「ひょっとしたら、このコーヒーって本当に今その人が望んでいるものを味として感じさせてくれるのですか?」
「はい。それがシェリー・ブレンドの魔法です。人によっては、欲しいものをイメージで描かせてくれることもあります」
私の場合、それに近いものを感じた。力強い味から、力強い男のイメージが頭の中で浮かび、そこからヒロトに対して伝えたいことの思いがどんどん湧いてきた。
「でも、その力強さを息子に伝えたくても。今日のような状況が続くのであれば上手く伝えることができません。月に一度の面会もいつまで続けられるのか。子供を取られるって、思ったよりも辛いものなんですね」
コーヒーカップを両手で包み込み、その温かさを感じながらそう言葉にした。この辛さ、人に話したのは初めてだ。
「よかったらもう少し詳しく教えていただけませんか。そもそもどうして奥さまと別れることになったのか」
「はい。私はずっと仕事人間でした。家族のためと思って、とにかくお金を稼がないと。そう思って必死に働いてきたんです。そして休みの日になると、自分の趣味であるマラソンに没頭しました。これは仕事のストレスから解放されるために始めたものだったんです」