ドラクエ8冒険日記(24) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。

登場人物
カイン……主人公。口数の少ない優男。元王宮兵士
ヤンガス……元山賊。カインをアニキと呼ぶ
ゼシカ……元アルバート家令嬢。猪突猛進
ククール……元マイエラ聖堂騎士団。キザ男
トロデ王……亡国の国王。呪いで魔物の姿にされている
ミーティア姫……トロデ王の娘。呪いで馬の姿にさせられている
トーポ……ネズミ


ハワード……リブルアーチの呪術師
チェリス……ハワードの使用人
レオパルド……ハワードの愛犬
ライドン……クランバートル家の彫刻家
マスター・ライラス……トラペッタの賢者。第1話時点で故人
サーベルト……ゼシカの兄。故人
オディロ……マイエラ修道院・元院長。故人
ギャリング……ベルガラックカジノのオーナー。故人
ラグサット……サザンビーク大臣の子。ゼシカのフィアンセ
ドルマゲス……悪の魔法使い。トロデ王に呪いをかけた道化師。故人

 

 

 

ドルマゲスを打倒し、
サザンビークの宿で朝を迎えたカインたちの中に、
ゼシカの姿がなかったのは、
あるいは当然の成り行きであったかもしれないし、
あるいは幸運な結末であったのかもしれない。
かつて、在りし日のトロデーンでは、
その後ドルマゲスによって解き放たれることとなった邪悪な杖を
施錠、鎖、魔法陣の三重の封印によって捕縛していた。
これが単なる杖で、
使用者の能力を高めるだけの存在であるのなら、
鍵をかけた箱にでも保管すれば、
それで済む話である。
にもかかわらず、鎖で縛っていたのは、
使用者などいなくとも、
杖が自力で動くことを意味している。
また、魔法陣の中心に保管されていたことは、
そうしなければ、
杖自身の魔力が抑えられないことを示唆している。
すなわち、
古き日のトロデーンにおける三重の封印は、
誰かが杖を持ち出すことを防ぎ、
杖が自力で逃げ出すことを防ぎ、
捕縛された状態の杖が外部へ攻撃することや助けを呼ぶことを防ぐ、

という三重の意味を持つものであり、
人間にたとえるならば、
手を縛って、足を縛って、口を塞いでいる状態を意味するものである。
古来よりトロデーンに伝わるその封印の状況を見て、
若き日のトロデ王は、そう理解しているはずであった。
にもかかわらず、
その諸悪の杖をゼシカが拾い上げたとき、
トロデ王は何も言わなかった。
さながら、手と足と口を封じてもなお恐ろしい凶悪犯と、
丸腰で握手をしに行くようなゼシカをトロデが静観してしまったのは、
まさしく杖の邪悪なる魔力のもたらした結果だと言えるだろう。
そういう事情であるのだから、
素手で杖を掴んでしまったゼシカが、
その魔力の餌食になるであろうことは、
少し考えれば誰にでもわかるはずのことだった。
そして、餌食になったであろうゼシカが、
翌朝、カインたちのもとにいなかったのは、
至極当然の成り行きであったし、
寝ている間にゼシカに殺害されずに済んだのは、
とても幸運な結末だったと言えるだろう。


「胸の大きいお姉ちゃんなら、北へ行くと言ってたよ」
と宿の女将の情報を得たカインたちは、
急ぎゼシカを追うことにした。
嫌な予感がする、と、このときカインが少しでも考えていたのかどうか、
後から思い起こしてみれば、疑わしいものである。
ヤンガスの言う、
むさい男ばかりで嫌になった説の対抗馬として、
ラグサットとの結婚が嫌になった説を
カインは思い浮かべていたのだから。


さて、サザンビークの北にあるのは、
リブルアーチという橋上の町である。
カインたちは、
一度はベルガラックを目指して船でこの橋をくぐり、
サザンビークで得た魔法の鏡に光を戻すため、
二度目にはこの橋の下で海竜との戦いを繰り広げた。
その都度、
橋の上に町があることを遠目に見てはいたが、
実際に訪れたことはない。
陸路で到達するためには、
関所を越えねばならなかったが、
文字通り、門前払いをされたという過去もある。
しかし、今回、
カインたちが関所に来た時には、
関所は破られていて、いるべき門番もそこにはいなかった。
ただ、任務を放棄する旨の書置きが残されていた。
「杖を持った変な女に危うく殺されそうになった」
と、その書置きにはあったが、
そこまでの情報があっても、
誰もそれがゼシカであると察しないようであった。
それどころか、ククールなどは、
「誰だか知らねえが助かるぜ。門をこじ開ける手間が省けたんだ」
と、誰とも知らない誰かに感謝している様子だ。


