第100話 盗人の心 その12 | 【小説】カフェ・シェリー

【小説】カフェ・シェリー

ここは喫茶店、カフェ・シェリー。
登場するのは40代の渋いマスターと20代の店員マイ、そして主人公はお客様であるあなた。
そこで体験する、魔法のコーヒー「シェリー・ブレンド」の味で、お客様は何かに気づき、そして希望を持っていく。
そんな喫茶店のお話です。


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「お味はいかがでしたか?」

 

 マスターの声でハッとした。そうだった、オレは今喫茶店にいるんだった。

 

「あ、いや、なんだか昔のことを思い出してしまって」

 

「差し支えなければ、どんなことを思い出されたのかお聞かせいただいてもよろしいですか?」

 

 本当は人に話すような過去ではない。けれど、このお店とマスターの雰囲気、そしてなぜだか話さなければという気持ちにさせてくれたコーヒーの味にオレは身を委ねた。

 

「実は小さい頃、おふくろにこっぴどく叱られたことがあって。オレがおふくろの財布からお金を盗んだっていうんだ。我が家は母子家庭で、おふくろは男に貢がせて生活費を稼ぐような生活をしていたから。オレはおふくろには愛されていなかった。だから、普段から嘘をつくようになっていて。そのせいで、オレが盗んだんじゃないと訴えても、おふくろはオレのことを信じてくれなかった…」

 

「なるほど、そんな体験があったのですね」

 

 マスターはオレの言葉をそうやって受け止めてくれた。たったそれだけのことなのだが、気持ちが落ち着く。

 

「結局、金は当時おふくろがつきあっていた男が盗んだってのがあとからわかったんだけど。そんなことはどうでもいいや」

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