登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元盗賊。カインをアニキと呼ぶ
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ
ドルマゲス……悪の魔法使い。トロデ王たちの呪いの主
ポルク……リーザス村の少年
マルク……リーザス村の少年
サーベルト……アルバート家の若き当主
ゼシカ……サーベルトの妹
アローザ……サーベルト、ゼシカの母
無事、水晶玉を持ち帰り、
チカラを取り戻したルイネロの占いに従い、
カインたちは南の関所を越えた。
占い通り、
南の関所は、壊されていて、
関所としての体を為さなくなっていた。
関所を越えて、
しばらく東に進むと、
リーザスという小さな村があった。
ルイネロの言った通りである。
カインたちが村に入ると、
いきなり2人の子供が立ちはだかる。
「盗賊の一味だな!やっちまうぞ、マルク!」
「がってん!ポルク!」
どうやら、
子供たちはポルクとマルクというようだった。
子供たちがこういう行動をとるには、
理由があった。
ここリーザス村には、
アルバート家という名家があった。
アルバート家というのは、
魔法剣士にして天才彫刻家でもあった、
古の賢者、シャマル・クランバートルの血を引く、
由緒正しい家柄であると言われている。
遠からぬ過去に、そのアルバート家の当主が逝去し、
長男であるサーベルトが、
若いながらに、それを継いだばかりだった。
サーベルトは、
古のシャマル・クランバートルにも劣らぬほどの魔法剣士だったが、
つい先日、
村の東にあるリーザス像の塔で、
何者かに殺害される、という事件が起きていた。
サーベルトの死は村のみなに衝撃を与えた。
地元の盟主を手にかけたのは一体誰なのか。
サーベルトほどの腕前の剣士の命を奪えるほどの者が、
一体どこにいるのか。
その不届きな行いは、
塔を荒らす盗賊の仕業なのではないか、
村の人々は、そう噂した。
そう。この村の住民にとって、
盗賊はサーベルトのカタキなのだ。
そういう理由から、
カインたちを盗賊だと思った村の少年たちが、
カタキを討ってやる、と、
カインに襲い掛かって来たのである。
とんだ濡れ衣……であるとは言えない。
なぜなら、ヤンガスもまた盗賊であったのだから。
であるので、
サーベルトのカタキであるというのは濡れ衣だが、
盗賊であるというのは、あながち間違ってはいない。
今は足を洗ったと本人は言っているが、
盗賊顔なのまでは変えられない。
理屈はともかく、
正解は正解だ。
子供たちから襲い掛かって来たのだが、
カインとヤンガスは困惑する。
『アニキぃ』とヤンガスが情けない声を上げる。
「殺していいんでがすか?」
いいわけない。
情けない声で言うセリフでもない。
カインはサッとヤンガスの前に立ち塞がり、
両手を上げて、
「ガオー!」
と子供たちを脅かしてみた。
優男のカインには、あまり似合わないポーズである。
時々スライムを脅かして逃げ出させてはいるが、
やっていて恥ずかしくもなるものだった。
しかし、ともあれ、
背中でヤンガスを制し、
声で子供たちを制するのには成功した。
そんなタイミングで、
村の老婆がやってきて、
「コラ!お前たち!」
と𠮟りつける。
そしてポルクの頭にナックルを振り下ろす。
マルクの頭にはコークスクリューだ。
「いてぇ!ゲンコツかよ!」
うずくまる子供たちを見て、
ヤンガスが顔をほころばせる。
「アニキ!殺さなくてよかったでがすね」
当たり前だ。
殺してしまうとは何事だ。
「でも、アッシだったら、あのコークスクリューで死ぬでがす」
元盗賊のせいか、
ヤンガスは命のやり取りが軽いようである。
「お前たちはゼシカお嬢様から頼まれごとをしているんだろう」
老婆はそう言って子供たちを追い払い、
「すいませんねぇ。悪い子たちじゃないんですよ」
とカインとヤンガスに頭を下げた。
そんな老婆に、
カインは優男スマイルを見せる。
それで万事解決である。
ゼシカお嬢様。
老婆の口から出たその人物は、
すでに帰らぬ若き盟主サーベルトの妹、
ゼシカ・アルバートである。
気が強いが兄想い。
兄を尊敬し敬愛し、
兄のいない世界など考えられないほどの、
兄っ子である。
口の悪いメイドからは、
アニータなどと呼ばれているほどだ。
村人たちは、
兄っ子のゼシカは、
サーベルトの死をさぞ悲しんで落ち込んでいることだろう、
と囁いているが、
しかし、
当のゼシカはというと、
落ち込むだけのしとやかさとは無縁である。
兄を失ったゼシカは、
復讐の鬼と化していた。
アニータなどと呼ばれているが、
実際はオニータだった。
ただ、
ゼシカの復讐心は、
アルバート家の家訓に反していた。
先祖の教えを守り、
慎ましく死者を悼め、という家訓が、
ゼシカの行動に足枷をかけていた。
ゼシカが野蛮な行動に出ないかどうか、
母アローザが目を光らせていたのだ。
そこでゼシカは一計を案じた。
それは一種のアリバイトリックである。
村の少年、ポルクとマルクに頼み、
自室の前を見張らせたのだ。
誰も部屋に入れるな、
という名目で見張り番を立てたが、
それは同時に、
自分が外出していないことを証言する証人にもなる。
しかし、実際は少年たちの目を盗み、
サーベルトの事件現場へと向かっていた。
「兄さんのカタキを討つまでは帰りません」
という書置きを残して。
もちろん、
ポルクとマルクは、
そんなことを知る由もなく、
ゼシカはずっと自室にいると思って、
見張りを続けていた。
自室を見張らせるゼシカ自身が、
よもや目を盗んで脱出しているなどとは思いもよらず。
カインがそのことを知ったのは、
ネズミ穴からトーポを忍び込ませ、
ゼシカの置き手紙を見つけたからだった。
すぐに、その手紙のことを2人の少年に知らせると、
「やばい!東の塔から連れ戻さないと!」
と顔を青くした。
ゼシカの置き手紙には、
「もしかすると、これは遺書になるかもしれません」
という一文が書かれていたのだ。
少年たちも、
ゼシカが死ぬ気でいることを悟ったようだった。
「俺が塔を開けるから」
とポルクがカインに同行し、
その間ゼシカの部屋に誰も入れないという役割を
マルクが担うことになった。
手遅れになる前に、
ゼシカを探さなければならない。
ポルクに言われるまでもなく、
カインとヤンガスは東の塔へと急ぐ。
カイン:レベル10、リーザスの村
プレイ時間:5時間21分
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目次
【1話:トラペッタ】
【3話:リーザス】
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