― 札幌テレビ塔のベンチにて ―**
テレビ塔の影がベンチに落ち、風が少しだけ涼しい。
カトマイは黒ぶち眼鏡を押し上げ、隣の佐伯ひかりが差し出したノートを覗き込んだ。
ひかり
「日本の消費税って、どうしてこんなに弱いところに負担が集まるんですか?
制作会社とか、フリーの人とか…まるで導火線つきのダイナマイトを渡されてるみたいで。」
カトマイ
「その比喩は正しいわ。
日本の消費税は“間接税っぽい直接税”という、世界でも珍しい構造をしているの。
欧州のVATは完全な間接税で、事業者は預かった税を国に渡すだけ。
だから弱者に負担が集中しない。」
ひかりはテレビ塔を見上げながら、眉を寄せた。
ひかり
「じゃあ日本は、どうしてそんな曖昧な構造のまま来ちゃったんですか?」
カトマイ
「歴史的にね、消費税を導入するとき“間接税です”と言い切ると反発が強かった。
だから“事業者の納税義務です”と説明した。
その結果、
法律は直接税の構造、実務は間接税の運用
という矛盾が生まれたの。」
ひかりはノートに線を引きながら言った。
ひかり
「インボイスって、その矛盾をさらに強くしたんですね。」
カトマイ
「そう。
欧州のインボイスは“事業者を守る制度”。
日本のインボイスは“弱者に負担を押し付ける制度”。
構造が違うから、同じ名前でも意味が違う。」
風が吹き、カトマイのワンピースの裾が揺れた。
ひかり
「じゃあ、誰がこの制度を作ったんですか?
意図的に弱者に押し付けたんですか?」
カトマイ
「意図というより、
財務省の税収確保、政府の増税準備、大企業の下請け管理、
そして弱者の声が届かない政治構造
その全部が絡み合って、こうなったの。」
ひかりは静かに息を吐いた。
ひかり
「欧州みたいに、構造がちゃんとしていれば…
制作会社が倒産したり、フリーの人が生活を壊されたりしないのに。」
カトマイ
「そうね。
制度の“構造的脆弱性”は、個人の努力ではどうにもならない。
だからこそ、構造を理解することが最初の一歩なの。」
テレビ塔の時計が午前9時を指した。
二人は立ち上がり、また歩き出した。
構造を知ることは、世界の見え方を変える。
そのことを、ひかりは少しだけ実感していた。
