前回の続きです。もしかしたら”その3”まで行くかも知れませんが、もう少しお付き合いくださいませ。


④クラヴィコード


クラヴィコード
Ch.G.Hubert(1770年代製の復元楽器 深町研太製作)F1~f3
キーの後端についているタンジェント(真鍮片)が弦をたたいて音を出し、キーを押している間は弦を押し上げたままになるので、ヴィブラート(ベーブング)をかけることができる。絶対音量は小さいが、表現力の豊かな楽器。繊細なニュアンスを生む良いタッチ習得にも最適。

 

 

小倉さん所蔵のクラヴィコード。音量はとても小さいですが、表現力がバツグンに豊かだと感じます。繊細で壊れそうなのに、美しく音が響きます。弾き手の心をそのまま反映するような楽器です。モーツァルトも演奏旅行に常に持ち歩いていたというのもうなづけます。コンパクトなだけじゃなくて、作曲家としての創造力をより深めてくれる楽器だったのではないかと思います。

今回は私はこの楽器を弾きませんでした。7月初旬に小倉さんご自宅講座「フォルテピアノ講座 ピアノの歴史と奏法について」に行った時にミニレッスンで弾かせていただいたので。でもこの楽器、欲しいなぁ。すごく魅力的なんですもの。いつまでも弾いていたい、そんな楽器なのですもの。

 

↑金属片(タンジェント)が縦に並んでいるのがわかりますか?マイナスドライパーのような先端部分が、弦と接して音を発します。指先が鍵盤を押している間中、タンジェントと弦が接しているのでその時に鍵盤を微妙に上下運動させると、ヴィブラート(べーブング)がかかります。鍵盤楽器で唯一ヴィブラートがかけられる、面白い楽器です。

 

本体右の部分。ここは共鳴箱になっています。響板は柾目で美しく、音をのびやかにするための工夫と知恵が詰まっています。

 

↑クラヴィコードの打弦機構。とっても単純です。しかし単純故に、弾き手による演奏の差が出やすいと感じます。


↑このクラヴィコードは、太田垣至さん製作。

受講生のための練習室へ行ってしまったので、画像はこの一枚だけです。



⑤ヴァルター

A.ヴァルター
Anton Walter(1795年製の復元楽器 C.マーネ製作)F1~g3    
ウィーン式(跳ね上げ式)アクションのフォルテピアノ。
ウィーン古典派の巨匠モーツァルトやベートーヴェンに支持されたフォルテピアノ。膝レバーによるダンパー解放装置と、弦とハンマーの間に薄い布を挟み込み音色を変化させるモデラートが付いている。ハンマーヘッドは鹿革で、鉄弦と真鍮弦(低音域)が木製のケースに弱い張力で張られている。軽いタッチ、明快な発音、倍音の豊かな音色が魅力。    

 

 

小倉さん所蔵のヴァルター。いつもこの楽器から、小倉さんは美しい音色を私たちに届けてくださいます。今回のオープニングコンサートでも、レッスンでも。そしてこれまでの演奏会で何度も、そしてCDでも。小倉さんが演奏すると、ヴァルターは楽しそうに語り始め、生き生きと歌いだし、柔らかに優しく時に力強く音が響きます。

 

休憩時間の様子。手前の楽器たちで受講生はレッスンを受けます。奥の椅子がたくさん並んでいるところで私たち受講生がレッスンやコンサートを聴きます。10時から20時すぎまで。幸せなカンヅメ状態です。

 

ヴァルター、楽器自体も本当に美しい。そして長くて大きい!(当たり前ですが)

 

高音部は一音に対して3弦、中音域は2弦。鉄製と真鍮製のものを使っています。

 

 


ヴァルター近影。製作者である、クリス・マーネの刻印入り。このヴァルターだけではないようですが、鍵盤に注目すると幹音部分より派生音部分が長いですね。これは奏法にも関わる重要な情報です。モダンピアノのようなタッチコントロールでは、この楽器から良い音は出ないんです。今回私は初めて弾かせていただきましたが、いったいどうやったら小倉さんのような自由な音色が出せるのか、難しすぎてさっぱりわかりませんでした(^_^;)。そ~っと弾いただけでは”音色”にはならないし、モダンでやるように「だーん!」と弾いてしまったら楽器が壊れてしまう。


