インターネットが仕事の知に、
どの様な変化を起こしているのか?
今日は、新入社員が始めて仕事を覚える際に
起きていることを探りながら、
このテーマに迫っていこうと思います。
今も多くの職場では、
まず上司や先輩が仕事のイロハを教え、
新人を徐々に実践の世界に導いています。
新人はそこでトラブルに出会ったり、ミスで叱られたり、
分からないところを聞きまわったりしながら成長していく、
という展開が最も一般的です。
このパターンは、
多少仕事に慣れてからも暫くは保たれます。
ただ内容によって、
また新入社員が徐々に仕事に慣れてくるにつれて、
ITの活用、とりわけ”検索”を徐々に駆使し始める傾向が、
昨今はっきり出てきています。
つまりネット空間にある色々な関連情報を引き出して、
業務を効率化したり、
見通されるリスクを事前に確認したりと、
実務経験が浅い新人であっても
ネットにはしきりにアクセスし始めるのです。
当然ながらこうした行動は、
組織にも実践する本人にもプラスです。
ただ一方でこの状況は、上司や先輩から提供された知が、
精度不明の多くの外部情報の中で
相対化される現実も生み出すことになります。
ネットに現れる知は玉石混交ですが、
効率を高めるプロセスや、より安全な方法など、
実用に耐える工夫が溢れているのも事実だからです。
大量に入る外部情報との比較の中で、
先輩の方法が陳腐に見えたり、
自社のシステムが時代遅れに感じられる事態は、
今や避けられなくなっています。
こうした状況は、
学校を卒業して新たに社会に入ってきた人たち、
すなわち社会化の初期段階にある人たちに、
”集団的”より”個別的”に仕事の知を発達させる方法を
定着させていきます。
組織から提供される知と、
自らネット空間で拾い上げた知とを現実に適用させながら、
自身の知識体系を構築し始めることは、
まともな実践者にはごく自然に起きることだからです。
そして実は、ここで困ったことが起きてきます。
それらのアプローチが普通のこととなるにつれて、
組織内の協働の仕方や特有の管理手法に関する
組織独自の経験的な知までが、
相対化されてしてしまうことです。
今日のネット空間は、
マネジメント論、組織論、リーダーシップ論に溢れており、
方々で紹介されている”成功の秘訣”が、
目前で展開している現実より上位のものとして認識される傾向が、
どうしても起きてしまうのです。
かつての組織の管理職 – 部長とか課長といった人たちは、
その組織特有のパースペクティブを、
比較的長い時間をかけて身に着け、
それが一定水準にあると認められて、
ポジションを任せられたものでした。
それが昨今は、パースペクティブの独自性が薄められ、
外部にある”成功事例”や”勝ちパターン”などを基準に
行動を迫られる傾向が強まってしまいました。
気の毒にも現在の管理職は、
外部で言及されている理想形との比較の下に、
多様な敵と戦って、頑張らざるを得なくなってきたのです。
ここで言うパースペクティブの変化とは、
情報環境の変化と殆ど同義です。
かつての組織人は、その組織に特有の情報環境に囲まれ、
有形・無形のオリジナルデータベースを駆使できる熟達度合いが
ポジションに連動していたものでした。
インターネットの普及は、
かつての情報環境の基盤にあった部分を崩してしまい、
働く一人一人を外部に広がる広大な知と結び付け、
仕事実践の空間を決定的に変えてしまったのです。
そして更に厄介なことに、
その変化は働く一人ひとりに根本的な変化を起こし始めています。
かつての日本企業なら当たり前にもっていた
”集団的アイデンティティー”が急速に弱体化している現実です。
組織特有のパースペクティブ、モノの見方、考え方の共有
という現実こそが、
ほかならぬ”集団的アイデンティティー”の
ベースを形作っていたのですが、
今やその根底部分が、崩れてきてしまったからです。
”集団的アイデンティティー”
(=集団の中で合意をとるための知のデータベースの共有感覚)は、
何かを判断したり、意思決定したりする際の基盤となっていたものです。
21世紀の社会人は、この”集団的アイデンティティー”を
育てることが難しくなってきており、
それに代わる個別アイデンティティーの構築が課題となってきています。
そしてこのことこそが、今の組織が直面している
困難の本質なのだと、私は考えています。