Lover's Concerto -19ページ目

Lover's Concerto

花より男子の二次創作ブログです。
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翌日から私は体調のいい日には

中庭でおじい様と談笑し

天気のいい日にはバイオリンを奏でた。


鬱々とした気分は少しづつ晴れてくる。


相変わらず類には家の中では

避けられてるのか遭遇しない。


今は存在を無視されていても

いつかきっと思い出してくれる。


約束、したもん


そう信じて耐えていた。


冷たい視線で見られても

辛辣な言葉をかけられても

ちょっとやそっとじゃ動揺しない

くらいの耐性ができていた。


絶対に類の前では泣くもんか!

そんな意地が私の心を支えていた。


本当はいつも軽く泣きそうになるの

堪えて微笑みを絶やさずに居た。




おば様に勇気を貰って類との

対面も続ける。


相変わらず私のことは無視。


自分をできるだけ思い出して

貰うための努力を続けた。


拒まれても邪魔者扱いされても

めげずに私は彼の元にこの家に来てから

類の部屋にほぼ毎日通い続けた。 


ある日日参していた類の部屋に訪れた時

彼の個室から声が聞こえてきた。


「ダメですよ、花沢様」 


女の人の……通いの看護師さんの

声が中から聞こえてきた。


「いいじゃん、暇なんだから

俺に構ってよ」


「暇じゃありませんよ~」


満更でもなさそうな甘ったるい声


「あ……やんっ」


リップ音がする。


目の前で繰り広げられるラブシーンに

目を覆いたくなる。


いつの間にか瞼が涙で濡れていた。

見ていたくなくて黙って背を向けた。


こんな時に皮肉にも初めての

胎動を感じた。


「ワタシはココにいるよ」って

存在を知らせるような力強い

胎動を感じる。


開けかけた部屋のドアを

黙って閉める。


ドアを閉めた瞬間ついに堪えてた

涙が頬に滑り落ちた。


もう、ココに来るのは辞めよう。





私は花沢邸を出て借りていた

マンションの部屋に戻る。


あの人の心の中に私はもう

きっと居ないから。 


幾ら待ってても無駄な気がしてきた。


お邸を出て私は一応お見舞いに

行くことにした。


またあの看護師さんが類の傍に

いるかもしれない。


キュウッと胸の奥が痛みで

締め付けられる。


「行きたくないけど…行かないと」


最後にしよう。

今度こそ、サヨナラしよう。


もう待てないって。

お腹の子はどんどん育ってる。


本当に動けるうちにこの子のことも

どうにかしないとまずい。


類に会ってまたあの冷たい目で

見られるのは堪えるっていうか…辛い。 


でも。 ほんの少しだけでも

私のこと思い出してほしい。


あんなに愛し合ったのに。


存在もなかったことにされるの辛いよ。 


私の中ではまだ何も始まっていないし

終わっていないよ、類。 


マンションを出る準備も整えて

実家に帰る準備もしっかり終えて

部屋の鍵を返しに花沢家に向かう。




「よし!」

 

弱気になっていたら思い出して

もらえないもん。 


類の寝室の前で深呼吸をすると

控えめにその入り口をノックした。


恐る恐るドアを開けて中に入り

ちらりとベッドの上を見る。 


類の頭にはまだ包帯が巻かれている。


手にも、足にも。 

顔にはまだガーゼがついたまま

痛々しい格好で私を出迎えた。


「ごめんなさい、急に来たりして」


「あのさ、出ていったんじゃないの?」 


「それは……」 


ギュッと拳を握り締める。


私が握りしめたもの。


類から貰ったエンゲージリングの

掛かってるネックレス。


誕生日に貰ったパールのブローチ。


それから半同棲してた部屋の鍵。


「色々返そうと思って」


ようやくのことで言葉を絞り出した。


私は指輪、ブローチ、鍵を

彼の目前に出す。


「何これ」


「だから返したいものです」


「もしかして付き合ってたとかいうわけ?