鍵盤の深さはたった5mmです。モダンは1㎝ですね。ということは、普段弾いている感覚の半分の深さの中で表現しなければならない。非常に繊細なタッチコントールが求められるわけです。膝レバーが左右に付いており、右レバーはダンパーを操作、左レバーはモデラートがかかります。身体の動きをコンパクトに、しかも下半身はレバーを操作するので支えをどこにしたらよいのか…グルグル考えながら弾いてもつまんない音しか出ないし、でも何も考えなしに弾いたら”音”にもならない。
 

ウイーン式アクションは、イギリス式と反対方向にハンマーがついています。そしてハンマーは鹿革で小さな筒状、とても小さくて軽い。シングルエスケープメントなのでモダンとはそこにも違っていて、指先と耳でコントロールする能力がハンパなく要求されます。

 

↑見よ!この悲壮感漂うワタシの表情を!(笑)

ベートーヴェンの悲愴ソナタの第二楽章を弾いたのですが、ワタシの音はなんと美しくない音なのだろうか。

小倉さんは、横でうんうんと聴きながら、体験コーナーで少しの時間だけ弾くわたしにもアドヴァイスをくださいます。どんなにへたくそでも、小倉さんは大きな心で受けとめてくださいます。

 

膝レバー、足の裏全体でいつも支えてモダンを弾いている私には、このかかとをあげて膝を上下運動させるなんて~なんという頼りなさ。ヴァルターの鍵盤は、打鍵しているのにどこが良い打鍵ポイントなのか上手く掴めません。もうアタマの中は大パニックを起こしています。…でも、楽しい。なんという素晴らしい体験だろう。


さて、ここでえみちゃん(中嶋恵美子先生)に登場していただきましょう。受講生は20時~21時に会場で練習できます。私は練習風景にもすごく興味があったので、弾いている時の写真を撮らせてもらいました。


小倉さんに個人レッスンも受けているえみちゃん。

「小倉さんのレッスンでね、せっかくヴァルターを弾くコツが少しわかっても、家に帰るとモダンでしょ?もうねェ~」…と、よくこぼしていますが、私にも今回その気持ちが少しわかりました。

でもさすがえみちゃん。今回受講生として毎日レッスン受けているし、すごく姿勢がきれい。音も素敵。

 


さてみなさま、画像をよーくご覧くださいませ。ウィーン式アクション(跳ね上げ式)のヴァルター、ペダルは無くて膝レバーが付いていると説明しましたが、右膝でレバーを操作してダンパーを動かします。左膝のレバーをあげると、モデラートがかかります。

 


上体だけでなく、下半身の支えも不安定で体の動きが制限されますが、うまくコントロールできれば良い音が出ます。

 

 

~ここで、デュルケンのご紹介を~
☆デュルケン(受講生用練習室へ行った楽器2台のうちの1台です。もう一台はクラヴィコード。)

初日、製作者の太田垣さんが調律されていました。

この後受講生用の練習室↓へ。


J.L.デュルケン
Johan Lodewijk Dulcken(1795年製の復元楽器 太田垣至製作)5オクターブ
ウィーン式(跳ね上げ式)アクションのフォルテピアノ
ウィーン古典派の巨匠モーツァルトやベートーヴェンに支持されたフォルテピアノ。膝レバーによるダンパー解放装置と、弦とハンマーの間に薄い布を挟み込み音色を変化させるモデラートが付いている。ハンマーヘッドは鹿革で、鉄弦と真鍮弦(低音域)が木製のケースに弱い張力で張られている。軽いタッチ、明快な発音、倍音の豊かな音色が魅力。   



⑥ブロードウッド


J.ブロードウッド
J.Broadwood製作のスクエア・ピアノ1814年製 オリジナル F1~c4
イギリスを代表する製作家。ハイドン、ベートーヴェン、クレメンティ、ショパンなどに愛用された。スクエアピアノは19世紀初頭のフォルテピアノ普及に大きく貢献。

 



ブロードウッド(スクエアピアノ)オリジナルを、太田垣さんが修復されました。コンパクトなフォルムですが、大変豊かで美しい響きのするフォルテピアノ。ダンパーが完全には音を遮断しないので、音の余韻が楽しめる楽器。ちなみにダンパーペダルは左前方から斜め前に向かって付いています。

