ドラクエ8冒険日記(26) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。

登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元山賊。カインをアニキと呼ぶ
ゼシカ……元アルバート家令嬢。猪突猛進
ククール……元マイエラ聖堂騎士団。キザ男
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ


ハワード……リブルアーチの呪術師
チェルス……ハワードの使用人
レオパルド……ハワードの愛犬
リーザス……クランバートル家からアルバート家に嫁いだ賢者。故人
サーベルト……ゼシカの兄。故人
クーパス……古の七賢者のひとり。故人
ドルマゲス……悪の魔法使い。トロデ王に呪いをかけた道化師。故人

 

 

 

リブルアーチにて、
ハワード邸に2度目の襲撃をかけてきたゼシカは、
「せっかく守りは万全にしておきなさいって言ったのに、ずいぶんと無防備なのね」
と残念そうな顔さえしている。
ゼシカ自身が自信家であったのに加えて、
杖の魔力によって、
気が大きくなっているという様子である。


ゼシカはすべてを知っていた。
カインたちが、
賢者クーパスとハワード一族のまじないについて、
つい先刻知ったことを
ゼシカは、呪われた杖を通して知っていたのである。
しかし、そのことをいまだ知らないハワードのことを
ゼシカは愚かしく思ったし、
その愚かな呪術師を守ろうと、
「ハワード様に指一本触れさせるものか!」
と立ちはだかるチェルスには、
滑稽さを感じさせられていた。
「悲しいわ。私が狙っていたのは大呪術師クーパスの末裔。チェルス、あなたのことよ」
とゼシカは言わずにはいられなかった。
はじめからチェルスを狙っているのに、
当のチェルスは、
ハワードが狙われているのだと思い込み、
ターゲットである自分の体を差し出しているのだ。
喜劇としか言いようがない状況である。
ゼシカにとって、唯一喜劇ではなかったのは、
そのチェルスを守るために、
カインたちがそこに割り込んで来たことだった。
ハワードではなくチェルスを守りに来たということは、
カインたちもまた、チェルスこそが賢者の末裔だと、
気付いていることを意味している。
「いいわ。どうせあなたたちと戦うのは避けて通れないと思ってたもの」
とゼシカのほうも、
腹をくくらざるを得なくなったのだった。


ハワード邸の庭でゼシカと対峙しながら、
カインは思わずにはいられない。
古の賢者たちは、
いったい何がしたかったのだろうか、と。
呪術師クーパスは、賢者の血筋を隠すために、
呪術師としてのチカラをハワード一族に託した。
その結果、賢者の血筋について誤解していたのは、
チェルスやハワードといった、当人たちばかりであり、
呪われた杖はすべてまるっとお見通しだったのである。
それならば、賢者の血と呪術師のチカラを
分割したりするべきではなかったことだろう。
チェルスが自分自身で呪術の力を有していれば、
このときのゼシカを自分で撃退できたかもしれないし、
何より、賢者の末裔としての意識があるのならば、
自分の身を差し出したりすることは、
決してなかったはずである。
また、
クランバートル家とアルバート家についても、
同じことが言えるだろう。
どのような情報操作によってかわからないが、
アルバート家の所有物となっていたクランスピネルが、
いまでもクランバートル家にあると誤解していたのも、
ハワードだけであった。
ドルマゲスを操る呪われし杖のほうは、
クランバートル家などに惑わされず、
アルバート家こそが賢者の血筋だと早々に看破し、
とうの昔にサーベルトを始末し終えているのである。
かつての賢者たちの浅知恵は、
味方を騙すばかりで、敵を欺けてはいなかった。
かく考えるカインも、
これまでに、賢者たちの誤情報に踊らされ、
守れるものも守れずに来たのである。
はじめから正しい情報を知ることができていたら、
と嘆かずにはいられないのだ。

