大阪教育新聞7月号の子どもと絵本を結ぶVOL.167で『字のないはがき』を紹介させていただきました。
初めて読んだとき涙が止まりませんでした。大好きな絵本です。先日ある場所で子どもたちに朗読させていただきました。
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『字のないはがき』
向田邦子 原作 角田光代 文 西加奈子 絵 小学館
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(以下、掲載文です。)
二大作家による珠玉の一冊
戦争がどんどん激しくなったころ、たくさんの子どもたちが親元を離れて疎開しました。とうとう一番小さな妹も疎開することになりました。お父さんは「元気な日は、葉書に〇を書いて、ポストに入れなさい」と言い、数えきれないほどの葉書を持たせました。遠足にでも行くように嬉しそうに出発した妹だったが……。
書店で初めて本書を目にしたとき、表紙のたんぽぽの絵に引き寄せられて、手に取りました。絵の中のたんぽぽは「ちいさな妹」を象徴しています。「ちいさな妹」は向田邦子さんの一番下の妹・和子さんのことです。その和子さんのご指名で二〇一九年に絵本化が実現しました。原作「字のない葉書」は、戦争時代の向田邦子さんと家族との思い出を綴ったエッセイで(『眠る盃』所収)、国語の教科書にも収録されているためご存知の方も多いでしょう。
文は『紙の月』『八日目の蝉』などの著者・角田光代さん。大の向田邦子さんのファンとして知られています。インタビューで、角田さんは、「向田作品の色や音や味を損なわないために、脚色しない、余計な言葉を使わないなどの決め事をした」と話されています。いつも厳しいお父さんが、疎開先から帰ってきたやせ細った末の妹を抱きしめて泣く場面にのみ「おおん、おおん」と嗚咽の声を足したそうです。
絵は『サラバ!』『さくら』などの著者・西加奈子さん。画家としても活躍されており、クレヨンで描かれる草履やかぼちゃの絵はどこか寂し気で、読者の想像力をかきたてます。大胆な構図と伏線をもった構成は目を見張るものがあります。本書では人の姿がほとんど描かれていませんが、人気(ひとけ)を感じさせる生々しさがあります。初めて読み終えたときに、心揺さぶられ言葉にならない感情とともに目に涙があふれました。
戦争のお話ですが、直接的に言葉にされている訳ではありません。向田さんのご家族が互いを思いやる気持ちと父親の愛情深さが文と絵に表されています。親子で読んでいただきたい珠玉の一冊です。
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