ハンマー、見えますか?この時代のハンマーはフエルト巻きです。現代のものよりも小さいですね。縦じゃなくて横向きなのが面白いです(わからなかったらすみません=安子目線)。

 

スクエア(四角)に収めるために、パーツをどう組むかなど本当に良く考えられています。できあがった形を観るのは簡単だけれど、どの楽器もそうだけれど、そこに至るまでの過程は膨大なものだったに違いありません。作り手は優れた演奏家とともに、より良い楽器を生み出す努力を、苦労を惜しまなかったんですね。非常に尊いことだと思います。

 

共鳴部分。なんとこの響板の中に、どこかの時代で改良されてしまったらしく引き出しがついていたとか。(太田垣さん談)

オリジナル楽器を修復するというのは、きっと新品を生み出すのよりも大変なのかも知れないですね。長く生きて来たピアノであればこそ、途中で修復や改造の手が入っているわけで(入っていなくて野放しのもありそうですが)、それをもとの状態を考えながら直さなくてはならない。製作者であり、修復家である太田垣さん。どれだけ時間と手間をかけてそれらを行っていらっしゃるのでしょう。気が遠くなります。

 

 

ハイドン/ソナタ第35番 第2楽章より、冒頭の1ページを。

いい音色だなぁ~。この楽器の時は少し音色を味わうことができました。モダンに近いからでしょうね。でもシングルエスケープメントですし、もちろん他のどの楽器とも個性が違うので、コントロールの難しさはもちろんありましたけれど。

 

「そうね、例えばこうしてみたら?」と小倉さんがワンフレーズ弾いてくださいます。…なんと魅力的な音! どうして個性の違う楽器と一体になって瞬時に対応することができるのでしょう。小倉さん、さりげないのにすごすぎです。ため息しか出ません。豊かな音色、でもトリルはクリアな音で細やかに、即興もさらっと入れていらっしゃいます。

体験時間は一人6分間。この日はこの一台のみに6分を使って弾きました。ほかの方は一台ずつ全部とか、少しずつあれこれ~の方が多かったかな。私は3日間通い詰めたので、クラヴィコードをのぞく楽器をどの曲でどう弾こうかと事前に少し計画を立てていました。




ここで再度登場していただきましょう。えみちゃんが弾いているとき私はカメラマンに徹することができるので、より楽器の様子が良く伝わるかと思います。えみちゃん、ブロードウッド(スクエアピアノ)で練習中。

みなさま、画像をよーくご覧くださいませ(*^ω^*)。

ダンパーペダルが左奥から斜めに設置されております。お分かりでしょうか。

 



フォルテピアノは一台一台みんな個性も特性も違うんです。ですから、楽器が多様で柔軟性に富んでいるなら、奏者も柔軟な対応ができないと演奏が難しいんですね。それを、水を飲むように自然におできになる小倉さんは、やっぱりすごいと思うんです。ここまで何度も私が力説するのは本当に魅力的だからです。まだ小倉さんの演奏を聴いたことがないかたにとってはアレかも知れませんが、生の演奏にはなかなか触れられなくてもCDやDVDが出ていますから、ぜひお聴きください。

やはり作曲家それぞれに生きた時代の楽器の演奏を、しかも優れた演奏を聴くことは、現代のピアノを弾く時の意識も変えることに繋がると思います。私たちにとってはモダンピアノが世界の全てのような気持ちでいますが、本来このような楽器たちを使って作曲や演奏をしていたのだと感じることができたなら、私たち指導者自身の演奏だけでなく、生徒への伝え方も少し変わってくるかも知れません。
フォルテピアノって難しいけれど、面白い。そして奥深いのです。

今回のアカデミーで、ほんの少しそういう世界を知ることができました。次回も楽しみにしています。

 

長らくお付き合いくださいまして、みなさまありがとうございます。

あっ、でもまだレポートは続きます。どうしてかというと、中嶋先生が今私たちの演奏動画を編集してくださっているので。

恐らく私の…(;^ω^)…身もだえながら美しくない音を出している動画も入っていると思いますが、それも一つのヘタッピ事例ということで受け止めていただけたら、それで構わないです(笑)。

もう少々お待ちくださいませ。

 

☆フォルテピアノ・アカデミーSACLAのHPはこちらから♪

 

 

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