第54話 戸惑いながら その8 | 【小説】Cafe Shelly next

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喫茶店、Cafe Shelly。
ここで出される魔法のコーヒー、シェリー・ブレンド。
このコーヒーを飲んだ人は、今自分が欲しいと思っているものの味がする。
このコーヒーを飲むことにより、人生の転機が訪れる人がたくさんいる。

「自分に対してありがとう、というのをイメージした時にピンとくる絵を一枚選んでみてください」

 どれだろう。戸惑いながらも、なんとなく気になったものを手にした。

「これ、パワーストーンのブレスレットかな。これが気になりました」

「これのどこが気になりました?」

「パワーストーンってスピリチュアルな面があるじゃないですか。私、そういうのは好きなんです。直感力というか、今までそれでいろんなことに手を出してきましたから」

「直感力、ですね。それってみさきさんにとって、どんな意味があると思いますか?」

「うぅん、迷いはあるけれど、直感に従って行動して、そのときは満足できるんですよね。そうか、その時々に応じて自分を満たすことはできてるんだ。今は戸惑いが多いけれど、そのときは戸惑うことなく判断できてるじゃない」

「そんな自分になんて言いますか?」

「はい、素直にありがとうを言える気がします。うん、ありがとう、だ」

 私の心の中のモヤモヤが一気に晴れていった。

「じゃぁ、今こうやって由衣さんに会ってメタファリングの指導を受けようと思っているのも、判断は間違っていないんですね。うん、なんだか自信が湧いてきた」

 私の言葉を聴いて、マスターはにこやかな顔で大きくうなずいてくれた。

「みさきさん、気分はどうですか?」

「はい、自分にありがとうを言えたらすごくすっきりしました。そうか、戸惑っているときにはこうすればいいんだ」

 気が楽になったら今はやる気が心の奥から湧いてくる。

「由衣さん、早速私にメタファリングを教えて下さい」

 こうして私のメタファリングレッスンが始まった。

 メタファリングは思ったよりも簡単。決められた手順どおりに、決められたセリフを言っていけば、クライアントとなる人の気づきを引き出すことができる。

「みさきさん、のみこみが早いですね」

「えへへ、そう?」

 ちょっと照れくさいけれど、そう言われ悪い気はしない。私ってお調子者だから。

「今日お伝えしたカラーメタファリングは簡単にできるものだから、まずはこれを繰り返してお友達やご家族にやってみてください」

「はい、ありがとうございます」

「じゃぁ来週、またここで」

 私は帰ってから早速旦那にカラーメタファリングを試してみた。進め方はまだ手順書を見ないと覚えきれないけれど。でもこれが意外にも旦那に大ウケ。

「そうだよなぁ、オレは悩んでいると思ってたけど、実は不満を言いたいだけだったんだ。まずは自分で変えられることを考えないと」

 会社のことでグチグチ言っている旦那がこんなことに気づいてくれた。

「みさき、ありがとう」

 こうやって感謝されると、さらに次の人を試したくなる。翌週、早速職場で実践。

「へぇ、これ占いみたい。なんかおもしろいね」

 女性陣には結構ウケがいい。遊び感覚でできるのがいいな。その報告を早速次の土曜日に由衣さんにしてみた。

「わぁ、うれしい。みなさん、どんな表情をしていましたか?」

「そうですね。みんなメタファリングの後は晴れ晴れとしていましたよ」

「その表情を見て、みさきさんはこれからどうしたいって思いましたか?」

「はい、もっともっとこんな表情の人を増やしていきたいって。そう思いました」

「よかった。じゃぁ今日からはもっと本格的なピクチャーメタファリングについて教えますね」

 ピクチャーメタファリングは、最初に由衣さんが私にしてくれたものだ。八枚の絵を使って、そこから現状、理想、そして解決策の三つの気づきを引き出すもの。一見すると難しいように思えるけれど、基本的には同じ事を繰り返すだけ。しかも質問のパターンも同じ。これも手順さえ覚えればなんとかなりそう。