250 暗いこ | 鰤の部屋

鰤の部屋

数年の時を経て気まぐれに更新を始めたブログ。
ネタが尽きるまで、気が済むまで更新中。

 うちのクラスはいつも賑やかだった。学級崩壊みたいな感じではなく、授業も楽しく、学校が終わると物凄く寂しくなって、朝起きると一分でも早く学校に行きたいと思わせるような、そんなクラスだった。
 他のクラスの奴はいつも羨ましそうにしていて、うちらはいつもそんな声を聞いては誇らしかった。
 でもそんなクラスの中に、いつも一人だけ居るのか居ないのか分からない子が居た。
 学校に居る時はいつもその子の事なんて頭から抜けてしまうのに、学校外ではふとした拍子に頭の中にその子の事が浮かぶ。多分、あのクラスの中に居てただ一人浮いている存在だから印象が強いのだろう。
 でも、学校外でその子の事を思い出すといつも不思議に思う。なぜ彼女はあのクラスに居て日陰者みたいな位置に居るのかと。
 別にいじめられているとかはぶられているという訳じゃない。耳に入れたくない下品な話をするでもなく、誰かを蔑んで笑うという事も無い、あのクラスの中であの子だけが本当に浮いていたのだ。

 楽しい学校生活を送るある日、朝礼の時に先生がいつもクラスで浮いている子を前に呼んでこう言った。
「えー、彼女は今日で転校することになりました。クラスメイトが一人居なくなってしまうのは寂しいことですが、笑顔で見送ってあげましょう」
 全員がこの時の先生の言葉で始めてその子が転校する事を知った。あまりにも突然の事で、送別会をする準備も無い。けど、話を聞いた時、クラスの全員が何かしてあげたいと顔に書いていた。
 今出来る事はエールを送る事だと、一人の生徒がその子に言葉を送ると、俺も私もと一言ずつ言葉を送っていた。
 珍しくクラスはしんみりするかと思いきや、一時間目が始まると、さきほどまでの空気はどこへやら、いつもと変わらないクラスに戻っていた。

 その翌日。あの子が居なくなってからクラスの雰囲気が変わってしまった。以前の太陽みたいに明るく、楽しくて、他クラスから羨ましがられていた姿はもう無い。他クラスと変わらない普通のクラスになってしまったのだ。
 あれほど毎日授業を楽しく感じ、学校が終わるのを惜しく思い、朝に一分でも早くと心をはしゃがせていた生徒の姿はもう無いのだ。
 変わり果てたクラスを見て、一つ思う事がある。こんな風になってしまったのは、あの子が転校してしまってからだった。あの浮くほどに暗かったあの子が、クラスメイト全員の暗い部分を全部、倉庫みたいに溜め込んであの雰囲気を生み出していたのでは無いかって。代わりに自分が暗くなってしまったんじゃないかって。

 数年が経って、大学で昔話をすると何人かの子が似た経験をしたと話してくれた。
 あの子はきっと、今もどこかで集団を明るくしている事だろう。そんな気がする。


終わり



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