「あなた、あの人が会ってくれるって。もうそこにいるわ」
元妻がロビーの奥に坐っている人物を指差す。
「やけに早かったな」
「本当ならこの後、彼とヒロトと一緒に食事をする予定だったから。でも、まさかこんなにヒロトが反抗をするだなんて」
彼女に確認をしなければいけない。本当にヒロトをいらないと言ったのかを。けれど、ストレートに聞けるものではない。どうやって探りを入れようか。
ともあれ、例の彼に会って、ヒロトのことを確認せねば。元妻の誘導で、彼氏を紹介してもらう。
「こちらが元旦那。そしてこちらが今お付き合いしている方」
今の彼を見てみる。見た感じは誠実そうである。だが、笑顔がない。ふとあの喫茶店の彼のことを思い出した。あの彼は笑顔が素敵だったな。あんな人だったらヒロトをまかせられるのだが。目の前の彼は、緊張からなのか、それとももともとの性格なのか、なんだか明るさを感じられない。
「単刀直入にお聞きします。あなたは彼女と結婚をしたら、ヒロトを自分の息子として育てていくだけの自信がおありですか?」
少し間をおいて、彼はこう答えた。
「ヒロトくん、私になついてくれないんですよ。ヒロトくんはどうしてあなたがいいって」