「こちらどうぞー」
寒空の下、頑張って働く中年から何かを貰って次の店へ。
宴もたけなわ、終電過ぎて、帰る手段はタクシーのみ。そんな時、俺はポケットに入れた先ほど貰った何かを見た。
「タクシークーポンか。ラッキー」
デカデカと書かれたクーポンという文字と電話番号を見て、俺はすぐにそこへ電話をかけた。待つ事十分。待てど暮せど呼んだタクシーは一向に来ない。クーポンを配ってたから師走な忙しさになっているのだろうかと考えた。
さらに待つ事二十分。流石に限界と、俺は別のタクシーを止めて家へ帰る事にした。
「ン? 何だこの匂いは」
珍しい匂いがまず鼻をくすぐった。この辺りじゃ嗅いだ事の無い匂いだ。が、そんな事はどうでも良かった。千鳥どころか万鳥足になって、ぐでんぐでんになっていたから。
一人やもめの寂しい独身御殿のご到着と家のドアを開ける。
すると聞こえるのは心地よい波の音。家に入って一歩、ザッと聞こえた砂の音。見た目は常夏、気分は南国。
玄関開けたらすぐさまビーチ。
「これがほんとの宅seaってか。喧しいわ!!」
すぐさま電話をかけて部屋を元通りにさせたが、部屋が戻るまでの数時間、俺は冬の海のような虚しさを胸に、震えていた。行き場所が無くて。
終わり