沈んだ様子の私を見て副社長が自室に呼び出した
一体何があったのかと
入社条件が聞いていたのと全く話が異なることを伝えると驚いていた
ヘッドハンティングと称する仲介会社に双方がだまされた形だったのだ
しかしもう後戻りはきかない
「頑張ってくれ」
と言われ、詫びとして50万円を振り込むと副社長は申し出て、それはすぐに実行された
誠意のある実直な人だ
だからだまされもするのかもしれないが…
人は期待されると嬉しいものだ
だが…何かが違う…
気分転換をさせる意味もあったのだろうか
大阪支店に1ヶ月の研修に行くことになった
新大阪駅から徒歩5分の雑居ビルの一室に肩を寄せ合うように10人がいた
ずっと貿易で海外との折衝しかして来なかった自分には全く未知の新鮮な世界だった
電話が鳴ると威勢のいい返事で時には怒号と思えるような喧騒
何しろ大阪だ
関西弁が使えなければ泥臭い営業など不可能なんだろうな、と感心するばかりだった
そして鞄を抱えた営業部員が出ていくと静まり返った室内に事務の女性二人だけが残った
人情に厚いおばちゃんとお姉さんは色々と話しかけてきてくれた
関西ではないが日本の西部で生まれた私にはその心暖かさが郷愁を呼び起こしさえもした
駅前のチサンホテルに逗留していたが眠れない日々が続いた
精神的なものかと思った
しかし違う
息苦しいのだ
鼻から空気が通っていかない、呼吸ができない
口から息をするしかない
非常事態となった
(第四話へ続く)
---
英語レッスンの記事はこちらに引越しました。