ただひたすら自分よりも大きな

類の身体を胸の中に掻き抱いた。


やがて聞こえてきたサイレンに

誰かが通報してくれたんだと

ぼんやりとした思考のまま理解する。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


救急隊員の人が放心してる私に

話しかけてくるのがわかる。


だけど何も答えることができない。


「大丈夫」 


そう喉まで声が出かかってるのに……。

目に映る光景はまるでスローモーションで

ゆっくり時間が流れている

周りの人が私を類から引き剥がそうと

するのだけはなんとなく分かった。


類に突き飛ばされて打った

腰や背中はズキズキ痛いのに

そんな痛みはすっかり忘れていた。


「いや……類を連れてかないで……」


やっと搾り出した言葉。

ストレッチャーに乗せられようと

している類の手を握り締める。


「お嬢さん、危ないから離れて下さい。」


「イヤ!私も類と一緒に行く! 

連れて行ってくださいっ」


そう力の限りに叫んだ瞬間に

ぶつけた背中に鋭い痛みが走って

全身の力が抜けていく。 


「お嬢さんっ!」 


誰かが駆け寄ってくる。


……も……もう、だめ


痛みに負けて意識も薄れていく。


そのとき。

脳裏に浮かんだ

類の笑顔で頭の中がいっぱいになった。


「牧野っ!」


そしてその笑顔を見るのが

最後になるとはこのとき私は

想像もしていなかった。


私を庇って類が車に跳ねられるなんて

想像もしていなかった。