人材不足により、マネージャー業務をしながら、通常のホールの営業をする日々が続いていた。接客もかなり慣れたお蔭でお客様に名前を覚えてもらったり、中には会社の付き合いでこられた女性のお客様には、
『あなたの接客のお蔭で取引先の社長さんに大変喜んで頂けたわ。ありがとう。これ、少ないけど取っておいて。』
などとお小遣いを頂くこともしばしば。基本的にはお返しするが頑なにお客様が、
『いいから、取っておいて。』
と言われた際は、あまり断りすぎると気分を害するため素直に、
『ありがとうございます。』
と、頂く。
こんな日々が続いて、全てが順調に思えていたが、あることに気づく。
担当のみゆが入店してから指名を一本も取れていない。みゆはキャバクラは未経験なため、固定客がいない。こうなると新規のお客様から指名を頂くしかないのだが、基本的にフリー(注:指名がない)お客様には店舗イチオシの可愛い子をつける。残念ながらみゆはそちら側には入れず、ヘルプ(注:お客様の指名が重複した場合、席を離れた時に代わりにつく女の子)ばかりだった。
『まずいなぁ。』
このままだと、ヘルプ専門になり自給も上がらず可哀想だと思った俺はみゆに、
『そーいやみゆってスナックで働いてたんやろ?誰か呼べるお客様はおらんの?』
と聞くと、最初は困っていたものの、
『二人だけおる・・・かな?』
と答えた。
『じゃあダメ元でメールだけしてみよか!来てくれたらラッキーやん。』
そして、実際にメールを入れてみると来てくれることになった。
来られたお客様は二人組でなんだか気前の良さそうな方たちだった。
みゆは指名をもらい席に着いた。
『村木!やるやんけ!』
代表に誉めてもらった。さらにいいことは続く。一時間で帰ろうとされたので一応延長交渉に行くと、なんだか話が盛り上がり簡単に延長を決めてくれた。それだけでなく、みゆが俺のことを紹介すると、
『始めまして。シュウとタカです。これからもよろしくな!』
気さくですごい話しやすい方だった。
『みゆさんの担当マネージャーの村木と言います。今後ともよろしくお願いします。』挨拶をすると、
『名前は?』
『は?』
『だから、下の名前は?』
『祐介です。』
『おぉ、祐介よろしくな!俺らの接客は全部祐介がしてくれ!』
『ありがとうございます。可能な限り全て駆けつけます。』
これが、シュウさんとタカさんとの出会いだった。この出会いが後の俺に変化をもたらすことになる。
その二日後にもシュウさん達は来店された。その際、来られる前に俺指名で電話が掛かってきて、
『祐介のセンスで適当に出前頼んでくれ。』
と言われ、出前を頼んでおいた。
来店されるとすぐさま呼ばれ、
『お前ええセンスしてるやんけ!』
と言われ、
『次から直接祐介に連絡するから番号教えてくれ。』
と言われた。代表に確認を取るとオッケーが出たので名刺を頂き、二人にワンコールとメールを入れておいた。
ここからシュウさん達との付き合いが始まったのだった。

続きは次回更新で。






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頑張ろうと決めた俺だったが、思わぬライバルが現れる。後輩の中村、更には今まで紹介しなかったが、中村の少し後に入った三村。二人が立候補した。
演説で中村は、
『先輩の村木くんのライバルになれるように頑張ります。』
と、言った。本来なら、刺激を受けるべきなんだろうか?しかし、正直後輩二人を含む、きっしーと合わせた三人は眼中になかった。
実はこの少し前に、現在担当の四人から、
『次回もよろしく。』
と言われていたからだった。
さらに、他にも四人から、
『次は、村木くんに投票するからよろしく。』
と言われていた。つまり、八人が確定していた。問題は店長に並べるかどうかである。
上を見て頑張ろうと思っていたが、俺の担当の中でトップの成績を誇っていたミナミがやめたいと言い出した。
もし、そんな事が起こったら代表に殺されると思ったし、みゆやみおの事もあり、
『とりあえず二人で飯食べにいこや。』
そう誘った。(注:もちろんプライベートではない。プライベートでそんなことすれば大問題である。担当の女の子が悩んでいたりすると、店から許可をとり、ご飯を食べに行き、相談にのったりする。)
そして、二人で食事に行き、
『どないしたん?何か悩みあるんやったら聞くで?』
と聞くと、
『うち、代表が苦手やねん。村木はどう思う?』
『確かに代表は厳しいからなぁ。けど代表は代表で皆のこと考えてるんちゃうかなぁ。もうちょい様子見てみーひん?またしんどい時は俺が話聞くからさ。な?』
『んー。』
『分かった。じゃあミナミが代表に怒られる時は俺も一緒に怒られるし、かばうようにするやん!』
『じゃあもうちょい頑張ってみよかな。』
なんとか収まった。
そして、マネージャーの投票の結果が出た。
結果、店長は十人、俺が八人、後輩二人は一人ずつ、きっしーは相変わらずゼロだった。
こうして無事に終わった。
それからしばらく経ち、シュウさん達が来店された。
いつものように接客していると、
『祐介、お前バニラって知ってるか?』
『え?はい。うちの系列の店舗ですよね?確か、地域ナンバーワンの店舗でしたね。』
『せやねん。俺らもたまに行くんやけどな。あそこの接客はひどいわ。お前バニラ行って接客教えたれや。』
『いやいや自分なんかまだまだですよ。』
こんな会話をした。ただの何気ない会話だと思っていた。
数日後、代表から、
『村木、お前悪いけど次からバニラ行ってくれるか?』
と言われた。
『え?じょ、冗談ですよね?』
『いや、冗談ちゃうねん。俺も反対したんやで?けど上から言われたら逆らわれへんやろ?』
『そうですか・・・・。ミナミ達はどうなるんですか!?』
『また投票するしかないなぁ。』
少し理不尽な気はしたが、確かに上から言われたら逆らうことなんかできる訳ない。こうして俺はバニラに異動することになってしまったのだ。