そのようなことを思いながらカインは、
かつては仲間だったゼシカに剣を向けながら、
苦戦を強いられていた。
こちらにはヤンガスもククールもいるのだから、
3対1という有利な戦いになるだろうと思いきや、
ゼシカのほうはシャドーを3匹も呼び出し、
むしろ3対4という多勢に無勢な戦いとなっていた。
しかも、シャドーを一掃してゼシカに迫ろうとすると、
また3匹のシャドーを呼び出して、
振り出しに戻されてしまうのだ。
加えてベギラゴンやマヒャド、メラゾーマといった、
従来は使えなかったはずの高等呪文まで、
いつの間にか習得していたゼシカは、
魔力の点でも脅威であった。
とはいえ、
当初よりの最大の弱点もまた健在であり、
彼女の性格を知るカインたちにとって、
攻略できないことではなかった。
魔法使いという職業に似合わず、
猪突猛進だという性格こそが、
ゼシカの最大の特徴であり、最大の弱点でもあるのだ。
強力な呪文を唱えていればよいのに、
時おり、力任せに杖で殴ってくるし、
マホカンタで身を守っているククールに、
そうと気付かずに呪文をぶつけようとして、
自分が被弾するという結果になったりと、
要するに無駄が多いのである。
ヤンガスのドラムクラッシュを受けて倒れたゼシカは、
「そんな、信じられない。この杖のチカラを超える人間がいただなんて」
と驚きの表情をしたが、
それは単に、
乗っ取りの対象としてゼシカを選んだのが失敗だった、
というだけで、
もしカインを手中に収めていたとすれば、
話は全く変わっていたはずである。
「世界の半分をやろう」
と言われたところで、
悪魔の味方をするカインではないが、
しかしカインを味方にすることができれば、
世界の半分を取ることも難しいことではない、
というほどのポテンシャルが、
カインにはあるのである。
そのポテンシャルに、
カイン自身が今はまだ気付いてはいないのだが、
それに気付こうが気付くまいが、
カインは素手で杖を触れるような愚行は犯さないし、
触れるとすれば、火バサミで掴んで、
焚火の中で燃やしてしまう時ぐらいのものである。


こうしてゼシカの襲撃はカインによって迎撃され、
その上で、
たった今、結界を完成させて、
駆け付けて来たハワードの呪術に弾かれて、
ゼシカは杖を手放してしまうことになる。
杖の呪いから解放されたゼシカは、
気を失いながら、夢を見ていた。
兄、サーベルトの夢だった。
「ひいばあさまからこんな話を聞いたことがある」
夢の中のサーベルトは言った。
「西の地から嫁いできた、ひいばあさまの、そのまたひいばあさまは、高名な賢者だったのだそうだ」
剣術も魔術も知り尽くした、
大変な能力の持ち主が、賢者なのだ、
とサーベルトが言うので、
ゼシカは、
サーベルトこそが賢者であることを疑わなかった。
しかし、そんなゼシカに、
「剣術はともかく、俺の魔法は子供騙しだ」
とサーベルトは言うのである。
「だから俺は思うんだ。魔法のチカラは、俺ではなく、お前に受け継がれたのではないか、とな」
いつかそのチカラが目覚める日が来るのが楽しみだ、
と言うサーベルトに手を伸ばしたところで、
ゼシカは目を覚ます。
伸ばした手は、
サーベルトではなくカインが握っていた。
ククールでなくてよかった、
と即座に思えるほど、
ゼシカの頭は整理されてはいなかった。
「なんだか、ずいぶん長い夢を見ていたような気がする」
ゼシカがそう言ったのは、
その通りの認識をしていたわけではなく、
そうであればよかったのに、という希望の声でもある。
杖を握って関所を壊し、
ハワード邸を襲ってチェルスを殺そうとしたのが、
自分であったという記憶を
信じたくないという気持ちがあったからだった。
しかし、ともあれ、
ゼシカが支配されたからこそ、
杖の声を聞くことができ、
杖の目的を正確に知ることができたのも事実である。
ここではじめて、
杖の支配者が、
暗黒神ラプソーンという名であることを
カインたちは知ることとなった。


