身体の不自由さ、病気、人との別れ。
「失う」体験がどうしても増えてしまう高齢期でも、生き生きと生活を続けるための考え方として、SOC理論があることを昨日書きました。
SOC理論の肝は、「今の自分を受け入れる」という点にあります。
例えば昨日のAさんが、視力の低下によって今までのように絵を描けない現実を受け入れることが出来なければ、SOC理論の最初の手順である「今の状態に合うように目標を下げる」に到達することが出来ません。
目標の再設定が出来ないということは、新たな道を探すことも出来ず、かといって今までのような絵が描ける状態に戻れることもなく、重苦しい気持ちを抱えたままになってしまいます。
Aさんが「今の自分には出来ないことがある」と受け入れた時、「それならどうやって人生を楽しもう?」という視点が生まれるんですね。
さて、SOC理論は高齢期の人を対象としていますが、「今の自分にあった生き方をする」という意味で捉えるなら、すべての年代の人に応用することが出来る考え方です。
人というのは、つい「一番良かった自分」や「理想の自分」「他人」と今の自分を比べてしまいがちです。
そして、落ち込んだり、「どうしたらこの状況から抜け出せるか」悩むことばかりに一生懸命になって、「今の自分で生きる楽しみ」なんて視点を持てなくなってしまいます。
もちろん、現状の不満をエネルギーに変えて、理想通りの自分になれる人もいるでしょう。
でも決して、持っていない自分や失った自分、足りない自分のままでいることが悪いということではありません。
それを受け入れられずにいると、喪失の連鎖につながって、どんどん「喜びのある人生」から遠ざかってしまうというだけ。
だから、まずは今の「満足とは言えない自分」をよく見てあげて、今の自分にあった目標や暮らしを考えます。
その上で、SOC理論に則って、
今の自分にも出来ることはなんだろう?
今の自分でも出来る工夫は何だろう?
どんなサポートがあると良いだろう?
こんな感じで「今の自分で暮らせる仕組み」を組み立てます。
他人や理想の自分にピントを合わせて今の自分を「無価値」と考える時、人は自分と向き合うことが出来ていません。
もし、歩けなくなった人のそばに立って、「これじゃ趣味の散歩ももう出来ないね、あなたは終わったね」と声をかける人がいたらすごく腹が立ちます。なんて意地悪なんだろうと思います。
「今の自分を受け入れない」というのは、そんなイメージ。
(出来ない自分にイライラしている人は、自分を見捨てようとする自分がいるからかも。)
理想の自分、昔の自分、身近な他人…誰かと自分を比べてしまった時、「自分には○○がない」と突き放すのではなく、そんな自分と歩幅を合わせるようにしてみるとよいかもしれませんね。
*このブログは毎日19時に更新されます
当カウンセリングルームに所属する、女性カウンセラーの情報はこちら