何時厨小説館 -2ページ目

2011/07/16

「風の、声…?」

「そう。この島の風はとても優しい声をしているの。貴方には聞こえる?」

まだ7歳だった僕の背丈は彼女の腰くらいで、彼女は屈んで僕を覗き込んだ。

その顔が、あまりにも綺麗で。
僕が知っている母さんや島の人なんて、同じ生き物じゃないんじゃないかって思えるくらいに一度見たら忘れられないくらいに整っていた。

呆気に取られて動かなかった僕を見て答えを「NO」と判断したのか、彼女は自分にしていたように僕の耳に手をあて、もう片方の手で唇を押さえた。

「静かにしてて」

目を閉じた彼女に倣って、僕も同じようにすると、今まで気にしてもいなかった自然の音が頭に直接響いてくるように感じた。

遠くで波が岩にぶつかって弾ける音。楽しそうな鳥の囀り。梢が触れ合う音。そして、風の音。

意識しなければ通りすぎていってしまう音の魂が僕に囁いているような、そんな不思議な感覚すらある。

「聞こえた?」

しばらくの沈黙を柔らかい声で破った彼女は、「私もこの島に生まれたかった」と呟き、僕の頭を撫でた。

「なんで?退屈だよ。こんな小さい島」

「そうね。でもお姉さん、退屈が好きみたい」

「変なの」

「冒険者なんて、みんな変よ」

「そうなの?なんで?」

最後の僕の問いは、空に吸い込まれたかのように宙に消えた。

言葉は確かに発したのに、彼女の耳には届いていないようで、そして何故だか少し寂しそうに笑う彼女の笑顔で、僕はそれ以上何も言えなくなった。

「明日も来る?」

立ち上がり、背伸びをして彼女は歩き始める。

「………たぶんっ!!」

少し遅れて返した僕は、多分じゃなくて絶対来ると心に誓った。

MAO物語(仮

僕の大切な女性(ひと)が死んだ。

あの人の髪の色ような澄んだ青空の下、コスタから帰って来た母さんがくしゃくしゃになって汚れた手紙を僕に渡してくれた。
母さんの顔も涙でぐしゃぐしゃで、僕は差出人の名前を見た時にだいたいの事態を無言で把握した。

「必ず帰ってくるからね」

そう僕の目をまっすぐに見つめて頷いたあの日、僕はまだ7つで、でもなんとなく、それが最後になると悟っていた。

タイトルなし

花は咲き乱れる
むせ返る香りの中
腐敗してゆく君の
匂いだけは隠せぬまま

「愛してくれれば
よかったのにね…」
紺碧の闇に放つ
言葉は意味を持たず
「愛していたのに
届かないから…」
ねぇ貴方の温かい命で
この白い手を紅に染めて…

見えなかった虚空の世界から花びらが落ち
その色とりどりの魂が繋ぎ合わさり虹になるでしょう
私の中に生きるのは滴る蜜を吸いつくす蝶
醜い火傷を負った