婚約ってのも本当の事?」 


コクリと頷く。


「……私はここを出ていきます

おば様には申し訳ないけど

もう貴方の傍にいたくありません


部屋が静まり返る。


「看護師さん、綺麗でしたね」


「……見てたの?」


私は無言で頷く。


私のことは思い出さなくていいから

もう好きにしたらいいじゃない」


「…………」


「……命を救ってくれたことだけは

感謝してるから……私も貴方と

付き合ってたことは忘れるから

言いたいことはそれだけよ

……さよなら、類」


そう口にした瞬間、私は初めて

類の前で涙を見せて泣いた。


私の涙に類が動揺の表情を見せる。


そのまま類に背を向けると

黙ってお屋敷を出ていく。







「待って!」


門を出たところで追いつかれる。


「行か……ないで」


動かない足を引き摺ってまで

私の後を追ってきて腕を掴まれた。


転びそうになったところを

慌てて抱きとめて支える。


「……まだ怪我治ってないんだから

走っちゃダメでしょ?」


「態度改めるから、だから……

出ていかないで…お願い」


泣きたいのは私なのにそんな

捨てられた子犬みたいな

表情されて見られたら彼をこの家に

置いてくことなんてできない。


なんで彼の気が急に拒絶から

変わったのかは分からない。


もう少し歩み寄ったらもしかしたら

少しは変わるのかもしれない。


前のような関係に戻れなくてもいい。


類が戻ってきた。


私はそれがただ嬉しかった。



退院して強制的に同居を始めて

1ヶ月が経った。 


私たちは相変わらずろくに話もしない。


何のために一緒に暮らしてるのかすら

分からなくなった。


これ以上一緒にいてもお互いの

傷を広げるだけなんじゃないかって

思い始める。 


それに……本来なら両親となる

私達の関係は最悪だもの。


同じ屋根の下に住んでいると

いうのに無視される日々。


私を見る感情のかけらもない冷たい目。


姿を見せるたびに心無い言葉を

投げつけられる。 


これがあの甘えん坊の類なのかと

不思議に思ってしまう。


そんな私の傍に寄り添ってくれたのは

庭師のおじさんだった。


中庭でぼんやりとしていると

切り花で小さな花束を作って

渡してくれる。


それは、その辺に咲いてる野花だったり

剪定して捨てる花から拾い上げた

切り花だったり……


「綺麗、おじさんありがとう」


それを見ていつかチューリップの花を

私にプレゼントしてくれた

類の姿を思い出してしまった。


このおじさん。


どこか類に似てる。


類と言うよりはお父様に似てる。


「まあ、お義父様、お部屋を抜け出して

こんな所にいらっしゃるなんて!

風邪を召されたらどうするのですか!」


庭に降りてきたお母様が慌てて

おじさんを叱る。


「この子がのう、あまりにも寂しそうで

放っておけなかったんじゃ」


お義父様?


それじゃこの人は……類のお爺様?


「つくしちゃん?」


「類も……こうやって私に花をくれたんです

自分で稼いだ2ドルで私にお花を

プレゼントしてくれて……」


花を握りしめて涙する私に

お2人は顔を見合せた。


「つくしちゃん」


「私、ここにいない方がいいのかな?

あんなことして裏切ったから

もう私を見てくれないのかな?」


類の前では一筋も零れなかった涙が

自然と溢れてくる。


「辛いよ……代わりに私がああなれば

よかったのに……!」


「なんてことを言うの!」


お母様はたまらずと言った感じで

私の身体を抱きしめた。


「貴女に何かあったら誰がこの子を

護り育てるの?何があっても

ウチは貴女を離しませんらね?」


「お母様!」


涙が次から次へと溢れてきて決壊する。

思わずその腕の中に飛び込んだ。


「泣かないのよ、大丈夫だから」


私を受け止めたお母様はまるで

我が子にするように背中を

優しく摩ってくれる。


私の不安も何もかも受け止めて

包み込んでくれる。


私には勿体ないお母さんだ。


「つくしちゃん、ここは陽当たりもいいし

ここでバイオリン弾かない?」


きっと気分転換になるわよ?


そう提案してくれて他のお手伝いさんが

私のバイオリンを庭に持ってきてくれた。


およそ1ヶ月ぶりに手にした

バイオリンの音色はちっとも

変わっていなかった。


おば様も自分の楽器を持ってきて

もらったらしく一緒に調弦をする。


「懐かしいわね、昔もこうやって

類にバイオリンを教えたのよ」


穏やかな表情でバイオリンを

撫でるおば様。


「私はね、独身の頃、演奏者をしていたの

結婚する時にやめてしまったのだけど」


初めて聞いたお母様の昔話。


「だからね最初は自分の息子に

バイオリンを教えたのよ?

類は最初で最後の教え子ね」


微笑みながら話をして下さるお母様。


「さあ、始めましょう?そうね、

新しい曲でも練習しましょうか、

楽譜は後で届けさせるわね」


お母様は主旋律を奏で始める。


私はその旋律を耳コピしながら

後について音を復習う。


雅季先生の練習方法と同じ。


数回繰り返すと曲の全体が

掴めてきた。


通しで弾くと聞き覚えのある

曲になってきた。


「この曲……聞いたことあります」


エルガーの愛の挨拶。


初心者の私にも分かる曲。


1度聴けば耳に残る旋律。


1回聞いただけで何となく音を

復習うことができた。


何度か弾いたところで

風が冷たくなってきた。


「さあ、お部屋に戻りましょう?