「私の心にラプソーンは命令したわ。七賢者の末裔を殺し、我が封印を解け、って」
カインたちも薄々気付きかけていたことではあったが、
ゼシカがそう言うのを聞き、
明確にラプソーンの目的を知ることにもなった。
かつて地上を荒らした暗黒神ラプソーンは、
七賢者によって魂を封印されてしまったという。
ラプソーンを滅ぼすことができなかった七賢者は、
その魂を杖に閉じ込めて、
自分たちの血をもって封印したのだった。
そして今、杖に封じられたラプソーンは、
七賢者の末裔の血をもって、
その封印を解こうとしているのである。
この時点ですでに、
マスター・ライラス、
サーベルト、
オディロ院長、
ギャリングという、
4人の末裔が殺害されており、
血の封印の過半数が、
すでに解かれていることになる。
「残る七賢者はあと3人よ。チェルスと、他にもうふたり。七賢者の血筋がすべて絶たれると、封印が解けて、ラプソーンの魂があの杖から……」
そこまで言ってゼシカはやっと気が付いた。
トロデ王も気が付いた。
杖がまたしても失われてしまっていることに。
そして、チェルスの安否もいまだ不明であることに。


カインたちの、その不吉な予想は、
時を置かずに現実のものとなった。
杖を拾った黒犬レオパルドによって、
チェルスは刺し殺されてしまったのである。
カインたちが駆け付けたときには、
すでにハワードの愛犬は走り去った後だった。
死にゆくチェルスは、
カインたちにこう託す。
「レオパルド様を追いかけてください。レオパルド様がいなくなれば、ハワード様がどんなに悲しむか……」
こうして呪術師クーパスの末裔は、
自分が賢者の血筋であることも、
命を狙われる理由も、
何も知らないままに帰らぬ人となった。
あまりにも哀れであり、
あまりにも悲惨な最期を遂げたチェルスを見て、
ここでやっとハワードが、
事の顛末を理解をすることになったのが、
せめてもの救いと言えるのだろうか。
「そうか、ようやくわかったぞ」
と、青ざめた顔でハワードはつぶやく。
「わしは……わしは守り通すことができんかったのか、代々の悲願であった因縁のまじないを……」
と頭を抱え込んで気を失う現代の呪術師も、
今となっては哀れな姿であった。

屋敷のベッドの上で気を取り戻したハワードは、
「取り返しのつかないことをしてしまったな。もう誰にも顔向けができん」
と嘆き、
「レオパルドを退治してくれ」
と声を絞り出してカインに頼む。
レオパルドは、ハワードにとって、
散々可愛がってきた愛犬であり、
チェルスを虐げてきたのも、
それこそレオパルドのためであった。
その愛犬を退治してほしいと頼むハワードの心境が、
わからないわけでもないカインであったので、
その呪術師のかつての行いを
今さらどうこう言うような愚を犯さずに、
優男でいられたのであった。
しかし、
ハワードのせめてもの礼として、
ゼシカの眠った魔法力を揺り起こしてもらったところ、
今さらベギラゴンとマヒャドを覚えたことには、
優男の額の血管もピクリと動いたものだった。
先ほどの戦闘で、
存分にこちらに向かって放ってきていたのに、
杖を手放すや否や忘れてしまうとはどういうことか、
とカインは思わずにはいられなかったのである。

ともあれ、
レオパルドは北に逃げていったという。
その黒犬はラプソーンの杖を持っているのだ。
追わなければならない。


ところで、
このような騒動の中、
ミーティア姫は18歳の誕生日を迎えていた。
不思議な泉の水で、
わずかの間だけ人間の姿に戻った18歳の王女は、
その誕生日の夕食について嬉々として語る。
「せっかくの誕生日のお夕食は雑草でした」
表情は嬉々としていても、目は笑っていなかった。
その表情と言葉に戦慄を感じたカインは、
「次の誕生日をミーティアが人間の姿で迎えられるようにがんばってね」
という言葉を決して忘れることはできないだろう。


カイン:レベル31、リブルアーチ
プレイ時間:49時間25分

 

 

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