わたしを離さないで | CACHETTOID

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Art is long, life is short.
一人の人生で得ることのできる知識や経験は、ひどくちっぽけなものですが、僕らは巨人の肩の上に立つことにより、遥か彼方まで見渡すことができます。
文学、芸術、神経科学、哲学、思考などを自由に展開していくブログです。

 
わたしを離さないで
カズオ・イシグロ本。第二弾。
 
(一年前に読んだ文章の再掲載です。ただの記録です。)
 
失われた巨人の次に読んだ本。
カズオ・イシグロの流れるような敬語は美しかった。
そもそも、初めの段階では背景が入ってこなかった。情報の小出しの仕方が上手だった。夏目漱石の文章もそうだというので一度読んで見たい。
キャシーによる一人称物語なのに、どうしてか様々な人の考えが映し出されていた。その手法が卓越していた。そして、クローン人間を扱うというありきたりなテーマの中に表現される普遍性。
僕は、基本的に人間は多価性を有した生き物で、思想と発言が一致しないことは珍しくなく、そもそも、思想も矛盾するような思想もほんの少し異なる思想も多くが内在しているのが人間という生き物だと思っている。性欲を感じる一方で理性がそれを抑制するように。この考え方はフロイトのエゴとイドに似ているかもしれない。
多価性がそもそも普通であって、そのため、一貫して連綿と続く思考なんて嘘っぱちだと思っている。それなのに、登場人物は一個の思考を持って動くような文章からなる物語は作者によって作られた人物像でしかない。要するに文章の中で彼らは生きていない。カズオ・イシグロに出てくる登場人物はほんの少しずつ異なった感情を抱いている、ように見えた。例えば、ポシブルを探すシーンに意気揚々とする一方で不安も垣間見えたりと。その点が非常に勉強になった。