わしは、バコタと名乗る盗賊から、
鍵を奪うことに成功した。
わしのような老人から、
自慢の鍵を盗まれようとは、
まさかバコタも思わなかったに違いない。
○月×日
バコタが逮捕されたという話を聞いた。
自慢の鍵を失って、
盗みから逃げ出すのに失敗したのかのぅ。
これも天罰、と思うのじゃが、
盗賊から鍵を盗んだわしへの天罰も下る日が来るのじゃろうか。
○月×日
牢屋のバコタに面会に行った。
何の気は無しに、ナジミの塔に移り住むことをバコタに話した。
いずれ、バコタが釈放される日が来たら、
わしのところに復讐に来るかもしれんのぅ。
そうだとしたら、
それがわしへの天罰と思うて、納得するしかないのぅ。
○月×日
道中、年寄りの足では厳しいものじゃったが、
ナジミの塔の最上階は居心地がいい。
幸いにも、この塔には宿屋を経営しておる者がいて、
入り用な物は、宿屋の店主に頼んで、運んでもらうことができた。
老い先短いながら、
便利なところに住むことができそうじゃ。
○月×日
夢を見た。
かいん、というアリアハンの少年勇者に、
盗賊の鍵を渡す夢。
なんとも不思議な夢じゃったが、
もちろん、そんな少年がわしを訪ねてきても、
この鍵を渡すわけにはいかん。
何せ、わしの部屋の扉は、
もう、この鍵でないと開閉できんからのぅ。
○月×日
また夢を見た。
かいんは、アリアハンの酒場で、
戦士あだむと、商人あべると、魔法使いいぶを仲間にしたようじゃ。
ところで、最近気が付いたのじゃが、
わしの部屋付近には、全く魔物がいないようなのじゃ。
魔物を心配して扉を作ったのじゃが、
魔物が来ないと思えば、扉も必要なくなるのぅ。
もし、勇者が訪ねて来れば、
この鍵を渡してもいいような気がしてきたのぅ。
○月×日
今日も夢を見た。
かいんは、アリアハンを出るや否や、
岬の洞窟から、ここナジミの塔へと来ようとしておる。
わしもここへ来るのに苦労したものじゃが、
かいんはもっと苦労しておるのぅ。
不思議なもので、鍵を渡す気になったと思ったら、
早く渡したくてしょうがない気分になってしまう。
かいんがここを訪ねて来るのが楽しみじゃ。
わしは、夢のこと以外に書くことがないのかのぅ。
○月×日
今日もかいんは来なかった。
夢は見た。
岬の洞窟で、かいんは苦戦しておるようじゃ。
かいんが来るのが待ちどおしいのぅ。
○月×日
夢の話。
かいんは、ついにナジミの塔へと足を踏み入れたようじゃ。
だいぶ苦戦しておるのぅ。
わしの行きつけの宿屋で一泊。
かいんは、明日にもわしのところに来るじゃろう。
わしも、この鍵を磨いておくとしよう。
この鍵が、勇者の役に立つことを信じて。
○月×日
今日は夢を見なかった。
その代わり、いつも夢で見ていた少年勇者が訪ねてきた。
少年は傷つき、毒に侵されておった。
毒の治療を急いだほうがいいと思ったわしは、
手短に、これまでの夢の話をした。
そして、鍵を受け取ってくれるかどうかを尋ねた。
少年は少し不思議そうな顔をしたのぅ。
それもそのはず。
バコタから奪った鍵を
簡単に渡すとは思ってなかったじゃろうからのぅ。
少年は、少し戸惑った後に、わしに言った。
「はい」と。
なんとも口数の少ない少年じゃったが、
ついにわしは、念願叶って、勇者に鍵を渡すことができた。
少年は、鍵を受け取った後、塔から飛び降りよったのぅ。
若いものは元気じゃて。
○月×日
昨日の出来事は、思い返しても心が躍るのぅ。
夢で見た少年が、本当に訪ねてくるとは。
本当に鍵を受け取ってくれるとは。
戸締りはできなくなってしまったが、
鍵を渡せてよかった。
この歳になっても、
まだまだ達成感を感じることがあるものじゃのぅ。
先が短いと思っていた人生も、
まだまだ続きがあるのかもしれん。
次の夢のお告げを待ちながら、
また、のんびり暮らすとしよう。
かいん(勇者・男):レベル4、HP30
あだむ(戦士・男):レベル6、HP32
あべる(商人・男):レベル6、HP46
いぶ(魔法使い・女):レベル5、HP12

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