冷えてきたわ、いつまでもここにいたら

風邪をひいてしまうわ」


そう促されてバイオリンを

ケースにしまって片付けて

言われた通りお屋敷の中に入った。


2階から類が中庭の私とおば様を

ジッと睨みながら見てることには

全然気付かないまま。



再び私は安静を言い渡され
また点滴に繋がれることになった。

司には妊娠してることが

分かってしまった。


仕方ないよね、目の前で

倒れたんだもん。


あの冷たい氷のような視線を

向けられるのが怖くて自然と

お見舞いの足が遠のいていた。


ちゃんと話さなくちゃ……


そうは思っていても勇気は出ない。


突き刺さる類の冷たい視線が

脳裏に貼り付いて消えない。


眠ってる類にしかちゃんと顔を見て

会えなくなってしまった。


考えたくなくて部屋に篭る
日々が続いた。

誰がお見舞いに来ても気分が
悪いからって追い返していた。

食事もできない、口に入れても
飲み込めない。

こんなんじゃいけないって
わかっているのにできなかった。

何度も打つ点滴の針で
私の腕は痣だらけ。

こんな状態なのにつわりはきつくて・・・

でも赤ちゃんの存在だけが

次何かあったら切れてしまいそうな
精神の糸を繋いでいてくれてた。




「つくし、はいるぞ」


司がお見舞いに来た。


彼はお母さんに頼み込んで
しばらく東京に留まることにしたらしい。
こんな状態の私を放って

おけないという理由で。


毎晩、仕事が終わるとドア越しに

声をかけにきてくれる。


顔は見れないけれどそれが
唯一の精神安定剤になっていた。

だけど今日は部屋にズカズカと
入り込んできた。

私を見るなり飛んでくる怒号。

いつもの道明寺とは違って険しい表情。

サイドテーブルにバンッと
手をつくと私を睨みつけた。


「……お前、食事とってねーんだってな

お前がそんなんじゃ子供に障るだろ?
お前だって太るどころかますます
痩せていくばっかじゃないかよ!」

心配かけてることは分かっている。

だけどやっぱり司に

頼ることなんてできない


「放っといて司には関係ない!」


そう口にしたとたん道明寺の

眉はさらに吊り上がる。


「俺はいいさ、すげー余計

世話やいてるの分かってる

でもよ、類の母ちゃんが

お前のこと心配してんだよ!」


類のお母さん……
私が今一番遠ざけている人物。

だって、類によくにてるおば様の
笑顔を見るのは辛くって……。

私が目覚めるまでずっと側に

ついててくれた。


妊娠を告げられたときいずれは
親になるからと一緒に聞いてくれた。

あのときの言葉は本当に嬉しかった。

その気持ちはずっと変わっていない。

「お前が自分の顔は見たくない

だろうからって遠慮してんだよ

本当は自分が傍にいて世話した

と…思ってるって…娘なんだからって」


そんなの分かってる。
口に出されるのは辛いよ。

「総二郎やあきらだってかな

心配してるぜ?お前が会って
くれないって愚痴零してた」

だって。

みんな類の記憶がないって分かった時
またかって顔したもん。

心配かけたくないのに余計にさせると
いう状況に私は視線を落とした。

「いんだよ、寂しいなら寂しいっていえよ、なんでも1人で抱え込んで

塞ぎ込んでんじゃねーよ」


大きな手の平が頭を撫でる。

思わず、笑ってしまった。

「それ、あんたのとき類に言われた

おかしいね……ッ」


「……茶化してるんじゃねーぞ?」


溜め息と共に漏れる道明寺の声

声は怒ってるけど瞳が笑っている。


久しぶりに笑ったような気がした。

「……ちょっとお腹空いたかも。」


ぼそっと呟くと道明寺はそうか

うなずきナースコールを鳴らして

私は1週間ぶりに食事に手をつけた


点滴に繋がれてるせいでうまく

腕が動かせないのがもどかし。


見かねた司に食わしてやろうか

といわれていいわよと断る


ただのじゃれあいのような
会話が懐かしく感じて瞼の奥が
熱くなっていく。

「……道明寺」


「なんだよ?」


「……ありがとっ」


顔を見てお礼を言うのが照れくさくて
思わず早口になる。

「だったら早く元気になれよ

そんでここを出ろ」


ぶっきらぼうな言葉。



だけど彼なりの優しさが

にじみ出ていて涙が溢れる。


気付かれないようにそっと
涙を拭うとスプーンを口に運んだ。





入院してから40日目。

もう大丈夫とお墨付きをもらって

私は退院した。


病院の関係者に見送られ
友人達に出迎えられる。

その中に類の姿はなかったけれど。


彼は私よりも早く退院して

自宅療養に切り替えていた。


何も言わずに無言で退院して行った。


「……私、英徳をやめて東京を離れます

こんな状態じゃ類との婚約も

破棄した方がいいです」


「ダメよ、それはダメ!

どんな事があっても貴女は

私達の娘なの!それにその子

どうやって育てるの?」


類のお母様に強力に引き止められ

東京に残ることにした。


大学もしばらくはリモートで

授業に出ればいいと手配してくれた


本当はもう彼の傍にいる

勇気はない。


あの何も写さない瞳を見るのが

ただ怖かった。


お借りしてたマンションを出て

再び類の家に間借りすることになった。


ご両親が決めたことだから類は

逆らえるわけもなく迷惑そうな顔を

ちょっと見せた後部屋に篭ってしまった。


ああ、もう私は類の心の中にも

記憶の中にも存在してないんだな……


そう思うとただ泣きたくなる。


それが現実なんだと理解したとき

私は類と生きていくことを諦めた、