破られた関所を通るのは、
もう2回目になるだろうか、それとも3回目だろうか。
ドルマゲスを追っているときから、
関所に阻まれたおかげで、
先回りすることができず、
常に先手を取られていた。
しかし一方で、
ドルマゲスが関所を破壊するからこそ、
カインたちは敵の足跡を追えたと言うこともできる。
もし、ドルマゲスが関所を破壊せずに通過していれば、
カインたちは、
「奴はこっちには来てないみたいだ」
と、別方向へと進んだかもしれないのだ。
そんな道化師も、
足跡を残したことが災いし、
追手としてやってきたカインたちの手によって斃れることとなった。
関所を破壊する行為は、
追手のために道を開く行為でもあるのである。



リブルアーチは、
石像作りが盛んな石工の町。
町には多くの石作りの職人がいるが、
特に、石工の名家クランバートル家には、
生まれながらにして彫刻の才能を持つ者が、
時折現れるという。
現クランバートル家当主の青年は、
才能を持たずに生まれた者であり、
彼はそのことで悩みもしたが、
今では妻を持ち、普通の生活を送っていた。
一方、彼の父は、才能を持って生まれてきたが、
先祖には遠く及ばないと悩んでいた。
名をライドンといった。

そんな職人たちの町リブルアーチには、
ハワードという呪術師の屋敷もあった。
杖の魔力の餌食となったゼシカが、
関所を破ってそのまま踏み込んだのが、
このハワードの屋敷にである。
殺意も隠さずにハワードに詰め寄るゼシカに対し、
ハワードの使用人であるチェルスが、
雇い主を守ろうと両手を広げて立ちはだかる。
「それ以上ハワード様に近付くな!」
と仁王立ちするチェルスは、
半年前まで旅人として各地を巡っていたのだが、
金が尽きてこの町で行き倒れていたときにハワードに拾われて以来、
使用人として雇われるようになった身であった。
今まさしく、
その恩を返さんとばかりに、
命を賭して救い主をかばっている最中である。
しかし、
そう意気込んでいるのはチェルスだけのこと。
当のハワードは、まるで感銘を受ける様子もなく、
むしろ煩わしそうに、
「お前に何ができるか、ボケナス!」
と身を挺するチェルスを突き飛ばしてもいる。
そして、
尊大そうな態度で、
「女よ。わしを大呪術師ハワードと知っての狼藉じゃろうな?」
と、強気に胸を張る。
『大呪術師』というのは、ハワードが自称しているに過ぎないが、
一方のゼシカはというと、
自称『魔法使いのタマゴ』である。
しかも、『タマゴ』と自称するだけあって、
世界一命中率の悪い魔法使いだった過去もある。
大呪術師が逃げ惑うほどの相手であるとは、
杖の魔力さえなければ、言えないことだろう。
加えて、ハワードは、
得意の占星術で、この状況を予知していたとさえ言う。
「ゆえに、わしを殺そうとする杖使い女を退治するまじないも、すでに会得済みというわけじゃ」
そう言い終えたときには、すでに結界が呪術師を包み込んでいた。
これがハワードの自信の所以であった。
しかし、そのハワードの得意顔を見ながら、
「悲しいわ」
とゼシカはつぶやく。
「4人の賢者の魂を得たこの杖の前では、そんな結界が何の意味もないことがわからないのね」
ドルマゲスの師、マスター・ライラス
ゼシカの兄、サーベルト・アルバート
マイエラ修道院院長、オディロ
カジノオーナー、ギャリング
それが杖に吸われた4つの魂の名である。
4賢者を吸った杖でゼシカが床を突くと、
ハワードの結界はいとも簡単に崩れ去った。
「そんなバカな!」
呪術師は慌ててもう一度結界を張るが、
「もう終わりにしましょう。あがき続ける姿を見ているのは悲しいの」
と、ゼシカが意に介す素振りはない。
ハワードにとって、絶体絶命の危機であったことだろう。

この絶体絶命のハワードを救うという目的があったのか、

と問われると、
実際のところカインにもわからない。
ゼシカを探しに来たと言えばそうであるし、
関所を破壊した犯人を追ってきたと言えばそうでもある。
町に入ると野次馬ができていたので様子を見に来たと言えば、
これもまたその通りであった。
ただ単に、
野次馬の原因と、関所破壊の犯人と、カインたちの探し人が、
同一人物であったという結果論に過ぎない。
そして、この絶体絶命のタイミングを狙っていたわけでもない。
ただ単に、
カインが扉を開けたときに、この光景だっただけである。

