遺跡に踏み込むカイン。
ここで、カインはパパスと再会することになる。
何の情報もなく、この遺跡にたどり着いたパパスは、
流石と言うほか無かった。
この遺跡は、カインの予想通り、誘拐犯の根城だった。
王子誘拐に成功した犯人たちは、
仕事の完了を祝って祝杯を上げていた。
彼らは、王妃から、王子の始末を依頼されていたが、
誘拐した上で、身売りすることで、
さらなる利益を上げていたのだった。
この事件は、複雑に絡み合う難事件で、
金目当ての単なる誘拐事件とは一線を画していた。
というのも、
王妃の目的は、次男デールに王位を継がせること。
誘拐犯の目的は、王妃から依頼金をもらい、
さらに、光の教団に子供を売って身売り金を手にすること。
光の教団の目的は、教団の本部となる神殿を作るための人員として、
子供の奴隷を手に入れること。
この三者は、必ずしも同じことを望んでいるわけではなかったが、
複雑に絡み合った陰謀のおかげで、
各々の狙いから、少しずつかけ離れた結果を生むこととなった。
ラインハット王妃は、この事件によって、
ラインハット存亡の危機が訪れることになるとは、
微塵も思っていなかった。
誘拐犯は、奴隷として子供たちを身売りした教団が、
世界に絶大な影響を与えようとしていることなど、
知りもしなかった。
そして、光の教団側も、
王子誘拐を解決するために、
パパスという勇敢で屈強な戦士が介入してくるなどとは、
思ってもいなかった。
ここにパパスを投入できたことは、
ラインハット王としては最善の手であったと言える。
奇しくも、子守に似つかわしくないパパスに、
ヘンリー王子の一件を依頼したラインハット王は、
息子をあやせなくて、妻の考えを見抜けないながら、
直感として、最良の手を打っていたと言えた。
さて、こちらは地下牢に幽閉されたヘンリー王子。
ヘンリーは、誘拐されたことを何とも思っていなかった。
いや、むしろ、せいせいしていた。
どうせ自分は、ラインハットに戻っても厄介者。
誰も自分のことなど心配していないだろう。
それなら、いっそ誘拐されて正解だったかもしれない。
ヘンリーの考えは、ひねくれていた。
だから、ヘンリーは、パパスが助けに来ても、
感謝しないどころか、
城に戻るつもりがないと、突っぱねた。
そんなヘンリーの頬をパパスは平手で打った。
これはカインにとっても衝撃的なことであった。
なにせ、実の子である自分さえ、
パパスに頬を打たれた経験などないのだから。
パパスが暴力的だったことなど、今までにただの一度もない。
だから、カインには、
パパスが怒り任せでヘンリーの頬を打ったわけではないことが、
すぐにわかっていた。
「ヘンリー王子。」
パパスは真剣な表情で言った。
「あなたはお父上がどんなお気持ちであるのか、ご存じか?」
ヘンリーは答えられなかった。
「お父上がどんなにあなたを心配しておられるか、ご存じか?」
ヘンリーは、また答えられなかった。
「ここから先は、お城に戻って、ゆっくりお父上とお話しされるがよかろう。」
ヘンリーは泣いていた。
それは、痛いからではなかった。
パパスが、どんなに自分のことを思い、
ラインハットのことを思っているのか、
それが垣間見えた気がしたからだった。
パパスにそう思わせるために、
父上はどんなに必死に思いをパパスに伝えたのだろうか。
ヘンリーはそのことを考えると、
泣かずにいられなかった。
「さあ、王子。長居は無用です。追っ手が来る前に。」
そう言って地下牢を去ろうとするパパスたちを
あざ笑うかのごとく、魔物たちが現れる。
「カイン。王子を連れて先に行け!ここは私が引き受ける!」
後背をパパスに任せたカインは、
急いでラインハットに帰るべく、遺跡の出口へと向かった。
ゲマは、まるでこうなることがわかっていたかのように、
遺跡の出口で待っていた。
光の教団の幹部であるゲマは、
捕まえた奴隷を
みすみす逃がしてしまうほど愚かなことはしなかった。
遺跡から脱出しようとするカインの前に立ちはだかり、
ニヤニヤと笑いながら、
カイン、ゲレゲレ、ヘンリーを大鎌で攻撃し、即座に気絶させる。
そこに少し遅れて駆けつけたパパス。
パパスは剣を構え、ゲマを睨んだ。
ゲマは、パパスに脅威を感じ、
自ら相手をすることをしなかった。
「ほっほっほ。あなたの相手はこちらです。出でよ、ジャミ!ゴンズ!」
ゲマに呼ばれて現れた2体の魔物。
ジャミとゴンズは得意気にパパスに襲いかかったが、
歴戦のパパスの敵ではなく、
一瞬の後、2体とも後ずさることとなった。
あと1体!
