とある日の朝、私は妊婦健診に
行こうと支度をしていた。
持ち物を確認して外出着に着替えて
家を抜け出そうとしていた。
もちろんきちんと護衛をつける
予定ではあった。
時間を持て余してる類は私の外出を
目敏く見つけ後を継いでこようとする。
「あれ?つくし出掛けるの?」
「うん、検診に」
「じゃ、俺も行くよ、1回くらい
着いて行かないと」
「え~やだ、ダメ」
「なんでだよ」
「だって類…カッコイイから
見世物になっちゃう」
そういうと類の表情が変わる。
「何その理由…俺が見世物って…」
「だって、患者さん女性ばかりなんだよ
類ジロジロ見られるの嫌いじゃん」
そんで機嫌悪くなって私に
意地悪するじゃん!
「いいよそんくらい耐える
つくしが心配なんだよ
お腹そんなだし転んだりしたら
大変なことになるだろ?」
「わかった、ありがとうね」
結局、言いくるめられて
ふたりでの来院となる。
案の定、産科では類は絶好の
注目の的だった。
「車で待ってていいよ?あんなに
見られたら恥ずかしいでしよ?」
「ううん、ここにいるよ」
類はそう言って私と手を繋いでくれる。
ちょっぴり恥ずかしいけど
類の気遣いが嬉しかった。
待合室でもずっと隣にいてくれて
心強かった。
予約時間通りに診察に呼ばれて
お腹のエコーを撮る。
動く赤ちゃんを見て類はその画像に
視線が釘付けだった。
「すごい指しゃぶってた
それに女の子なんだね……」
始めてみるエコーで赤ちゃんの
性別を知った類は感動しきりだった。
「うん」
やっと類と会わせらたことに
私は感動する。
「ちょっと何泣いてんの?」
「だって……類にはもう生まれても
会わせられないって思ってたから」
「……ごめん」
私が涙ぐんだ理由を知って
類が項垂れる。
慌てて言葉を挟む。
「謝んないで?類が悪い訳じゃない」
「うん、でも……」
「今日きてくれてよかったよ?」
そう言うと類は安心したように微笑む。
それから何事もなく美作家に帰還した。
この時間は誰も家人がおらず
2人っきりなのだ。
「おば様に許可いただいてるから
お庭でお昼食べない?」
お天気いいし!
私、お弁当作るよ!
私達用に設えられたキッチンで
軽くお弁当を拵える。
類も私のやることを見様見真似で
お弁当作りを手伝ってくれた。
「こう?」
「そうだよ、ラップを上手に使って……」
目の前でやってみせると類はそれを
真似しておにぎりを作った。
綺麗な三角にはならなかったけど
初めてにしては上手くいったんじゃ
ないかと思う。
「上手、さすが類」
そう褒めると少し照れ臭そうにして
私を見る。
まるで小さな子供みたいで
クスッと笑ってしまう。
二人でお弁当を作り終え
庭にレジャーシートを持ち込んで
ふたりでお弁当を広げる。
「どう?」
「ん、美味しい」
類は自分で作ったおにぎりを頬張った。
おままごとのようなピクニックごっこ。
それなのに酷く楽しかった。
お弁当を食べ終えると類はシートの
上にゴロンと横になる。
「こら、お行儀悪い」
私が怒っても何処吹く風。
私の膝を枕にして類は寝てしまった。
「もう!」
疲れていたのだろう。
類はあっという間に眠ってしまった。
そっと肘の上の類の頭を撫でる。
陽に透けた色素の薄い髪の毛に
陽の光が反射して輝く。
まるで仔猫のように柔らかな髪の毛。
「ふふっ、よく寝てるしょうがないなぁ」
ゆっくりと類の髪を撫でる。
こんなこと前はできなかったなぁ。
「おやすみ、類」
食後ということもあって私も眠気を
誘われて目を瞑る。
「牧野!おい、起きろ」
誰かに身体を揺らされて目を覚ます。
「何してんだよ?庭で昼寝かよ!
風邪ひいたらどうすんだよ」
「だって膝の上占領されたんだもん」
「振り落とせばいいじゃんか」
「出来るわけないでしょ?
拗ねたら面倒臭いし」
拗ねた類の扱いの面倒さ知らないから
そんなこと言えるのよね。
「どんだけ類に甘いんだよ?少しくらい
乱暴に扱われてもめげねえよ」
「司にするようにしたらいいだろ?」
「無理!類は繊細だもん!」
「お前、類に甘すぎんだろ!」
「とりあえず中に入れ、コイツは
俺が引き摺ってくから」
うんと頷くと私は庭を片して
室内へと戻る。
案の定、美作さんに起こされた類の
寝起きの機嫌は最悪だった。
私が雷を落としたら多少はおさまったケド。
「類を飼い慣らすのも大変だな」
「ちょっと、犬猫じゃないんだから……
でも類は犬ってより猫…って感じ?」
私がそう言って想像して吹き出すと
類は剥くれて膨れっ面になる。
「つくし酷い、司にもいいつけてやろ」
ボソッと小さな声で文句を垂れると
そのまま不貞腐れてそっぽを向いた。
「……仕方ないな、類屈んで?
美作さんは回れ右!」
「ん……」
察した2人は言う通りにしてくれた。
類のほっぺに素早くチュッと
キスをして離れた。
「やるな、牧野」
美作さんはヒュウッと口笛を吹いて
私を面白そうに見た。
カアッと頬に血が上る。
「ちょっと!あっち向いててって
言ったじゃんッ」
類へのキスを見られて恥ずかしい。
肝心の類はと言うと……。
真っ赤になって固まっていた。
思えばこの時までだった。
ふざけてジャレて大騒ぎしてられたのは。
知らないところで私達の幸せが
音を立てて崩れていく
カウントダウンが始まっていた。