「どうでもいい、といいますと?」
「オレはそれ以来、おふくろを信用できなくなった。だから一人で生きてきた。そうか、そうなんだよな。でもオレは、オレは…」
なぜだか涙があふれてきた。オレが本当に欲しいのは、自分を信用してくれる人。自分のことを信じてくれる人。そして、オレ自信が信用して、信じてあげることができる人。そういう人が欲しい。
「右松さん、大丈夫ですよ。あなたが今欲しいと思っているものは、必ず手に入りますから」
マスターが優しく微笑みながらそう言ってくれる。他の奴らにそう言われると「そんなことあるわけねぇ」と反発してしまうところだが、なぜだかこのマスターに言われると言葉がスーッと心に入ってくる。
「あ、ありがとう。ふぅ、こんな話をしたのは生まれて初めてだ。なんだかスッキリしたな」
「右松さんの心の奥に潜んでいた、モヤモヤの塊が少しは小さくなったでしょうか?」
「えぇ、おかげさまで。しかし不思議なコーヒーですね、これ。飲んだ瞬間は美味いって思ったけど。その後に昔のことが急に頭に浮かんできて」
「はい。このシェリー・ブレンドには魔法がかかっているんです」
「魔法?」
「はい、魔法です」
魔法ってなんだ?