これで、ROSE編は終了です。
次回より、バニラ編に突入します。
続きは次回更新で。






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それからしばらく経った頃に新人のボーイが入店した。
名前は中村という男で、俺と同い年の大学生だった。
今まで紹介しなかったが、実はこの話がここまで進む間に十人弱の新人が入店しているが、みなやめてしまった。
どの新人も年上ばかりで接しずらかったが中村は同い年ということもあり、話しやすかった。
そのこともあってか、中村は俺が指導することになった。中村は素直なやつで、教えると、
『うん。分かった。』
といいきっちりメモも取っていた。
『あぁ、ようやくまともな新人が入った。』そう俺は思っていた。
それからというもの、中村とはよく話すようになっていた。
しかし、キャバクラのようないわゆる夜の仕事は完全実力主義なため、先輩でさらにマネージャーである俺には中村は敬語を使わないといけないため、仕事中は敬語、終わればため口と少しややこしかった。
そして、中村が慣れ始め一人で営業するようになった頃だった。
いつものように店舗の女の子達と話していると、なにやら騒がしい。
騒ぎが起こっている方を見ると、喧嘩が起きていた。しかも、それを女の子が止めに入っている。
『まずい』
すぐさま走って間に入ると、殴りあいの寸前にまで達していた。
『お客様!落ち着いて下さい!』
そう声をかけても収まる気配はない。
代表も来て、皆で止めに入り、なんとか騒ぎは収まった。
・・・・ハズだったのだが。
片方のお客様は帰ったのだが、フロントに立っている先輩からインカムで、
『代表、さっきのお客様がどうやら暴力団の方だったみたいで、組員を連れて三人で来られています。店を無茶苦茶にするとおっしゃってます。』
と、入ってきた。
『おいおい勘弁しろよ。』
代表はそう言った後、
『とりあえず、今日はシャッター閉めて営業は終了しました。お客様も皆さん帰られましたって言っとけ。』
と伝え、先輩はその通りにした。
その甲斐あってか、なんとか事態は収まった。しかし、こういう業界である。トラブルは続く。
しばらくした後、新規のお客様が入店された。
いつものように席に着き、女の子も着いた。指名がなかったため、女の子を入れ換えると、
『めっちゃムカつくしぃ。』
そう全ての女の子がいう。
『どないしたん?』
事情を聞くと、どうやら席に着き名刺を渡すと即座に破り捨てたり、ぐしゃぐしゃにされ、何を話しても怒っている、という訳だ。ここまでならまだ許される範囲だが、何やらインカムで、
『村木くん。お客様が呼んでます。』
中村からだった。
すぐ行くと、
『お前スーツやし、なんや偉いんか?』
そう聞かれた。
『いえ、私はただのマネージャーです。』
そう答えると、千円渡され、
『コンビニ行って、ビールとタバコ買ってこい。』
こう言われた。
タバコは当然大丈夫だが、ビールは店のがある。代表に許可を求めると、
『まぁええわ行ってこい。』
そう言われたので買いに行き、戻ってくると、何やら代表が説教されている。終いには胸ぐらを掴まれ、文句を言われたようだ。そのお客様は結局一時間で帰ったが、当然これで収まる訳がない。代表はかなり怒っていた。
『なんなんあいつ?今日は誰もなんっも悪いことしてへん。お前ら気にすんなよ。俺がなんとかしたる。』
そう皆に言った。そう、普段ミスをすると厳しい代表だが、誰もミスをしない限りは徹底的に守ってくれる。
それからしばらく経ち、いつものように営業していると、フロントから、
『おらぁ!さっさと歩けあほ!』
怒鳴り声が聞こえてきた。
声のする方を見ると、あの時のお客様がうちのグループで最も偉い統括に耳を引っ張られながら入ってきた。
何やら怒鳴られているがよく聞こえない。すると、代表が近づき、インカムのスイッチをオン。
『お前なぁ、この店でいらんことすんなやこら!ここが誰の店か分かっとんのかワレ!』
統括が言う。
『すいません。すいません。』
男は謝るだけだった。
『お前なぁ調子乗ってたら刺すぞ!あ?刺して大阪湾沈めたろかワレ!』
『すいません。もう二度とこんなことしないので許して下さい。』
男は泣いていた。
そして、再び男は外に連れ出された。
代表は俺の所に来て、
『あいつ、ミナミの別のキャバでボーイやってるやつやってな。ソッコー見つけてさらってきてん。んでわざわざうちの店で詰めたんや。どや?ちょっとはスッキリしたか?』
こう言った。
『はい!ありがとうございました!代表が近づいてインカムのスイッチを入れるタイミングが完璧でしたわ。』
そう答えた。こういう業界のため、トラブルが起こっても、自分が納得できるような解決をできる時は少ない。
たまにはこういうのもいいか。
そう思った。

続きは次回更新で。






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