杖を振りかぶるゼシカを見て、
カインにははじめ、それがゼシカだとはわからなかった。
その暴力的な行いがゼシカらしくなかった、
というわけではない。
かねてよりゼシカは、
猪突猛進でありながら好戦的であり、
カインに向けてメラの散弾を連発してきたこともあったし、
ククールに対して暴力的だったこともある。
ドニの酒場でのケンカでは、
一般人に呪文を向けようともしていたし、
マイエラ修道院では、扉に体当たりして鍵を破壊した。
魔導士の杖でスライムを殴り殺す姿も、
何度も見てきたカインである。
今さら杖で攻撃する姿を見たところで、
それがゼシカらしくない、ということにはならない。
ゼシカらしくなかったのは、
その行いではなく、その姿であった。
青白い顔色は、
色白ながらも血色の良かったかつてのゼシカの色ではなく、
魔族を思わせる顔の色である。
服装も髪型も、今まで通りであるのに、
その魔族色の肌が、
ゼシカをゼシカに見せないのだ。
「あら。思ったより早かったわね」
カインたちを振り返り、そう投げかける声も、
今までのゼシカとは違う、魔族の声である。
「結界が役に立ったわね。今の茶番がなければ、とっくに死んでいたはずなのに」
残念そうにゼシカが言う通り、
絶体絶命のハワードは、ともかく、
占星術の予知のおかげで生き長らえたと言うべきであるだろう。
カインたちを相手にはできないと、
ここでゼシカは身を引いたのだから。
浮いたまま姿を消すというゼシカの退散方法は、
ルーラにも似ているが、
やはり人間ではなく魔族を思わせる所作であった。

一難去った段になり、
「お怪我はありませんでしたか?」
とチェルスがハワードに駆け寄る。
が、
「触るな!汚らわしい!」
とハワードのほうはチェルスを退けている。
まだハワードと会ったばかりのカインでもわかる通り、
その呪術師は性格に難があった。
リブルアーチの人々とも折りが合わず、
人々に忌避されてもいるのだが、
そのひとつのエピソードとして、
ハワードの愛犬レオパルドが町人に噛みついたとき、
飼い主のハワードは謝りもせずに、
「レオパルドちゃんにばい菌を与えるな!」
と言い放ったという被害報告もあるほどだ。
現に今このときも、
「お前はレオパルドちゃんにご飯でもやってこい!」
と、愛犬に愛情を注ぐと同時に、
チェルスにキツく当たってもいる。
一に自分、二にレオパルド、それ以外は無用の長物、
口にせずとも、その態度がありありとわかるのが、
ハワードという呪術師なのである。
そんなハワードは、チェルスを追い出した後、
「そこの御仁、どうやらお前さんに助けられたようじゃな」
とカインたちに声をかけるが、
「どこの誰だか知らんが、わしのことは知っておるじゃろう」
と自意識過剰な上に、
「大呪術師ハワードを助けたとあっては、名誉なことじゃ、喜ぶがいい」
と、感謝するどころか、感謝を押し付けてもくる。
「助けてもらった礼も兼ねて」
と言うので褒美でも出すのかと思いきや、
「お前さんたちに仕事をやろう。このわしから仕事を仰せつかったとあれば、これまたみんなに自慢できる」
と言うあたり、
天上天下唯我独尊を貫くその姿勢には、
優男のカインであっても一歩引いてしまうほどだった。
とはいえ、
一歩引いたとしても、
依頼とあればそれを引き受けるのが優男の所以でもある。
「クラン・スピネルという2つの宝石をクランバートル家が所持しているが、わしが頼んでも譲ってはくれなかった。お前さんが譲ってもらって来てくれ」
という、我田引水かつ他力本願な要求を
平然と押し付けてくるハワードに、
カインは笑顔で頷いた。
もっとも、
このクラン・スピネルの魔力をもって、
さらに強力な結界を張り、
ゼシカから身を守ろうと考える呪術師を

本気で助けたいと思うのならば、
その依頼を受けるよりも、
ボディガードを引き受けたほうが正解であったことだろう。
ゼシカの側が、
カインたちと戦いたくないと考えている以上、
ボディガードとしてハワードを守れば、
ゼシカは手出しができないはずなのだから。

加えて、
その依頼はそう単純なものでなかったことが、
直後に発覚することになる。
クランバートル家の現当主は、
「そういう話でしたら、父さんに聞いてください」
と、父ライドンに判断を任せたのだが、
そのライドンは町にはおらず、
東の塔を登らねば会えないという状況であるのだ。
カインがライドンに会いに行っている間に、
ゼシカがハワードを襲ってきたらどうするのか。
そのような考えがカインになかったわけではない。
しかし、
当のハワードがそれを希望するのだから仕方がない、
という思いもあれば、
それ以上の対応をしてやる義理もない、
と、カインが言わずとも満場一致の雰囲気が出来上がっている。
クランバートルの現当主から、
塔に入るためのカギ、石の剣を受け取り、
カインたちは、ライドンのいる東の塔を目指すのだった。



ところで、
ゼシカのフィアンセであるラグサットは、
諸国漫遊を続けながら、ここリブルアーチにたどり着いていた。
石像職人に弟子入りし、
しかし親方から、
「チャラチャラしていて使えない奴だ」
と烙印を押されていたのだが、
これがゼシカがいないタイミングだったことは、
いったい誰にとって都合の良いことだったのだろう。
「使えない男と結婚なんてできないわ」
とゼシカが思うこともなかったし、
「魔族になったハニーとは結婚なんかできないさぁ」
とラグサットが思うこともなかったのは、
果たして幸運な展開だったと言えるのだろうか。
ゼシカの騎士を自称するククールが何も言わない以上、
カインにわかることは何もなかった。



カイン:レベル31、リブルアーチ
プレイ時間:46時間59分

 

 

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