なぜいま「物語」求められているのか(4) ~ オールタナティブストーリーの創造性が求められてきた | チエでつながる, ワザでつながる、ココロでつながる、価値を生みだす           ~ 物語思考が世界をかえる

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この世に生まれて間もなく、人は「ものがたり」と出会い、そこで広い世界とのつながりを作ります。このblogでは、「ものがたり」と共にある人の可能性を探求していきます。

 

 

 

 

 

 

 

知り合いのあるお医者さん(Sさん)の話です。 

 

高校時代に体操をやっていて、インターハイで入賞。

オリンピック出場の夢を持っていたが、

練習中のケガで引退を余儀なくされたそうです。

 

引退後は何もやる気にならず、こんなんじゃ生きてても仕方ない、

と抜け殻の様な毎日を送っていたそうですが、

 

癌で余命1年余と宣告された人が、生きた証を残したいと、

詩の勉強を始めた、という話をたまたまテレビで見て、

一念発起。

“医者になる”という目標を定めて勉強を始めました。

 

結果は第一志望ではなかったものの、私大医学部に合格。

そんなきっかけから医師への道を踏み出した、というお話です。

 

癌宣告からの余命を力強く生きた人の話を聞いて

Sさんに起きたことは、

 

現在=絶望、 その先=真っ暗, という状況から

 

現在=試練、 その先=頑張った先のご褒美が見えてきた

 

という変化です。

 

それまでの自分が受け入れていた自己物語から、

新たな自己物語へと

生きる物語がこの時に変化した、と言うことができます。

 

実はSさんが辿った新たな物語は、「英雄物語」と言われる、

世界中の神話等に見られる共通のパターンに合致しているものです。

 

英雄物語の典型的な型は、

 

安定→ 安定の崩れ→ 旅立ち→ 試練→ 闘争→ 勝利(英雄化)

 

というもので、Sさんのケースでは「ケガ」が“安定の崩れ”に、

「医学部挑戦の決意」が“旅立ち”、に当てはまります。

 

私たちに馴染みの“桃太郎”の話も、

村がオニに荒らされていた=安定の崩れ、

鬼ヶ島に鬼退治に出かけた=旅立ち

という具合に、この型に沿って捉えることができます。

 

様々な研究から「英雄物語」は、

人間の想像力やエネルギーを高める効果を

持っていることが知られており、

私たちが人生の転機に立った時などには、大きな支えとなる

可能性を持っています。

 

私たちは普段、日常を疑うことなく受け入れていますが、

実は無意識に、

ある世界観や因果で結ばれた物語の中に生きています。

 

そしていつの間にか、その物語の設定の中でしか

モノゴトを考えることが出来なくなっています。

 

新しく来た上司が嫌な奴だった、という現実に、

自分は何て運が悪いのだろう、という視点で捉えがちです。

そこで思考がストップしてしまい、憂鬱になったりします。

 

ストーリーテリングの領域では

こんな風に、知らず知らず自分が受け入れている物語を、

「ドミナントストーリー」と呼んでいます。

 

自分は運が悪い、と状況の変化をネガティブに捉える視点や

Sさんが最初に陥っていた視点は、これにとらわれたものです。

 

これに対し、その枠から外に出て別の視点で描いてく物語は、

「オールタナティブストーリー」と呼ばれます。

 

「英雄物語」の視点を得ると、やってきた嫌味な上司は、

未来を切り開くために乗り越えるべき試練となったり、

 

来るべきより大きな困難に立ち向かうために準備された

重要なヒントや学習機会と、

新たな意味を持って捉えられることになります。

 

こんな風に、自らオールタナティブストーリーが描けると、

多様な未来イメージの描写が可能になり、それは当に

多様な視点で現実を捉えることに繋がります。

 

「英雄物語」は、

「オールタナティブストーリー」を描いてく為の有力な方法の一つ

ですが、他にもいくつかの方法が知られています。

 

こうした方法は、“人生”の様な次元で勿論大きな威力を

期待できるものですが、

仕事や趣味、スポーツの領域でも活用が可能なものです。

 

多様なオールタナティブストーリーを描く能力を高める事、

そのために、物語の思考術により深く習熟していくことは、

多くの現代人に求められてきているのだと思います。