「見ろ、わたしは生きているよ!」 | QOL ~Quality of Life~

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日々のいろいろ、仕事、乳がん。
でも、より良い人生のために。
毎日笑って、生きていこう。

ブログとは、と、


時々忘れそうになるけれど、


きちんと、ログしておこうと思う。


いいことも。


悪いことも。



2ヶ月くらい前。


ホームへ続く階段を登り切るかどうか、というところで、


わたしにとって、


信じられない光景が視界に入ってきた。


その手前10メートルくらい、


視界の隅だったけれど、わかった。


一瞬で、自分の態度を決めた。


動揺する理由も、


こそこそする理由も、何もない。


顔を上げて、真っ直ぐ歩いた。



それでも、どうして?と頭が混乱したから、


顔は紅潮していたと思う。



視界に入ったのは、


友人だった人だった。


わたしが乳がんになって、疎遠になった。


なんで彼女がここにいる?


普段、東京湾の向こう側で生活し、


仕事をしているはずの彼女が、


なんだって、こんなところに立っている?


平日の昼間だから、きっと仕事なのだろう。


ビジネスバッグを持っているようだったから。


一瞬でも、間違いなく、


かつて、ほんの半年前まで、


とても仲が良かった友人だった。



わたしの乳がんがわかるずっと前に、


何度か気になって、聞いたことがあった。


「ねえ、病気したことないでしょう?

身内に病気の人も、いないでしょ?」


正解だった。


そう聞いてしまうくらい、


彼女には、少し、ある部分で、


ふっと冷たさを感じるところがあった。


多くのスタッフの上に立っていた彼女はよく、


「いまの若い子は、ホントに弱いの。

すぐ風邪ひくし、どこが痛いだの、悪いだの」


よくこぼしていた。


いま考えても、


彼女は本当に健康な人だったと思う。


でもそれは、


健康管理が万全だから健康だ、というわけではなく、


「手洗いうがいなんてしたことない」


そう自分で豪語していたくらいだから、


もともとが、本当に丈夫で健康だったのだろうと思う。


ハードな仕事で、暴飲暴食気味でも、


毎年の健康診断はオールAだと聞いたこともあった。



乳がんになってしまったと打ち明けたとき、


嘘でしょ?と繰り返したあと、


「治るの?」と聞かれたことは思い出す。


手術の前日、メールで、


「がんばれ!」と言ってくれたことも。


一段落した放射線の頃、


また元通り、元気だよ~と一緒にランチをしたりもした。



関係がおかしくなったのは、


わたしが、化学療法に入った頃だった。


もう少しハードな治療が続くことになったの。


化学療法とは、ということも話した。


脱毛したあと、調子がいいときに、


会ったときのこと。


「今日は帽子なんだね」


「だって、これウィッグだから」


話したのに、忘れちゃったんだろうか。


脱毛したから、と言ったあとの、


彼女の反応を、ずっと認めたくなかったけれど、


一瞬、身を引き、眉をひそめたような、


そんな顔をした。



その後、何度かメールのやり取りはあった。


生まれた溝は元に戻らなかった。


数日後、彼女のデータを、


携帯電話から、全て消した。


怒りではなく、


悲しみのほうが強くて、


携帯の中に、彼女の名前を見たくはなかったから。


悲しかったけれど、


あまりにも青天の霹靂すぎて、涙も出なかった。


わたしと彼女のたくさんの思い出が、


なんだかかわいそう。


人ごとみたいに、そんな風に思った。


わたしは彼女の何を見てきたんだろう、とも。



そして、時間が過ぎて、


彼女のことを思い出しても、


ようやく、胸がざわざわしなくなったときに、


駅のホームで、彼女を見た。



顔を真っ直ぐ前に向けたまま、


胸を張って、歩けばいい。



彼女はもうわたしに気がついているだろう。


今日は帽子かぶってないけど、


これはウィッグだよ。


最後に会ったときは、まだ、


歩くのもおぼつかなかったけど、


まだウィッグだけど、こんなに元気になったんだよ。


ねえ、わたしの何が悪かった?


病気になったわたしは、


そんなに忌まわしかった?


たとえそうだとしても、


あなたのおっぱいに傷がつくことがありませんように、って。


いまでも、わたしはそう思うよ。



彼女の目の前を通り過ぎるときに、


見ろ!よく見ろ、あたしは生きているよ、


まだまだ生きるんだよ!


さようなら、バイバーイ!


そう、思った。












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