◆ 税務署・窓口
昼下がりの税務署。
番号札の電子音が鳴り、ひかりの番号が呼ばれた。
窓口の職員は、柔らかい笑顔で迎えた。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
ひかりは静かに言った。
「消費税の納税証明書をいただきたいんです。」
職員の表情が一瞬だけ固まった。
そして、丁寧な声で答えた。
「……申し訳ありません。
消費税の納税証明書は発行できません。」
あかりが横でメモを取りながら尋ねた。
「どうしてですか?」
職員は、マニュアルを確認するように言った。
「消費税の納税義務者は“事業者”です。
消費者の方は納税義務者ではありませんので、
証明書の発行対象ではないのです。」
ひかりは、静かに頷いた。
「つまり……
私たちは“消費税を納めていない”という扱いなんですね?」
職員は困ったように微笑んだ。
「はい……制度上は、そのようになります。」
ひかりは、あかりの方を見て小さく言った。
「……これが“答え”だよ。」
◆ 税務署を出た二人
外に出ると、冬の光が白く街を照らしていた。
あかりが言った。
「ひかり……今の説明、
政府の言ってることと矛盾してない?」
ひかりは歩きながら、黒い手帳を開いた。
「うん。
政府は“消費税は間接税で、事業者が預かって納める”って言ってる。」
「でも、税務署は“消費者は納税者ではない”と言った。」
「これはつまり──」
ひかりは足を止め、
手帳に書いた五つの項目を指でなぞった。
• 納税義務者は事業者
• 消費者は実質的負担者
• しかし消費者は納税証明を得られない
• 住民税は預り金で証明が出る
• 消費税は預り金ではないと裁判所が判示
そして、静かに言った。
「税務署の説明は、
“消費税は間接税ではありません”
“預り金でもありません”
と言っているのと同じなんだよ。」
あかりは息を呑んだ。
「……制度の深層が、
自分で矛盾を暴露してる……」
ひかりは頷いた。
「読む力があれば、
その矛盾が“聞こえる”んだよ。」
◆ カトマイの動画収録
カトマイは、ひかりの手帳を見ながら語った。
「今日は、制度の“自己矛盾”について話します。」
画面には、ひかりが税務署で受けた説明が映し出される。
「税務署は、
『あなたは納税義務者ではありません』
と言いました。」
「これは、
政府の説明──
『消費税は間接税で預り金』
という言葉と矛盾します。」
「制度の表面は“整っている”ように見えても、
深層では“言葉が破綻している”のです。」
◆ 英国外務省・分析室
主任分析官は、カトマイの動画を見終え、静かに言った。
「制度の深層が揺れ始めた。」
若手分析官が頷いた。
「読む力が、
制度の“言語のほころび”を可視化したんですね。」
主任は言った。
「これは、
制度が自らの矛盾を露呈した瞬間だ。」
◆ ひかりとあかりの帰り道
夕暮れの街を歩きながら、あかりが言った。
「……読む力って、
制度の“言葉の嘘”まで見抜けるんだね。」
ひかりは微笑んだ。
「うん。
そして、その矛盾に気づいた人が増えれば、
制度は少しずつ変わっていく。」
二人の足元には、
備長炭の火種がまた一つ、
静かに灯っていた。