東京国立博物館(以下、東博と略記)に、京都の六波羅蜜寺が所蔵する名仏たちが、こぞってお出ましになっている。

3月1日~5月8日まで開催中の特別展「空也上人と六波羅蜜寺」。

この展覧会で拝観して来た名仏たちを何躯か、何回かに分けて紹介していこうと思う。

 

まずは何といっても、展覧会タイトルにも冠される空也上人の像である。

※以下、写真は全て展覧会図録より

肖像彫刻の傑作中の傑作!

「南無阿弥陀仏」の六字を表す小さな阿弥陀像を口から出して、念仏を唱える様を視覚的に表現するという、インパクト絶大なルックスの本像であるが、わたし個人としては、きわめて写実的なディテールに、最も魅力を感じた。

 

やや腰を曲げ、顎を突き出すようにして、念仏を唱えながら市井を歩き回る「市聖(いちのひじり)」のリアルな姿。

首から鉦を下げ、それを叩くための撞木を右手に、鹿の角のついた杖を左手に持ち、左の足を一歩前に踏み出している。

このポージングがまず絶妙である。

そして、声を嗄らして念仏を唱え続け、民を救済しながらも、どこか世を儚んでいるかのような、憂いを帯びたような表情をしている。。

そこがまた堪らない。

半分閉じたような目の部分から覗く、ややくすんだような風合いの玉眼が、これほど効果的に機能している像というのも、そうはないのではないかと思われる。

憂愁を湛えた玉眼だ。

後ろ姿もいい。

衣の裾のところにクシャクシャっと皺が寄っている。

歩き疲れて、しばし軒先に腰を下ろし、一休みされた際に、ついた皺に違いない。

仏教彫刻では表現されることは稀だろう足下の草鞋も実にリアルだ。

浮き出るくるぶし。

浮き出るという点では、ノドボトケや襟元から覗く鎖骨や肋骨、手や足の甲の血管なんかも見事に表現されている。

細かなところまで一切手を(気を)抜くようなことはなく、丁寧に丁寧に作り込んである。

「神は細部に宿る」という言葉があるが、まさに本像は、こうした細部の表現にこそ、名仏の名仏たるゆえんがあるんじゃないかと気付かせてくれる像。今回改めて拝観させて頂いて、強くそんな風に思った次第だ。

 

【拝観の記録】

木造空也上人立像/国指定重要文化財/京都・六波羅蜜寺所蔵

鎌倉時代・13世紀/康勝作/像高:117.0㎝

木造・彩色・玉眼

拝観日:2022年3月10日

於:東博特別展「空也上人と六波羅蜜寺」