スマートフォン | 潤 文章です、ハイ。

潤 文章です、ハイ。

俺のペンネーム。ジュン・フミアキである。

HORROR(2)

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私はA子。B子C子と三人で女子会を兼ねて二泊三
日で京都方面へ出かけました。ゴールデンウィーク
の前半で、どこもかしこも人また人であふれていた
わ。

私はいま二十九歳。B子とは大学からの友だちで、
C子はB子の職場の同僚、私とC子は数年の付き合
いになりますね。三人とも同い年。B子は独身、C
子はバツイチ子供なしで独身復帰というわけです。
私はこの春、婚約しました。彼の仕事の都合で結婚
式は夏になる。独身最後のハメ外し。そのつもりで
いたんです。

私が体調に異変を感じたのは一泊目の夜のこと。元
テニス部で体には自信のある私なのに、初日の夕刻
前、宿に入ってすぐのこと。
とにかく怠く、肩が重くて何かがおぶさってるみた
いな感覚に襲われたんです。初日は朝一番の新幹線
で東京を出て、京都を楽しみ宿に入った。そのとき
時刻はチェックインタイムの三時ちょうど。それま
で何ともなかったものが、宿に入って、まずお風呂
というときになり、突然私だけがおかしくなった。
風邪でもひいたか。いいえ、そんな感じじゃなかっ
たわ。

とは言え、熱があるわけじゃなく寝込むほどでもな
かったので、お風呂それから夕食と、どうにか普通
に過ごせていました。
女三人で方々を回り、B子がタブレットを持ち込ん
でいたので、あちこちで撮った写真を大画面のスラ
イドショー感覚で見ていたの。
そしたらB子が嫌なことに気がついた。女三人の旅
ですから先々で記念写真を撮りますね。風景とは違
う私たちが写り込んだ写真です。

女三人、つまり誰かにシャッターを押してもらわな
い限り組み合わせは、私とB子、私とC子、被写体
がB子とC子のときは私がシャッター。それからど
ちらかが撮ってくれた私一人のカット。
その私一人が映る写真の中に、あるときから決まっ
て同じ男性が写り込んでいるんです。B子C子が加
わると写っていない。被写体が私だけ。そのとき決
まって背後にいる。

まだ若そうな男性でしたが、灰色のスラックスと薄
汚れた白いワイシャツ。顔色が妙に青黒く、目がど
ろんと濁っていて髪の毛もぼさぼさ。
直感しました、それは人ではありません。体の異変
は霊障によるものに違いなかった。
私もそうですがB子にもC子にも霊感なんてありま
せん。霊感があるから見えるのでなく、写真にはっ
きり写り込んでいるんです。

これヤバイよってことになり、B子が宿の人に相談
して近くの神社を紹介してもらいます。そこはいか
にも京都らしいこぢんまりした神社で、父親が宮司、
その娘さんが巫女を務め、母親のすでにない父と娘
で守る小さな神社だったんです。
巫女を務める娘さんは霊感が強く、テレビでも紹介
された人だそう。それで彼女に問題の写真を見ても
らう。

彼女、いわく。
「これは死霊、それも自殺者。行く先々につきまと
うというのは地縛霊ではなく浮遊霊。ゴールデンウ
ィークでどこへいっても騒がしく、霊は不機嫌だっ
たんですね。はっきり言って、あまりいい霊ではあ
りません。悪霊と言ったほうがいいでしょう。あな
たは美人です。取り憑く相手として気に入ったとい
うこともありますでしょうし」

こういうことは多いらしい。不用意にスマホを向け
て写真を撮ります。それでなくても不機嫌なのに遠
慮のないレンズを向けられ、霊は怒った。
霊というもの、そこらじゅうにいるそうで、だけど
悪霊は多くない。そのときちょっと怒っても、その
うち気がすんで去って行くのが普通だそうです。
それで私はお祓いをしてもらい、嘘みたいに楽にな
りました。悪しき霊は去ったと、そのときは思った
んです。次の日の二泊目も異変はまるで起きません。

東京に戻って数日が過ぎた頃。
いま私は賃貸マンションに独り暮らし。妙な霊障も
ありませんでしたし、私はもう忘れていた。金曜日
の今夜は会社の飲み会。部屋に戻ったのは夜十時過
ぎのことでした。
明日は土曜でもちろん休み。梅雨前の初夏の陽気。
平日はシャワーですませるところ、バスタブにお湯
を張ってのんびりしていた。
お風呂を出て洗面台の大きな鏡の前に立っていて、
そのときは赤いショーツだけ。女一人の部屋で女は
ずぼらになりがちです。
そして歯を磨き、口をすすいで顔を上げたときのこ
とでした・・。

私のすぐ背後に、あの男性・・いいえ、あの霊が立
っていた。近くで見ると黒目が濁って白く見え、肌
は土気色。髪の毛なんて海藻みたいに張り付いてる。

全身、鳥肌。怖いなんてものじゃない。しかも私は
ほとんどヌード。
とっさにB子を呼ぼうとも思ったのですが、そのと
きなぜか、あの巫女さんの言葉が脳裏によぎった。

『美人だから取り憑く相手として気に入った』

ふふん、なるほど。それで私は言ってやります。
「見るだけよ」

そしたら悪霊、こくりとうなずき、ちょっと笑う。
意外に可愛いじゃんと思った私は、ふと昔のことを
思い出したんです。

じつは学生時代の一時期、私はB子を憎んだことが
ありました。大学祭で出会った同じ男性を好きにな
り、B子のヤツめ、ぬけがけしくさり、いつのまに
か二人はデキていたんです。積極的なあの子のこと
です、どうせ色仕掛け・・みたいに勘ぐって、だか
らB子が許せなかった。
だけど彼ったら相当なプレイボーイだったらしくっ
て、B子がいながら浮気して、B子のことなどすぐ
にポイ。いい気味だと思ったとたんB子への恨みも
消えていた。

それは、ほんの悪戯心だったのよ。あのとき撮った
私とB子の写真を悪霊君に見せてやり、私は冷たく
笑って言ってみる。
「この子よ、覚えてるわね、B子って言うの。私が
好きなら、どうにかしてくれないかしら。取り憑い
てイジメてやんな」

その四日後、C子からの電話です。

都会の常でB子も賃貸に独り暮らしなんですが、B
子ったら、その浴室で死因不明の変死体となって発
見されたということで。

今夜もまた・・「見るだけよ」と、私はほくそ笑む。