何時厨小説館 -3ページ目

タイトルなし

君に伝えたい事が
あと一つだけあるよ
遠回りしていつも
言えないでいるけど...

よく晴れた朝焼け
紫に染まる空に
何故かふと寂しさを覚える

それは隣にいない君が
他の誰かと知らない何処かで
同じ朝焼けを見ていると
そう思うから?

それとも君が隣にいない今が
自然と不自然になっている
幸せな空間に慣れてしまっているからかな

君は笑う
愛していると笑う
君は泣く
愛していると泣く

三人兄弟と

二重に閉められた分厚いガラスの窓を開けると、既に春の匂いがして。

胸いっぱいに吸い込んだら何だか少しだけ暖かい気持ちになった。

「さてと」

誰もいない図書室。夕暮れ時の今、窓から見えるグラウンドには運動部の生徒が点在していて、それぞれの活動に精を出しているのを見ると、高校の図書室にしては少し広いこの場所にいる私は何だか取り残されたような気分になっていた。

窓際の一番奥の机に座っていた私は、形だけ開いていた本を静かに閉じる。

太陽も西に沈みかけている。家に帰るにはいい頃合だろう。

去年の誕生日に父親に買ってもらった腕時計を見ると長針が6に届きそうな時間。

そろそろ帰らないと一昨日のような騒ぎになられても困る。

全く興味のない『薬草大全』という分厚い本を棚にしまい、胸ポケットに入れてあった鍵を取り出す。ここ一週間、私の安らぎの時間を与えてくれている図書室の鍵。

白いペンキが所々剥げている木製の扉を閉め、燻された銅色の鍵をノブに差し込むとカチリという手ごたえを感じた。

振り返って廊下の先を見ると、日が当たらない方角にしか窓がないせいかとても薄暗く、ただでさえ重い気分に重圧が加算されたよう。それでも立ち止まっているわけにいかないので重たさを吹き飛ばすように大きく息を吐いて職員室までの廊下を進む。

「失礼しまぁす」

軽くノックをしながらドアを開けると、担任であり図書委員の担当である吉沢先生がちょうど席を立ったところだった。

「鍵、ありがとうございました」

「お前まだいたのか」

鍵を返していないのだからいるに決まっているだろう。とは口に出さず、愛想笑いと会釈をして鍵を渡す。

吉沢先生は本人によると年齢よりも若く見える血筋らしく、40歳近いはずなのに女子生徒から未だ絶大な人気を誇っている。気さくで話しやすい性格は男子生徒からも友達のように慕われているそう。私はその「グレートティーチャー」な感じが少しだけ苦手なのだけれど。

「そういえばなぁ」

職員室を出ようと思ってドアを開けた時に吉沢先生が鍵板の前からこちらを振り返った。

「お前の新しい兄貴、ええと髪が短い奴な。あー、坊主の方じゃなくて、あの無造作ヘアー作ってます!みたいなやつ。あいつがさっき探しに来てたぞ」

「え」

「どうも隠れたいみたいだから、知らんとは言っておいたがな。校門で待ってるって伝えてとか言ってたような気がする」

「そう、ですか。わざわざありがとうございます」

題名なし

人は誰しもが個々の物語りを生きている。そしてそれは大概が悲劇で覆われ、観客席で見ている自分はその悲惨さに恍惚の表情で微笑むのだ。この世で1番可哀相なのは自分だと。

朝方に降った雨を連れて来た重苦しい限りなく白に近いグレーの空。なんでも南から台風が接近しているらしく空気中に澱む湿気が肌に纏わり付いて気持ちが悪い。深夜の仕事を終えてベージュのソファーに横たわり、煙草の煙を気怠く吸い込む私は見つめてくる二つの小さな真っ黒い瞳と対峙している。時間を忘れて見返していると、不意に毛むくじゃらな小さな獣がソファーに上がり口付けをねだる。どんなに疲れて柔らかなベッドの海に沈んでいる時も、この小さな分身は休息をすぐには許してくれない。私が21年間巧妙に隠し続けて来た寂しがり屋で甘えん坊な部分をそっくりそのまま受け継いだ我が家の同居人は愛らしく尻尾を振り、自慢の真っ白い胸毛を見せ付けてくる。まだ短い付き合いだけれど、それが撫でて欲しい時の合図だと知っている。そして一通り満足したらお気に入りの場所に帰って行くのだ。全く自由奔放な彼女は、友人から譲り受けた犬で一緒に生活を初めてからもう8ヶ月が経とうとしている。