トラウマ
ねぇ 行かないで
置いて行かないで
叫ぶ声を聞いて
暖かい腕で抱きしめて
お願い
真っ暗な部屋の中
小さな箱で踊る白黒の犬
彼女の幼き子供達は純粋な眼差しで犬を追う。
何も疑わず何も疑わず。
最後の別れとも知らずに光を放つ箱を見つめる。
「私は買い物に行く」
そう言って彼女は家を出た。
もう二度と戻る事のない家を出た。
もう二度と会うことのない子供達を振り返る事もせずに。
ねぇ行かないで
置いて行かないで
私が悪い子だから?
私がいらない子だから?
私は生まれて来なければよかったの?
私がいなければお父さんとお兄ちゃんは不幸になることはなかったの?
聖なる雪の日。
真実を告げる電話のベル。
彼女は残酷な言葉を言った。
「息子だけなら育てるわ」
少女は聞いた。
その言葉を聞いてしまった。
少女は尋ねた。
「私は必要ない子供なの?」
沈黙がケーキの前に落ちる。
誰もその問いには答えなかった。
あぁ 神様。
私が生まれてしまったからこんなに悲しい世界になってしまったの?
私が幸せの空間を壊してしまったの?
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ねぇ 行かないで。
置いて行かないで。
いい子になるから。
我が儘も泣き虫も全部封印するから。
だから背中を向けないで。
叫びは誰にも届かない。
いつまでも少女は恐怖に怯えている。
暗闇の中で自分を責めながら。
「ごめんなさい」
そう呟き、泣きながら。
置いて行かないで
叫ぶ声を聞いて
暖かい腕で抱きしめて
お願い
真っ暗な部屋の中
小さな箱で踊る白黒の犬
彼女の幼き子供達は純粋な眼差しで犬を追う。
何も疑わず何も疑わず。
最後の別れとも知らずに光を放つ箱を見つめる。
「私は買い物に行く」
そう言って彼女は家を出た。
もう二度と戻る事のない家を出た。
もう二度と会うことのない子供達を振り返る事もせずに。
ねぇ行かないで
置いて行かないで
私が悪い子だから?
私がいらない子だから?
私は生まれて来なければよかったの?
私がいなければお父さんとお兄ちゃんは不幸になることはなかったの?
聖なる雪の日。
真実を告げる電話のベル。
彼女は残酷な言葉を言った。
「息子だけなら育てるわ」
少女は聞いた。
その言葉を聞いてしまった。
少女は尋ねた。
「私は必要ない子供なの?」
沈黙がケーキの前に落ちる。
誰もその問いには答えなかった。
あぁ 神様。
私が生まれてしまったからこんなに悲しい世界になってしまったの?
私が幸せの空間を壊してしまったの?
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ねぇ 行かないで。
置いて行かないで。
いい子になるから。
我が儘も泣き虫も全部封印するから。
だから背中を向けないで。
叫びは誰にも届かない。
いつまでも少女は恐怖に怯えている。
暗闇の中で自分を責めながら。
「ごめんなさい」
そう呟き、泣きながら。
カシスオレンジ
橙色の悪魔の月が見下ろす街で、ありふれた喧騒が聞くともなしに耳をつく。
どこかに忘れ去られた10代中頃の純粋さは、闇の中で永久の眠りについているのか、この街では海に撒いた塩のように見つける事が出来ない。
この街に本当の愛はあるのだろうか。
偽りの、終わりが見えるゲームではない、ずる賢い駆け引きや見返りを求めない本当の愛は。
周りを見渡すと、何組もの腕を組んで歩く男女の姿。
飼い主とミケ
インディゴブルーの空が煌々と輝く月を掲げて眠る深夜。街すらも寝静まり雪の降る音が今にも聞こえてきそうな静けさ。
街灯と月明かりに照らされて真っ白な絨毯を歩くと、ギュッギュと少し不快な音がする。夕方から降り続いている雪は、今では気にならない程度に落ち着いているものの、一時は視界がなくなる程の吹雪だった。
「積もったねぇ」
白い息を吐きながら緩やかに微笑むこの男は、三ヶ月前からの大家さん。いや、『飼い主』という方がしっくりくるかもしれない。
「ミケは雪が好きですか?」
柔らかそうな前髪の奥の、柔らか目をこれでもかってぐらいに細くして楽しそうに歩く。
ミケとは、勿論私のこと。
「あんまり…」
踏み締めた時の不快な音、かじかんで動かなくなる指、だんだんと痛くなる耳。いいことなんか、見つからない。
コートの袖ごとポケットに手を突っ込んでグーの形に握りしめる。
「そうですかぁ。ならば、雪だるま大会ですね」
また意味のわからないことを。
コイツという人間は、頻繁に話を聞いていないんじゃないかと思える言動わ取る。
そういう時は大概聞こえていないフリを決め込むことにしている私はアパートの階段を注意深く見つめることに徹した。
後ろに倒れても、きっと支えてくれるんだろうけど、極力世話にはなりたくない。
これは、私の無駄なプライドと見栄。
「ミルクを沸かしてココアを入れましょうね、トナカイさん」
真っ赤な鼻と頬の私を見て微笑む。
暖かい部屋に入った瞬間に、幸せを感じられる私は単純なのかもしれない。
明日は晴れるといい。
コイツの言う『雪だるま大会』とやらに付き合ってやるのも悪くはないだろうし。
街灯と月明かりに照らされて真っ白な絨毯を歩くと、ギュッギュと少し不快な音がする。夕方から降り続いている雪は、今では気にならない程度に落ち着いているものの、一時は視界がなくなる程の吹雪だった。
「積もったねぇ」
白い息を吐きながら緩やかに微笑むこの男は、三ヶ月前からの大家さん。いや、『飼い主』という方がしっくりくるかもしれない。
「ミケは雪が好きですか?」
柔らかそうな前髪の奥の、柔らか目をこれでもかってぐらいに細くして楽しそうに歩く。
ミケとは、勿論私のこと。
「あんまり…」
踏み締めた時の不快な音、かじかんで動かなくなる指、だんだんと痛くなる耳。いいことなんか、見つからない。
コートの袖ごとポケットに手を突っ込んでグーの形に握りしめる。
「そうですかぁ。ならば、雪だるま大会ですね」
また意味のわからないことを。
コイツという人間は、頻繁に話を聞いていないんじゃないかと思える言動わ取る。
そういう時は大概聞こえていないフリを決め込むことにしている私はアパートの階段を注意深く見つめることに徹した。
後ろに倒れても、きっと支えてくれるんだろうけど、極力世話にはなりたくない。
これは、私の無駄なプライドと見栄。
「ミルクを沸かしてココアを入れましょうね、トナカイさん」
真っ赤な鼻と頬の私を見て微笑む。
暖かい部屋に入った瞬間に、幸せを感じられる私は単純なのかもしれない。
明日は晴れるといい。
コイツの言う『雪だるま大会』とやらに付き合ってやるのも悪くはないだろうし。