パパスは再びゲマを睨んだ。
ゲマを睨んで、パパスは驚愕した。
パパスの目に映ったのは、
首に大鎌をあてがわれているカインだからだった。
ジャミとゴンズと戦っている隙をついて、
ゲマがとった行動がそれだった。
「さあ、どうしました?存分に戦ってください。ただ、この意味はわかっているでしょう?」
ゲマはニヤニヤしながら大鎌をゆらゆらと揺さぶった。
たちまち、形勢逆転、とばかりに、
ジャミとゴンズが再び襲いかかる。
パパスは耐えた。
ただただ耐えた。
剣を出せば、カインは殺されるだろう。
だが、このまま私が倒れたとして、
カインは無事にいられるだろうか。
もしかしたら、どちらにしてもカインを殺すつもりかもしれない。
パパスはその可能性にも気づいていた。
しかし、そうだとわかったとしても、
子を人質に取られて、なお勇敢に戦える父などいなかった。
歴戦の英雄パパスと言えども。
ゴンズの剣がパパスを切りつける。
ジャミの蹄がパパスを殴りつける。
パパスには、ただ耐えるしか手がなかった。
ジャミ、ゴンズ、ジャミ、ゴンズ、
数え切れない程の攻撃にさらされ、
倒れては立ち上がり、立ち上がっては倒れ、
ついには、力尽き、立ち上がれなくなるパパス。
パパスは倒れたままカインの方に手を差し出した。
「カイン・・・。」
パパスは消え行く声でカインの名を呼ぶ。
「カイン・・・、聞こえているか?」
カインは意識を朦朧としながら、
パパスの声を聞いていた。
「カイン・・・。」
今聞こえた声が、走馬燈のごとく、
記憶の中の、過去のパパスの声と重なった。
「カイン、大丈夫か?」と、ホイミを唱えるパパス。
「カイン、ラインハットの一件が終わったら遊んでやれるぞ。」と優しい目で言うパパス。
「カイン、ラインハットに来る前に、なにやら不思議なことを言う男に会ったぞ。」これはほんのさっき聞いたばっかりの声。
朦朧とする中で、
不思議な男、について心当たりがあるのを思い出した。
なぜか気にかかる言葉。
「お父さんを大切にね。」
その言葉に辿り着いたとき、
カインはハッとして意識を取り戻した。
眼下には、想像だにしなかった光景が広がっていた。
パパスが、血の涙を流しながら、
自分の方に手を伸ばしていた。
「カイン、お前の母マーサは生きている。」
パパスは最後の力を絞ってカインにそれを伝えた。
「ぬわーーーっ!!!」
そのときカインが見たものは、
そのパパスが大きな炎に包まれ、
燃え尽きて黒いススになる瞬間であった。
カインは声を出せずにいた。
何が起こったのかも理解できずにいた。
ただ、あまりの衝撃的な出来事に、
また意識を失うのだった。
「ゲマ様、なにやら黄金の宝玉がありましたがいかがいたしましょう?」
「これはもしや・・・?いずれにしても壊しておきましょう。」
ビアンカとの思い出のゴールドオーブを粉々にするゲマ。
「ゲマ様、このキラーパンサーの子供はいかがいたしましょう?」
「放っておけば、魔性を取り戻すでしょう。それにしても、子を思う父の死に様は実に美しい。」
ゲマはニヤニヤしながら、気絶しているカインとヘンリーを連れて、
教団の神殿建築予定地へと向かうのだった。
ゲレゲレは、ただ1匹、遺跡に残されていた。
意識を取り戻し、わけもわからず、遺跡を彷徨う。
主はどこかと、ただただ走り回る。
そして、ススの中に一振りの剣を見つける。
ゲレゲレには、人間の感情がわからなかった。
だが、この一振りの剣を守り抜くことが、
主と再び会い見えることだと信じた。
剣を咥えて、ゲレゲレは遺跡を出、
初めて自らの道を進むのだった。
カイン:レベル11、プレイ時間3時間24分
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